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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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ディアとの話し合い

「なるほど。それは何とも珍妙なことになっておるのぅ」


 何の気負いもなく普通に剣一に事の顛末を説明され、ディアがそんな言葉を漏らす。ちなみに剣一の耳にスマホは当たっているが、国際通話料金は高いので、実際にはディアの「転移通信」である。見る者が見れば目玉が飛び出るような贅沢な通話手段だが、剣一的にはドーナツ一個で使えるお手軽通信手段であった。


「一応聞くけど、これってディアがやったのか?」


「そんなわけなかろう! 少なくともお主に積極的に関わっている時点でワシの仕業などあり得んじゃろうが。もし万が一ワシがその手の暗躍をするなら、一番気を遣うのはお主にバレぬようにすることじゃ。


 まあケンイチは単純じゃから、隠そうと思えばどうとでも隠せると思うがな。逆に剣一の隠し事なら秒で見抜けるのじゃ」


「うぐっ!? そこまで言うかよ! まあ強くは否定できねーけども」


 剣一の側からすると、圧倒的な人生経験の差から自分の隠し事は簡単に見抜かれるだろうし、逆にディアが本気で秘密にしようとしたことを自分が気づけるとは思えない。


 が、実はディアの側からしても、剣一は全く予想していない方向からいきなり核心に迫ってきそうな感じがして、隠し事をする気にはなれない。


 なのでお互いプライバシーの確保程度の隠し事しかしないし、その辺は気づいても気づかないふりをすることでバランスを取っているのだが、そんなことは今はどうでもいいことであった。


「まあそれはそれとして、幾らワシがやっていないと言ったところで証拠があるわけでもなし、それではお主達は納得できぬじゃろう。


 じゃからここは、ワシがやっていないという根拠を三つ話してやる。どうじゃ、聞くか?」


「勿論。エルも聞くよな?」


「え、ええ。教えてくれるなら……?」


 この話をあっさり告げたことからもわかる通り、剣一はディアのことを最初から微塵も疑っていない。そしてディアもまたそんな剣一の態度を感じ取り、自分が疑われているとは思っていない。


 なのでそういう機微を理解しきれていないエルだけが若干戸惑いの混じった声をあげたが、ディアは笑ってそれを流すと、そのまま話を続けた。


「まず第一に、転移魔法を阻害するというのはともかく、ワシに人間のスキルをどうこうするような能力はない。


 スキル……技神の加護は、その名の通り神の力じゃ。であればそれに干渉するには己もまた神の領域に足を踏み入れていなければならぬわけじゃが、神を目指して幾つもの世界を食い荒らしていた当時ならまだしも、今のワシにそこまでの干渉力はないのじゃ。


 つまり、やろうと思ってもできん。できぬことをやったと言われても困ってしまうのじゃ」


「えっ、できないのか!? それじゃそれができた敵……偽ディアは、今のディアより凄いってことか!?」


 驚く剣一に、ディアが日本の剣一宅にて神妙に頷く。


「そうじゃな。その一点に関しては、ワシを超えているということになる。であれば相手はただの人間ではあるまいから、ドラゴンであるというのは間違いないのじゃろうな。じゃが……」


 そこで一旦言葉を切り、ディアは剣一達に見えぬところでわずかに顔をしかめる。


「根拠の二つ目じゃが、ドラゴンは名を偽らぬ。以前に話したかも知れぬが、ドラゴンというのは自分の世界を食い破って外に出た時点で、通常の生命とは違う精神生命体としての側面を持つようになるのじゃ。


 これは単純な食事ではなく、恐れや敬いを力に変えたり、存在をそのまま喰らってエネルギーに変える力じゃな。それがなければ世界を喰らうことができぬのだから、当然じゃ。


 じゃが、そうやって他の存在を取り込むためには、己が己であるという確固たる意思がなければならぬ。たとえば複数の名を使い分けて己を分割してしまうとその分だけ力も分割されてしまうし、全く偽の名前を使えばそれまでに蓄えた力を失ってしまう。


 あるいは他者の名を使ってなりすましたりすれば、それこそ己のエネルギーを全てそいつに吸い取られてしまったりするのじゃ。誰かになりすますというのは、その誰かに自分を捧げるのに等しい行為じゃからな」


