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 パーティメンバー五人に加え、ゴーマンを連れて僕は歩きだす。



「アニキはあんな言い方をされて腹が立たねえのかよ」


 思わずといった様子で愚痴を口にするゴーマン。


「何を優先するか考えないと。こうやって役割分担できるなら、むしろありがたいしね」

「くそっ……、一瞬でアニキはそうやって人の心を掴んでいくんだよな……」


 ゴーマンはそう言いながら、ため息をついた。

 そんな彼に何を思ったのか――隣を歩いていたティアが、こんなことを言い出す。


「もしあなたが自分のしたことに、少しでも思うところがあるのなら……」


「ティア、さん……?」

「アレスを目指して、少しでも前を向いて生きていけば良い。私とあなたは赤の他人だけど――少しでもやり直したいと思ってるなら、あなたはまだ前に進めると思うわ。……アレスは、今でも、あなたのことを心配してるみたいだからね」

「いや僕を目指されても困るんだけど……」



 世界の果てを目指して気ままに旅してる身だ。

 むしろ責任感が重要な領主とは、正反対の存在である。


「……はぁ、遠い目標だな――」


 思わずといった様子でゴーマンはそう呟いた。




「えっと……、よろしくお願いします?」


 話が一区切りついたころ、シャルロッテがおずおずとゴーマンに声をかけた。そういえばこの二人は初対面だったよね。

 いずれバレるだろうし、今のゴーマンには知っておいてもらった方が良いかな。まさかゴーマンが、シャルロッテを狙う暗殺者と繋がりがあるとは思えないし……。


「あ、ゴーマン。説明すると、この方は王女様で聖女様。未来予知ができて、今は村の破滅が予言されたところで――」

「……はぁ⁉ アニキは何で次から次へと、面倒事に首を突っ込んだよ!」


 僕の説明に、ゴーマンは目を点にしながら絶句した。

 僕が知りたいよ。僕はただ、世界の果てが見たいだけなのに……。




◆◇◆◇◆


別行動を取ることになった僕たちは、モンスターの動きを注視することにした。


「それでアレスは何を調べてるの?」

「現れたのが小型のモンスターばかりっていうのが気になってさ。あのレベルのモンスターが群れを組むなんて、普通ならありえないと思わない?」


 僕は、群れを指揮する個体が居ることを疑っていた。

 戦いを俯瞰するように眺めることで、いくつか気がついたことがあった。村人たちと交戦しているモンスターの中には、戦いに加わらず様子を見守るだけの個体が居たのだ。そういったモンスターは、決まってどこかに姿をくらませている。


「あのゴブリン、群れから外れてどこに行くのかしら」


「もしかしたら連絡役なのかも。後を付けてみようか」



 僕たちは足音を忍ばせ、そのゴブリンの後を付けてみることにした。

 キッキッキ!



 ゴブリンは甲高い声で喚きながら、木々に囲まれた森を進んでいく。

道なき道を突き進むゴブリンであったが、その足取りには迷いがなかった。戦いから逃げようとしているのではなく、確固たる目的地があって移動しているに違いない。


「怪しいね。いったいこの先に何が居ることやら……」

「この先に群れのリーダーが居るなら、それを倒せば終わりですね!」


 シャルロッテは、そう楽観的なことを呟いた。

 怪しいゴブリンを追いかけ、人気のない道を進み数十分。僕たちは、木々に隠れてゴブリンの集団が存在しているのを発見した。


 木の陰に隠れて、僕たちはゴブリンたちの様子を伺っていた。


「ケケケ、あの村の守りは手薄でっせ。親分、そろそろ攻め時ですぜ!」

「ケケケ、村には女、子供もたくさん! 戦利品は丸々いただき!」


 キーキーと耳障りな声で、ゴブリンたちが喚き立ててていた。

 言語を操るモンスターだって⁉ ここに居るゴブリンは、低級モンスターとは思えぬ高度な知性を宿している。大型のモンスターが、下級モンスターを指揮して村を襲わせていたのだろう。

 ゴブリンたちが報告している相手は――


「あれは……、ゴブリンキングじゃない⁉」


 ティアが驚いたように声をあげた。群れの中心には、頭に黄金に輝く冠を付けた巨大なゴブリンが居たのだ。ゴブリンキング――文字通りゴブリンの王様である。こいつが下級モンスターを従え、村を襲わせていたのだろう。


「マスター、どうしましょうか」

「――ふ~む……」



 そのゴブリンキングも、深々と何者かに跪いていた。

 ハッとシャルロッテが緊張に見を固くした。その声には聞き覚えがあった。シャルロッテと出会ったときに。モンスターをけしかけていた男の声だ。


「このノロマども。どうやら付けられたようデスね」


 影の隙間から突如として、忍び装束の男が現れた。

 予想通りの姿。男はこちらに視線を向け……、


「みんな、気をつけて。バレてる!」


 たしかに男と目が合った。

 慌てて散開した僕たちに、男が放った暗器が飛んできた。姿すら見えないそれは、音もなく傍に居たシャルロッテに飛来する。

 咄嗟に剣を抜き、僕は男の放った暗器を弾き飛ばす。



「また会ったんデスね!」

「おまえは何者だ。どうしてシャルを狙う!」


 狂った表情で笑う男に、僕は剣を向けた。


「答える義理はないデスね!」



 男が腕を振ると、その場に居たモンスターたちがくるりとこちらを向いた。

 男の背後からは、ゴブリンキングを始めとした大型のモンスターが数体と、百を超える低級モンスターの群れが現れた。



「テイマー? でも、これほどの数のモンスターをテイムできる訳が……!」

「ひゃっはっは。あの方から力を授かったのデスね! この力さえあれば、テイムの限界とはおさらばデス!」


 僕はその言葉を聞き、バグ・モンスターの正体を悟る。

 村を襲撃していたバグ・モンスターは、自然発生したバグにより変異させられたものではない。バグを利用して、無理やりテイムされたモンスターの成れの果てだったのだ。


「あの方?」

「答える義理はありませんね。なぜならあなたたちは、ここで死ぬからデス!」



 そんな叫びと同時に、現われたモンスターが一斉にこちらに飛びかかってきた。

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