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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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対策会議

「まだ何もしていないというのに、もう勝ったかのように騒ぎおってからに……カカカ、まあよかろう。では具体的な作戦の内容について説明するのじゃ」


「おう!」


 ディアの言葉に、剣一達が姿勢を正して聞く姿勢をとった。するとディアが満足げに頷いてからその口を開く。


「今回のコンセプトは、一撃必殺じゃ! ウロボレアスがこの世界に入ってきた瞬間にケンイチの攻撃を叩き込み、それで決着をつけるというものじゃな」


「おおー! 何だよ、スゲーわかりやすいじゃん!」


「なるほど。敵がこっちのスキルを無効化してくるなら、その前に先制攻撃で倒しちゃうってことですか」


「うんうん、それなら安心だねー」


 ディアの言葉に、剣一、祐二、愛の三人が納得の笑みを浮かべる。しかしそこで声を上げたのがアリシアだ。


「待ってドラゴンさん。先制攻撃で倒すっていうコンセプトはいいと思うけど、それって敵がいつ何処から攻めてくるかわからなかったら無理じゃない? その辺はどうするの?」


「うむ、いい質問じゃな。無論そこも考えてある。まずウロボレアスがこの世界に入ってくるタイミングじゃが……これは奴の総エネルギー量が莫大なだけあって、感知はさほど難しくないはずじゃ。


 じゃが逆に、反応が大きすぎるせいで細かなことはわからぬ。そろそろ奴が来そうかな? となったら、即応体制で待ち続ける必要があるじゃろう」


「ふーん。まあ不意打ちを受けないってだけでも十分そうね」


「でもそれだと、剣一さんの負担が大きすぎませんか?」


 それなりに納得した表情をするアリシアとは裏腹に、英雄が心配そうな顔で剣一を見る。


「俺? あー、どうなんだろ? そんなずっと警戒してたことなんてねーから、やってみねーと何とも……」


「そこは頑張って鍛錬でもするのじゃ。お主がどの程度の時間集中していられるかが、この作戦が成功するか否かの分水嶺じゃからな」


「うぐっ!? が、頑張る……」


 高速で突っ込んでくるニオブの分身を迎撃できる時点で、剣一の反応速度には何の問題もない。が、そんな極限の集中状態を維持することなど、普通の人間にはできない。


 それでもやれねば負けるというディアの言葉に、剣一はキュッと唇を結んで答える。自分の我が儘で望む決戦なのだから、やらないなどという選択肢はないのだ。


「それとウロボレアスの侵入場所に関してじゃが、これはおそらくこちらでコントロールできると考えておる。というのも、奴の目的はあくまでも巨大なエネルギー、つまりワシ等ドラゴンということじゃ」


「ウェイウェイウェイ!? おいディア、それは俺ちゃんに釣りの餌をやれってことか!?」


「その通りじゃ。光って喧しいお主なら、さぞかしいい餌になるじゃろうな」


「ワタクシはできれば、規模や人数を制限することで次元転移ができないかを実験したかったのですが……」


「ウロボレアスがやってきた時に全員が揃っておればいいのじゃから、それまでは別行動で構わぬのじゃ。じゃが実際に魔法を発動させてしまうとウロボレアスに感知され、侵入位置の誘導ができなくなる可能性があるから、それは控えて欲しいのじゃ」


「わかりましたわ。ではワタクシは予備案として、失敗した時の備えをしておくことに致しましょう」


「うむ、頼んだのじゃ」


「じゃあ最後、場所は? まさかこの家の庭先に呼ぶ……なんてことはしないですよね?」


 シュッと手を上げて、祐二が問う。そんなヤバそうな存在がダンジョンの外にいきなり出現したら、大混乱は必至であるのだから当然だ。


「場所か……正直そこは悩んでおるのじゃ。ケンイチがワシ等くらいの耐性を持っておるなら、宇宙が最適じゃろう。違う星系まで移動してそこで戦えば何らかの想定外が起きても被害を最小限に食い止められるし、レヴィの腹案で別の世界に逃げるだけの猶予を稼ぐことも可能かも知れぬからな。


 ワシの魔法でそういう耐性を付与することもできるが……正直今回に関しては、ケンイチに余計なことをしたくない。ありのままの状態で、持てる力の全てを発揮し、何よりも強く何よりも速い一撃を以て決着とする……それが唯一、ワシ等がウロボレアスに勝つための道なのじゃ」


