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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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普通じゃない子供達

「お、聖さん! いらっしゃい」


「聖さん! ここまで大丈夫だった?」


「おはようございます、剣一様。ふふ、流石にスライムには負けませんわ、英雄様」


 声をかけた剣一と英雄に、聖が朗らかな笑みを浮かべて答える。次いでその視線がアリシアの方に向けられると、聖は改めて口を開いた。


「貴方が剣一様の言っていらした方ですね? 初めまして、私は英雄様とエル様のお二人とパーティを組んで活動している、光岡 聖と申します」


「え、あ、うん。私はアリシア・ミラーよ。アリシアでいいわ」


「では私も、聖とお呼びください」


「わかったわ。宜しくね、ヒジリ……さん」


「ええ、宜しくお願い致します」


(え、何この子……?)


 聖の態度は実にしっかりしたもので、よほど躾の行き届いた家に生まれたのだろうということが容易に推測できる。だがエルから感じるものとは違う妙な圧力は、アリシアに警戒心を抱かせる。


(人物リストに、ミツオカなんて名前はなかった……明らかに子供だし、考えすぎ? エルちゃんくらいわかりやすかったらいいんだけど)


「だからねヒジリ……ん? 何?」


「ううん、何でもないわ」


 ついジッと見てしまったことでエルが声をかけてきたが、アリシアはそれを笑って誤魔化す。自分は特に恋愛至上主義なんてことはないが、それでも一八歳の乙女として、エルが自分に嫉妬に近い感情を向けてくることくらいはわかる。


(王女様は、きっとケンイチ君が好きなのね。でも身分違いの恋ってどうなのかしら? ロマンチックではあるけど……って、今は任務よ任務!)


「では、次は僕達が戦うってことで」


「あっ」


 そんな余計な事を考えている間に、どうやら子供達の間で次に戦うメンバーが決まってしまったらしい。そうなると流石に口は挟めないので、アリシアは黙って成り行きを見守ることにする。


 勿論、いざという時はいつでも助けられるよう、気を張ってミノタウロスと英雄達の戦いを見守っていたのだが……


「……くっ、やっぱり素の状態だとまだ全然通じないね」


「ではそろそろ本気を出しましょうか」


「え? ヒジリ、いいの?」


 聖の言葉に、エルがチラリと背後を気にするそぶりを見せる。だが聖が笑顔で頷いたので、エルと英雄もまた頷き返した。


 聖は普通に冗談を言うし、わからないこともできないことも、間違えることだってある。だがそういう状況では、聖は基本手堅い選択を……プラスを得ることよりマイナスを出さないことを好んだ。


 そんな聖が頷くのなら、きっと大丈夫なのだろう。信頼で結ばれた三人は理由を聞かずとも納得し、その力を解放する。


「燃え上がれ、勇者の魂! バーニング・ブレイバー!」


「巻き起これ、聖女の祈り! スワリング・ホーリー!」


「舞い踊れ、巫女の託宣! ダンシング・ソーサレス!」


「えっ!?」


 突如として目の前の子供達が炎や風や水に包まれたことに、アリシアが驚愕の声をあげる。しかもそれが収まると、英雄達の姿が明らかに変わっているのだから尚更だ。


「お、あいつらスキル使ったのか」


「うわ、あれが!? 想像より大分凄いね」


「ほんとー! 私も変身してみたいなぁ」


「スキル!? ちょっとケンイチ君、あれどういうこと!?」


 暢気に感想を口にする祐二と愛をそのままに、アリシアが目を見開いて剣一に問う。だがその答えが返ってくるより前に、英雄達が動き出す。


「いくわよ新技! ウォータースラッシュ!」


 人差し指と中指、二本立てた指を刃に見立て、腰を落として低い姿勢を取ったエルが腕を横に薙ぐ。するとその軌跡に水の刃が生まれ、射出された青い三日月がミノタウロスの足に深い切り傷を与える。


「では私も……ホーリーチェイン!」


 聖のかざす手の前に白い渦が巻き、そこから真っ白な鎖がジャラジャラと伸びていく。体に巻きつき動きを阻害するそれをミノタウロスが鬱陶しそうに外そうとするが、白い鎖はミノタウロスの剛力を以てしても外せない。


「最後は僕だね。いけ、バーニングブレード!」


「ブモォォォォォォォ!!!」


 最後に英雄が、炎を纏った剣を振り下ろす。真っ赤に燃える刃は動けないミノタウロスの肩から腰までを斬り裂き、ミノタウロスは絶叫しながらその命を終え、魔石へと変わってしまった。


