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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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戦い終わって

「ふーっ、これで本当に終わりか」


「うむ、まあまあ満足したのじゃ」


 互いの勝負が終わり、分かれていた一同が再び集まってくる。後はひとまず待てばいいということだったので、始まるのは雑談だ。


「なあディア、お前何で急にでっかくなったんだ?」


「む? 気配を漏らさぬよう結界を張ったのじゃが、気づいておったのじゃ?」


「そりゃ気づくだろ。正面だったし」


 アリシアと対峙した時、剣一はちょうどディアの方を向く形になっていた。そうなれば当然あの巨体が見えないはずがないので、気配がどうという問題ではない。


 勿論姿まで隠せば別だったろうが、今更剣一が自分の姿を見た程度で反応するはずもないので、そこまでは気にしなかったのだ。


「え、何? そっちのドラゴンが大きくなってたの?」


 だがそれは、この場で唯一アリシアだけが巨大化したディアに気づかなかったということ。驚くアリシアに、ジミーが呆れたような声で言う。


「えぇ? アリシア、あれに気づかなかったの!? あまりの迫力に、僕なんて漏らす寸前だったよ?」


「そう、だな。あれは凄かった…………」


「そうって……まさかロイ、貴方まで漏らしたの……?」


「違う違う! そっちじゃない!」


「っていうか、それだと僕が漏らしたことになってない? あくまで漏らしそうになったってだけだからね?」


「はっはっは、あれほどの威容、漏らす程度で済んだならむしろ勇敢さ! いずれ出版するであろう自伝にはそこはぼかして書いておくから、安心してくれたまえ!」


「「だから漏らしてないって言ってるだろ!」」


 楽しげに笑うオリヴァーに、ロイとジミーの抗議の声が重なる。そしてそんなやりとりに、アリシアが猛烈な不満を込めて声をあげる。


「うー、私だけ話に入れない! ねえドラゴンさん、もう一回大きくなってくれない? 貴方の大きくて立派な姿が見てみたいなー?」


「人間のメスに媚びた声を出されても知らぬのじゃ。ワシに頼みたいことがあるなら、何か美味いものを持ってくるのじゃ!」


「美味しいもの? 山盛りのポテトフライにこれでもかとマスタードを塗ったやつを二枚のミートパテで挟んで、それを更にオリーブオイルに浸してからカリッとあげたフライドベーグルで挟むギルティバーガーが個人的には最高に美味しいと思うけど……


 あ、トッピングでチーズを足したり、健康のためにオニオンやガーリックを入れるのもアリね。まあ次の日が休日じゃないと無理だけど」


「ぬぉぉ、何じゃその背徳的な食い物は!? よし、そういうことなら巨大化してやらんでも――」


「やあ蔓木君、ディア殿。お疲れ様」


 マッハで寿命を消費する悪魔の料理にディアが惑わされそうになったその時、兵舎や司令室などのある基地の奥側から歩いてきた清秋がそう声をかけた。


「あ、清秋さん! お疲れ様です」


「おお、セーシュウではないか! 今回の催しはなかなかよかったぞ! いい感じに運動できたのじゃ!」


「ははは、そうですか。蔓木君はどうだったかな?」


「え、俺ですか!? 俺は……えっと、正直、割と楽しかったです」


「そうかそうか! ならば何よりだ」


「あ、でも、結構色々斬っちゃったんですけど……大丈夫でしたかね?」


 空を自在に飛び回り、向かってくる敵を斬りまくるという人生初の経験を存分に楽しんだ剣一ではあったが、今更ながら自分が壊した物のお値段が気になってきて、おずおずとそう問いかける。すると清秋はニヤリと笑ってから言葉を続けた。


「勿論問題ないとも。ですな、マイケル殿?」


「ああ、そうだ。我がアメリカに二言はない!」


「あの、貴方は……?」


 清秋の横から出てきて声を上げた男性に、剣一が首を傾げる。すると見覚えがある気がするものの面識などあるはずもないその男性が、輝くような選挙用のスマイルを浮かべて剣一に右手を差し出した。