「ほーん? 偽名を使ったりできないってのはわかったけど、じゃあディアとほとんど同じ名前のそいつは何者なんだ? てか、何で同じような名前になるんだ?」


「そう言えば、レヴィがドラゴンは自分の名前に自分が選んだ相手の名前を刻むって言ってたけど、ディアの名前もそうなの?」


「む…………」


 何気ないエルの言葉に、ディアが声を詰まらせる。


「エルよ、それは軽々に話して言いものではないのじゃ。己が命の先にある想いに触れようとするならば、それ相応の覚悟がいると心得よ」


「えっ……あ、ご、ごめんなさい! アタシ、そんなつもりじゃ……」


「……いや、構わぬ。お主に悪気がないのはわかっておるのじゃ。じゃがレヴィとてそれはお主じゃから話したことなのじゃ。それをしっかりと胸に留め置くことじゃな」


「……うん、わかった。本当にごめんね」


 重く、だが思いやりのあるディアの声に、エルは心から謝罪の言葉を口にした。それからそっと胸に下げた小瓶を握りしめると、そちらにも胸の内で感謝と謝罪を伝える。その様子を剣一がそっと見守っていると、ディアが静かに話を再開した。


「ふぅ、ではそれはそれでよかろう。ケンイチの問いに戻るが……それは正直、ワシにもわからんのじゃ。理論上不可能ではないから、本当に偶然同じような名前になったのでは? としか言いようがないのじゃ」


「えぇ? そんなのあり得るのか?」


「そう言われてもな。そもそもワシはエルから、そしてエルは皇帝とやらからそう聞いたというだけのことじゃから、それ以上など確かめようがないのじゃ。


 それでも其奴の痕跡が残っていれば調べようがあったんじゃが……何処かの誰かが綺麗さっぱり斬ってしまったようじゃしの」


 遙か離れた日本の家にてニヤリと笑うディアの姿を想像し、剣一が渋い顔になる。


「ぐはっ!? いや、だって、あんなの残しといたら絶対よくないじゃん!」


「カッカッカ、わかっておる。後顧の憂いを断ったというのなら、それはそれで悪くない判断だったのじゃ。じゃがそれ故に調べる手がかりがなくなってしまったのも事実。一応ワシの方で動いてみるが……これに関しては気長に待ってくれ、としか言えぬのじゃ」


「わかった。ま、別に急ぐこともないだろうしな」


「それでディア、三つ目の理由は何なの?」


「おっと、そうじゃったな。正直これは言うまでもないことじゃと思うのじゃが……自分でもいつかわからぬほど昔から、ワシはずっと封印されておったのじゃ。ケンイチが封印をこじ開けねば今もあの場所にいたというのに、どうやって三〇年前のこの世界の者と出会うことができたのじゃ?」


「「あっ」」


 ディアの言葉に、剣一とエルが間抜けな声をあげる。剣一は勿論、エルも剣一に連れられてディアが封じられていた部屋を見たことがあるが、あそこから出られないなら当然中国にやってくることなどできるはずがない。


「そ、そうね。言われてみれば本当に……その時点で『ディアじゃない』ってわかってなきゃ駄目よね。うぅぅ、アタシって……」


「そんな気にするなってエル。それにほら、黒くてでかいドラゴンって言われたんだろ? アメリカとの模擬戦をニオブ中継で見てたなら、そういう印象があっても仕方ねーって」


「そうじゃな。ワシの偉大な姿を見たなら、それが頭に残るのは当然のことなのじゃ。とはいえドラゴンならでかいのなぞ当たり前じゃし、黒いのも特に珍しくはないのじゃ。ケンイチは手足が二本ずつあって黒目黒髪じゃが、手足が二本ずつある黒目黒髪の人間が必ずしもケンイチでないのと同じ理屈なのじゃ」


「そうよね……あーほんと、何でアタシあんなに思い詰めてたんだろ。もっと視野を広く持たないと駄目ね」


「カッカッカ、ならばこれから頑張るがよい。お主もケンイチも、ワシからすれば幼子どころか、赤子と変わらぬような歳じゃからな」


「ええ、頑張るわ! ありがと。あと疑っちゃってごめんね」


「よいよい。人とはそうして成長していくものじゃし、それにこうして素直に謝罪できる、それを受け入れられるという関係性こそ信頼の証なのじゃ」


「うん!」


 ディアの言葉に、エルが嬉しそうに頷く。その後は軽く雑談を続け、最後はディアが「お主達ばかりズルいのじゃ! ワシもカニを食べたいのじゃ!」と騒いだところで剣一が通話を終えたのだが……


「…………ふぅ。どうやら今回は、少々本気で事に当たらねばならぬようじゃな」


 自分しかいない室内で、ディアは鋭く目を細めながら静かにそう呟いた。

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