「な、な、な…………」


「三人ともお疲れ! 新しい技はスゲーけど、聖さんと英雄は前に使ってたやつの方が強くないか?」


「あ、はい。そうですね。なので僕の場合は新技っていうか、元々使えた一つ弱い技でも倒せるようになったってだけです」


「私の魔法も、以前でしたら鎖を引きちぎられておりましたわ」


「アタシのは純粋な新技よ! どうケンイチ、凄いでしょ?」


「おう、凄かったぜ! スパッといってたもんな」


「待って待って、ちょっと待って! ねえ今の! 今の何!?」


 談笑する剣一と英雄達に、アリシアが割って入る。空気の読めない行動と言われようが、今だけは抑えられない。


「変身!? 変身したの!? しかもそれで強くなるって、どういうこと!?」


「あー、それは……僕達はちょっと、特別なスキルを持ってまして……」


「それどういうスキルなの? そんなスキル見たことも聞いたこともないんだけど!?」


「ちょっとアンタ! 幾ら年上で強いからって、冒険者のスキルを強引に聞き出そうとするのは、流石にマナー違反じゃない?」


「えっ、あっ、うぅ…………ご、ごめんなさい。そうよね」


 エルに指摘され、アリシアがたじろぐ。興味はある……もの凄くあるが、確かにここでしつこく聞くのは、色んな意味でアウトだ。特にエルや剣一との交友関係は今後も大事にしなければならないものなので、アリシアがしょんぼりと引き下がると、そんなアリシアに聖が優しく声をかけた。


「驚かれるのは仕方ありませんわ。ですがいずれもっと仲良くなれば、お話しすることもあると思います」


「ええ、そう。そう。本当にその通りだわ。ヒデオ君もエルちゃんも、あとヒジリさんも、ごめんなさい」


「ま、まあ別にいいわよ。アタシもちょっと言い過ぎちゃったかも知れないし……」


「気にしないでください、アリシアさん。驚かれるのがわかっていて見せたのは僕達の方ですし」


「そうですわ。それより祐二様と愛様、次はお二人ですわね?」


「うん、そうだね。でも、僕達で通用するのかなぁ?」


「やってみればわかるよー。頑張ろうね、祐くん!」


「ははは、いざとなったら俺達もいるから大丈夫さ。だから思いっきりいけ、祐二! メグ!」


「うん! やってみるよ剣ちゃん!」


 そうして今度は、祐二達がミノタウロスと戦うこととなる。だが祐二の実力はスキルを使う前の英雄よりは強かったものの、愛は完全にサポートタイプなので戦闘に加われないため、すぐに劣勢に追い込まれていく。


「ぐぅぅ……これでも駄目か……」


「あー、こりゃ厳しいな。よし、なら英雄達が一緒に戦ってみるか? ただしスキルはなしで」


「わかりました! 祐二さん、愛さん、お手伝いします!」


「スキルがなくたって戦えるところ、ちゃんと見せてあげるんだから!」


「愛様、回復のお手伝いをしますわ!」


「うん、ありがとう聖ちゃん!」


「これで様子を見て……それでも危なそうだったら、アリシアさんも手を貸してもらえます? 皆の前に立って、ヤバそうな攻撃を引き受けてもらう感じで」


「いいけど、ケンイチ君は戦わないの?」


「俺が手伝うのは、ちょっと問題があるんで……」


「ふーん? ま、いいわ。任せて!」


 苦笑する剣一に思うところはあるものの、断る理由もないのでアリシアは引き受ける。そうして五人の戦闘が始まり、しばらくしてアリシアも加わり……その後は人員をシャッフルしての戦闘訓練などもしての、数時間後。


「そろそろ昼か。おーい、それ終わったら休憩……って、丁度か」


 剣一が声をかけたところで、タイミングよくミノタウロスが魔石に変わった。ならばと剣一が昼休憩を提案すると、そこで聖が待ったをかける。


「でしたら、一度ダンジョンの外に出ませんか? 実は私、今日はお爺様から連絡をいただけることになっておりまして……一度確認しておきたいのです」


「あ、そうなんだ。俺は別にいいけど、皆はどうだ?」


「僕は構わないですよ。聖さんだけいかせるのも気になりますし」


「アタシもよ。ていうか、どうせなら皆で外に出て、一緒にご飯食べればいいんじゃない?」


「そうだね。今日は天気も良さそうだったし、その方が気持ちいいかもね」


「じゃあ、皆で行こっか」


「おう! アリシアさんもいいですか?」


「ええ、勿論いいわよ」


 それぞれ昼食は持ってきていたが、ダンジョンの奥深くというのならともかく、第一階層から転移罠でやってきたここなら、一旦出て戻ってくるのもすぐだ。ならばと全員でダンジョンの外に出た、その時。


ピピピピピピッ!


「えっ、私!?」


 電波が届くようになった瞬間鳴り響いたのは聖のスマホではなく、何故かアリシアの持つ端末であった。

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