「そっか……確かにバフ系の魔法って、体の感覚変わるもんね」


「ですね。僕もいつもの状態と変身後の状態だと、体の使い方が変わりますし」


「宇宙飛行士って、何年も訓練を積んでから宇宙に行くんだもんねー。いくら剣ちゃんでも、すぐには慣れないよー」


「となると、決戦の場は地球上のどこか、ということになるのでしょうか? そうなると事前の通達は絶対に必要になると思いますが……?」


 チラリとアリシアの方を見た聖が、心配そうな顔でディアに問う。するとディアよりも先にアリシアがその口を開く。


「悪いけど、私の立場上、今聞いた話は上に報告させてもらうわよ? 世界の命運がかかってるとなったら、流石に個人的な感情で黙っておくことなんてできないもの」


「そうですか? 勝てば勿論、もし剣一様が負けてしまった場合はすぐに世界も滅びてしまうようですから、それなら下手に知らせても余計な混乱を招くだけだと浅慮しますが」


「うっ、そんなに睨まないでよ、お嬢様。私は単なる一兵士で、下っ端軍人でしかないんだから。それにさっき、場所の確保が必要なら事前に通達しなくちゃって自分で言ったでしょ? ならどっちみち、各国の上層部くらいには今回の件の報告がいくんじゃない?」


「それは…………」


 聖が何を懸念しているかは理解できるものの、隠し通せるものでもないと主張するアリシアに、聖が思わず顔をしかめる。するとその話題に決着をつけるべく、ディアが口を挟む。


「人間同士のやりとりに関しては、ワシにはわからぬから任せるのじゃ。セーシュウとか、あとこの前会ったダイトウリョウ? とかいうのに言っておけば大抵は何とかなるじゃろ。


 それに万が一、本当にどうしようもない状況になったときは……ワシが全て焼き払う(・・・・・・)


 ギラリと、ディアの目が光る。そこに込められた覚悟に、アリシアが思わず息を飲む。


「……本気? そんなことしたら、それこそドラゴンさん達の居場所がなくなるわよ?」


「そうしなければ世界がなくなるのに、後のことなど考えても意味がないのじゃ。それにそうするのは、あくまでも『本当にどうしようもない時』だけじゃ。お主達が賢く振る舞えば何の問題もない」


「…………一応、上司にはそう伝えておくわ」


「それがよいじゃろう。ヒジリもよいか?」


「はい。間違いなくお祖父様にお伝え致します。まあお祖父様であれば、直接ディア様に確認の電話を……いえ、そこまでとなればこちらにお見えになって、ご自身でお話されると思いますが」


「カッカッカ、それは確かにそうじゃな」


 今や日本で唯一となってしまった「裏の表」である白鷺 清秋と、単体で世界を容易に滅ぼせる力を持つ悪心竜デアボリック。どちらも会おうと思って簡単に会える存在ではないのだが、剣一をきっかけとした交流を重ねた結果、今ではSNSでビデオチャットをするくらいには仲良しになっていた。


「であれば、希望はできるだけ開けた、周囲に人や物がない場所じゃな。可能であれば極寒や灼熱のような環境ではなければなお良しじゃ。ケンイチの集中を削ぐ要因は少ない方がよいからの」


「わかりました。そのようにお伝え致しますわ」


「私の方もそう伝えておくわ。まあ実際にどんな判断になるかは、私にはどうにもできないことだけど」


「宜しくお願いします、聖さん、アリシアさん」


 頷く聖とアリシアに、剣一が丁寧に頭を下げる。すると聖はニッコリと笑ったが、対してアリシアの方は渋い顔だ。


「うぅ……で、でも、私がどうにかできるような内容じゃないし…………大丈夫よ、きっと、多分」


「勿論アタシだって応援するわよ! すぐにお父様に連絡しないと!」


「おう、頼んだぜエル!」


「じゃあ僕は剣ちゃんの集中力を鍛える修行方法を考えようかな? 英雄くん、協力してくれる?」


「勿論です!」


「なら私はいっぱい頑張ってお腹が減る剣ちゃんや祐くん達に、美味しいご飯でも用意しようかなー。お弁当沢山作らないと!」


「でもその前に、今夜の焼き肉よね。もうそろそろジイが戻って……」


「皆様、お待たせ致しました。肉は勿論、その他の食材も最高級のものを調達して参りました」


「うひょー! 待っておったのじゃ! おいケンイチ、今夜は景気づけに最高に美味い焼き肉を食べるのじゃ!」


「あれだけ食ったのに、本当に食うのか……? まあじゃあ、話の続きは飯の準備をしながらにするか」


「「「おー!」」」


 事態が好転したわけでもなく、ただ方針が決まっただけ。それでも「皆が幸せになる」手段があったことを喜び、皆が声をあげる。


 こうして対ウロボレアスに向けた日々が、賑やかに始まりを迎えるのだった。

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