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「虚空・破斬! ……気をつけて、こいつらテイムされたことで強化されてる!」

「氷華・乱舞! ああ、もう。数が多いのよ、数が!」



 僕とティアは、襲いかかってくるモンスターを片っ端から斬り伏せていく。


「アレスさん、私も戦えます!」

「敵の狙いは君なんだ。シャルは下がってて!」


 シャルロッテ、リナリー、リーシャ、さらにはゴーマンまで。守らないといけない人数が多く、戦いは長期化の予兆を見せていた。こうなったら大技を放って、一気に決着をつけるしかない。そう考えていたとき、


「アニキばっかりに良い顔させられるかよ!」


 剣を手に取り、ゴーマンがモンスターの群れを相手取るように前衛に立った。


「俺だって極・神剣使いのスキルの持ち主なんだ! やってやるさ!」


 自らを鼓舞するように声をあげ、彼はゴブリンキングに向かっていく。しかし――


「うぎゃぁぁぁ!」


 ゴブリンキングの振るった一撃で、ゴーマンはあっさりと吹き飛ばされてしまう。ゴブリンキングは凄まじいパワーを持っていた。


「まずは一匹!」

「ッゴーマン!」


 僕は咄嗟に、ゴーマンにとどめを刺そうとしていたゴブリンキングに斬りかかる。素早く剣で腕を切り落とし、そのまま胴体にかけて袈裟斬りにする。


「どうしていきなり飛び出したりしたの⁉」

「だってよ。こんなときまで後ろで震えてるだけなんてよ……。あまりに、あまりに情けないだろうがよ!」


 ゴーマンが、悔しそうに拳で字面を殴りつけた。それは血を吐くような叫びだった。


 大災厄のときには、ゴーマンを凶行に走らせかけた彼が持つ劣等感。僕はゴーマンの内心を知ってしまっている。だとしても――、


「ゴーマン、無謀と勇気は違うと思う」

「アニキ、いったいなにを……」


 僕は剣を高く掲げて、言葉を続けていく。


「一見、格上の相手に見えても、相手をよく観察すれば勝機は見えてくる。いつだって大事なのは冷静さ――師匠が言ってたとおりだよ」



 “敵”の狙いは、実のところ分かっていた。

 僕は、忍び装束の男を睨みつけた。彼は戦いの最中、手を出すことなくじっと僕のことを観察していた。つまり敵の狙いは、適当な相手をぶつけて僕の能力を調べることなのだ。

 だけども――あえて、その誘いに乗ってやろうではないか。


「――流星!」


 星が、瞬いた。

 天から流れ星が降り注ぎ、あらゆる敵を粉砕していく。僕が使える中で最大威力の攻撃は、辺り一面に破壊を撒き散らし、あらゆるモンスターを粉砕していった。


「さて、君の手勢はもう居ない。ここからどうする?」


 そうして僕はゆっくりと剣を向ける。

 すべての手駒を一瞬で失い、真っ青になった忍び装束の男へと。




◆◇◆◇◆


「あなたはいったい、なんなんデスか⁉」


 混乱した大声で、男がそう叫んだ。


「質問しているのはこっちです。あなたの後ろに居る人物と狙い、吐いてもらいますよ?」


 大切なパーティメンバーが、二度も命を狙われたのだ。

 容赦するつもりはまったくなかった。


「くっくっく、あっはっはっは――」

「何がおかしいんだ!」

「だって……、ここまで思い通りにことが運ぶとは、思ってもなかったのデス! ひだまりの村はもう手遅れ、今頃はあるじがとっくに攻め込んでるデスね!」


 そう言いながら男は、狂ったように笑い始めた。


「そんなのデタラメよ!」

「信じないのは結構。ですが良いのデスか? 早く戻らないと、取り返しの付かないことになってしまうかもしれないデスねえ?」


 ティアも思わずといった様子で否定するが、男は余裕の笑みを崩さない。モンスターの群れを操る黒幕を探り当てたと思っていたが、踊らされていたのはこっちだったとでもいうのか。


「アレスさん。急いで村に戻りましょう」



 シャルロッテは、そう僕に提案した。


「そうだね。こいつを捕らえたら、すぐに向かおう」


「おっと、私を捕らえるつもりデスか? それなら無駄な試みです。吾輩の【影】スキルがあれば、ここから逃げることぐらい――」


 男は余裕綽々の表情で立ち上がった。


 そうして何やらスキルを発動する。す体が溶けるように、するすると地面に潜り込んでいく。たしかに逃走には向いていそうな能力だけど……、



『虚空・瞬天!』


 あいにくとスキルが完全に発動するのを待ってやる義理はない。

 一気に男と距離を詰め、首に手刀を打ち込み昏倒させる。


「影スキルがあれば……、なんだって?」


 倒れ伏す男に、もう僕の声は聞こえていないだろう。容赦なく縄で縛り上げ、麻痺の状態異常を付与しておくことにする。

 この男には、二度もシャルロッテが命を狙われている。更には守ろうとしている村を脅かす存在に違いない――正直なところ、僕はだいぶ腹が立っていた。


「急いで戻ろう」


 僕は男を背負い、村に向かって歩き出す。


「どうか無事で居て下さい」


 シャルロッテが、天に向かって祈りを捧げていた。

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