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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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あっという間の出来事

「あ、は、初めまして聖女様! 俺は蔓木 剣一です。手紙をもらったんで来ました」


「アタシはアトランディア王国の王女で、エルピーゾ・プロタ・プリンギピッサ・アトランディアです。ケンイチの付き添いで来ました」


「私はアメリカの軍人で、アリシア・ミラーです。一応護衛……になるのかしら? ほぼ部外者ではありますけれど、煩雑な手続きとか契約みたいなものがある場合は、一旦私が確認する形を取らせていただいております」


「聖女様!」


 剣一達が自己紹介を終えると、アリシアの側にいたクサナがトテトテと走り出し、聖女ドロテヤの側に近づいていく。


「聖女様、クサナ、お役目を果たしてきた、です!」


「ええ、そうですね。貴方は立派に使命を果たしてくれました。ありがとうクサナ、偉いですよ」


「えへへへへ…………」


 微笑むドロテヤに優しく頭を撫でられ、クサナがはにかんだ笑みを浮かべる。その温かい光景に、見ている剣一達の方も自然と笑顔が零れた。


「それではクサナ、下がって休んでも構いませんが、どうしますか?」


「えっと……初めてのお役目だったので、最後までちゃんと確認したい……です」


「そうですか。では私の横で話を聞いていてください」


「はい!」


 剣一には絶対見せない輝くような笑顔で返事をすると、クサナがドロテヤの横にちょこんと立つ。そこに慈しむような視線をチラリと向けてから、ドロテヤが改めて剣一達の方に向き直った。


「お待たせ致しました。では早速本題に入りましょうか……世界は今、滅びの危機に瀕しています」


「…………は?」


 あまりにも唐突なその言葉に、剣一は間抜けな声をあげてしまう。否、剣一のみならずエルもアリシアも同じようなものだ。


「あの、聖女様? いきなりそんなこと言われても……」


「そうよね。申し訳ありませんが、もう少し具体的なことを教えていただけないでしょうか?」


「勿論です。と言いたいところなのですが……」


 困った顔で問うエルとアリシアに、しかし聖女ドロテヤがわずかに顔をしかめる。


「実のところ、私にも詳しいことはわからないのです。私のスキル<天眼>はこの世界の全てを神の如き視点で俯瞰し、様々な情報を集めることのできるスキルです。世間で言われている『未来予知』は、単に通常ではとても扱えないほどの情報をスキルという超常の力で統合処理することで導き出した『予測』でしかありません。


 なので、私が予測しうる未来というのは自ずと限界があります。特にこの世界の外から迫る脅威に関しては、ほぼ何もわからないと言っても過言ではありません」


「世界の外……え、嘘だろ!? ひょっとしてまた知らないドラゴンが攻めてくるとかですか?」


 世界の外という単語に、剣一が露骨に反応する。その脳裏に浮かんだのは、せっかく広くなった家にまた訳のわからない居候が増えるイメージだ。


 だがそんな剣一の態度に、ドロテヤはキュッと眉根を寄せ、難しい顔で小さく首を横に振る。


「わかりません。ツルギケンイチさんの言う『ドラゴン』のことは、私も知っていますが……少なくとも今貴方と一緒に暮らしている者達とは比べものにならないくらい巨大な何かが、この世界に迫ってきているのです。


 そう、それこそまだこの世界に来ていないのに、私が圧力を感じ取れるくらいに巨大で強大な何かが……」


「それってつまり、ディアやニオブやレヴィより強い何かが来てるってこと!? そんなのどうしようもないじゃない! ……ケンイチがいなかったら」


「そうね、どうしようもないわよね……ケンイチ君がいなかったら」


 エルとアリシアの視線が、剣一の方に向く。エルは全力のニオブと戦う剣一を見ているし、アリシアは戦艦やらミサイルやらをぶった斬る剣一を見ている。強さの認識に差はあるが、それでも二人共剣一が最強であることを疑ってはいない。