「おっと、自己紹介がまだだったね。私は第五二代アメリカ合衆国大統領、マイケル・モーガンだ。宜しくたのむよ、インフィニティボーイ」


「だ、大統領!? あっ、えっ、よ、宜しくお願いします……?」


 相手が偉い人だとわかり、剣一がガチガチに緊張しながらブンブンと手を振る。それを終えるとマイケルはディアの方に顔を向け直した。


「そちらのドラゴン殿も、是非握手をしてもらえるかね?」


「うむ? 別によいぞ」


 次いでマイケルは、ディアと握手をする。オリヴァーの剣でかすり傷程度しかつかないような硬さでありながらしっとり柔らかい鱗の感触を確かめながらグッと力を入れると、ディアがニヤリと笑みを浮かべる。


「カッカッカ。そういう小細工は、相手を選ぶべきじゃぞ?」


「っ……おっと、これは失礼」


 それはマイケルの持つ<掌握>のスキル。握手をすることで相手が何を喜び何を悲しみ、何に怒り何に悲しむのか? そういう人となりがわかるという、ただそれだけのスキルではあるが、大統領という仕事をするに辺り、これ以上無いほど有用な能力でもある。


 ちなみに、マイケルが<掌握>スキルを持っていることは公開情報だ。心を読まれるなんて! と強烈に反感を示す者もいる一方で、大統領……つまり自分達の代表にまっすぐ自分の思いや考え方が伝わるということで、むしろ積極的に支持する人間も多いという……閑話休題。


「言い訳になってしまうだろうが、私は握手をする時には必ずこのスキルを発動するようにしていてね。気分を害したならば謝ろう。すまなかった」


「別にいいのじゃ。じゃが次はないぞ? ワシ以外のドラゴンに出会ったとしても、使ってはならぬのじゃ」


「勿論、そんな無礼なことはしないさ」


 心にもないことを本心のように語るマイケルに、しかしディアが苦笑する。


「いや、そうではない。ワシは気を遣って止めたが、そうでなければ流れ込む情報の奔流で、お主の器が壊れてしまったじゃろうからな。今の感じからして、深く強くとスキルを鍛えてはいても、必要な分を最低限、とはできぬのじゃろう?」


「それは…………忠告、感謝致するよ」


 その言葉に、マイケルは一瞬渋い表情を浮かべるも、すぐに選挙スマイルを取り戻して感謝の言葉を述べた。


(なるほどこれは、確かに人が管理できるようなものではないな。ならばシラサギの忠告通り、普段は日本に面倒を見させて、必要な時だけ利用する形が正解だろう)


「ミスター・シラサギ。この模擬戦を以て、我等アメリカはミスター・ツルギとそのドラゴンに対し、引き抜き交渉などの不用意な接触をしないことを約束しよう。あくまでも非公式なものだから書面を用意できるわけでもないし、私が大統領でなくなれば、次の大統領が同じ了承をするかまではわからないが……」


「ええ、それで十分です。大統領の賢明な判断に感謝します」


 マイケルの宣言に、清秋がそういって軽く頭を下げる。だがマイケルの言葉はまだ終わっていない。


「ただし、一切の交渉を持たないというのはナシだ。人の手に余るような有事などの際には、彼らに力を借りることも選択肢に入れたい。その場合ミスターが仲介をしてくれるということで構わないかね?」


「そうですな、見るに堪えないような内容でなければ、伝えるくらいは問題ありません。ただしそれを受けるかどうかは、彼ら次第ということになりますが……」


「構わんよ。今日ほど人という種が矮小であると思い知らされた日はないのでね。いざという時に頼れる相手がいるのはいいことだ」


「ははは、それは確かに」


「では、よろしく頼むよ」


「ええ、そちらも宜しくお願いします」


 差し出されたマイケルの手を、清秋が握り返す。その身に溢れる愛国心を知られたところで、清秋には痛くも痒くもない。


 こうしてアメリカ軍対剣一&ディアという前代未聞の模擬戦は幕を閉じ、剣一達の周囲には、無事平穏が戻るのであった…………?

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