「ねえケンイチ。世界の外……宇宙? それとも別次元とかそういうの? とにかくどっかから何かが攻めてきても、アンタならやっつけられるわよね?」


「えぇ? 流石に見てもいねー相手を絶対倒せるとは言えねーけど、まあ大抵の相手ならいけると思うぜ?」


「それがドラゴンさん達よりもずっと強くても?」


「……多分? あーでも、戦い方によるのかな?」


 ディアもニオブもレヴィもそれぞれに強かったが、剣一的には決して倒せない相手ではなかった。ただそれは正面から戦えばという話であって、相手の戦法によっては自分が負ける可能性もあると剣一は考えている。


「たとえばさ、今この瞬間いきなり地球が吹き飛んだりしたら、普通に死ぬと思うんだよ。ほら、宇宙って息できないんだろ?」


「地球が吹っ飛ぶ時点で呼吸がどうこうってレベルじゃないと思うけど……まあ、そうね。地球が吹き飛んで大丈夫そうなのは、ドラゴンさん達くらいかしら」


「あとは……そうだな。もっと簡単に水が全部干上がるとか、食べ物が全部腐るとか? 殴りかかってくるならほぼほぼ勝てると思うけど、そういう搦め手的なのを使われると負けると思う」


「えぇ? 何よそれ! それじゃまるでケンイチが普通の人間みたいじゃない!」


「人間だよ! むしろ俺を何だと思ってんだよ!」


「へへへー」


 激しく突っ込む剣一に、エルがおどけて笑う。だがそんな二人とは裏腹に、アリシアの浮かべる表情は深刻になる。


(そうよ、当たり前だけどケンイチ君は不死身じゃないのよね。もし本当にそんな訳のわからない脅威が迫っているなら、アメリカとしても何か対策を考えておくべき? シェルターとか宇宙船とか……でもケンイチ君だけを生き残らせても、それはそれで意味がないし……難しいところね)


 剣一の生存率をあげられる手段は幾つもあるだろうが、剣一だけが生き残っても意味がない。密かに悩み始めたアリシアをそのままに、エルとのツッコミ合戦を終えた剣一が改めてドロテヤに問う。


「あの、それで俺は具体的には何をすれば?」


「いえ、特に何かをしてもらう必要はありません……正確には、何をしてもらっていいかがわからないということになりますが」


「えぇ? それなら何でわざわざ俺を呼んだんですか? 今の話の内容だったら、別に最初の手紙にそう書いてくれてもよかったですよね?」


 今すぐ何かを要請されるわけでもなく、単に世界に危機が迫っていると伝えるだけなら、手紙に書かれていてもそう変わらない。首を傾げて問う剣一に、ドロテヤが小さく笑みを浮かべて首を横に振る。


「いえ、意味はありましたよ。今この時この場所に、貴方がいることが重要なのです」


「へ?」


「それが聖女様の未来視……いえ、予測なの?」


「そうなります。あまり詳しく話してしまうとこの先の未来も変わってしまうので言いませんが、ツルギケンイチ……貴方がクサナと共に海を渡り、幾つかの経験と選択を経てここにいることは、とても重要なことなのです」


「だって。どう、ケンイチ?」


「いや、どうって言われてもなぁ……」


 エルの言葉に、剣一は微妙な表情を浮かべる。自分がここにいるだけで呼んだ目的が達成されたと言われても、何の実感もわかないのだから仕方ないだろう。


「とにかく、これで私の目的は達成されました。あとはゆるりと観光でもされてから日本に帰るとよいでしょう。


 ああ、必要ならば案内役を用意しますが、どうしますか?」


「あー……どうする?」


「急にそんなこと言われても……でも、そうね。別に急ぐ理由もないし、少しくらい町を見て回ってもいいんじゃない? でもアタシ……というか、アタシ達誰もロシア語話せないわよね?」


「なら素直にお願いする? というか、どっちみち帰国便の予約だってすぐには取れないから、三日くらいは滞在しないといけないでしょうから」


「それもそうですね。じゃあ、はい。案内の人とかお願いしてもいいですか?」


「わかりました。では宿泊先のホテルを訪ねさせましょう」


 剣一達は誰もロシアの土地勘などないし、ロシア語すら話せない。なので控えめにそう申し出ると、ドロテヤはニッコリ笑ってその願いを承諾する。


 こうして剣一達がロシアに呼ばれた目的はあっさりと達成され、一行は大聖堂を後にするのだった。

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