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 僕、ティア、シャルロッテ、リナリー、リーシャ――僕たち五人は、村人たちが集まる集合場所に到着した。



「くそっ。またモンスターの襲撃だ──いったいこの村で何が起きてやがる⁉」


 集合場所では、そんな声が響き渡っていた。

 どこか聞き覚えのある声のような――僕はまじまじと、目の前にいる小太りの男を観察する。育ちの良さそうな顔つきで、どこか不釣り合いなピカピカの鎧を身につけている。その姿には、やっぱり見覚えがあった――というか、僕の弟であった。


「ゴーマン⁉」


「なんでアニキが、こんな場所に⁉」



 お互いに思わずまじまじと見つめてしまう。

僕たちがこの村を訪れたのは、シャルロッテの予言に導かれたまったくの偶然だ。こんなところでゴーマンと再会するとは、夢にも思っていなかった。


「まさかゴーマンが、この村をこんな目に?」

「ちげえよ! ……俺は、この村に調査に来ただけだ」


 一瞬疑いの目を向けた僕に、ゴーマンは思わずといった様子で怒鳴り返す。

 ゴーマンは最後に会ったときはバグに飲み込まれ、僕に病的なまでの執着を見せていた。しかし今はバグから解放されたことで、理性を取り戻したように見える。


「調査? この村のことは、アーヴィン家が調査しているの?」

「……違う。俺の独断だ」


 どういうこと?

 気になることはまだあったが、今はそんなことを言っている場合じゃないか。


「ゴーマン、敵の情報は分かる?」

「……ッ! アニキ、まさか手柄を横取りする気か!!」

「手柄なんてどうでも良いよ。そんなこと気にしてる場合じゃない。分かるでしょう⁉」


 ゴーマンと僕は、以前は命のやり取りすらした間柄だ。決して良好な関係ではないが、今は目の前の事態を解決するのが先である。



「くそっ。いつだって正論吐きやがって……。分かってるさ、そんなことは……」


 ゴーマンは苦虫を踏み潰したような顔をした。

 素直に聞くなんて意外だね。そう思いつつ僕は、ゴーマンの言葉に耳を傾けた。


「ここを襲ってるのは――バグ・モンスターの群れだ」




***


「は、ゴーマン……。いったい何を……?」


 呆然と聞き返した僕だったが、悠長に話している時間はなかった。


 ウケケケケケ!

 その時、モンスターの集団が姿を現した。



「来やがったな!」

「ゴブリンどもめ! 殺された娘の恨み、思い知れ──!」

「俺の目が黒いうちは、絶対に村に手は出させねえぞ!」


 集まった村人たちが、武器を手に取りモンスターたちを迎え撃とうとする。本来、命がけのやり取りとは無縁の人たちだ。大切なものを守るために気合十分といった様子であった。

 現れたモンスーは、ざっと百体ほど。

ゴブリンやコボルトといった小型のモンスターが中心であったが、バグ・モンスターが紛れていているのなら、見た目だけは分からない。


「俺様に任せろ! 今日という今日こそは、モンスターどもに目にもの見せてやる!」


 ゴーマンも威勢よくモンスターの群れに突撃しようとしたが……、


「ゴーマンさん、またあなたですか。この地には、あなたが疑うようなものは何もありません。すぐに戻って、アーヴィン家の領主にもそうお伝え下さい」

「お貴族様の手を煩わせることもありません。我々だけで十分でございます」

「な! せっかく俺が、助太刀してやろうとしているのに!」


 村人たちは、ゴーマンのことを煙たがっているようだった。

 ゴーマンは。この村を守る戦うために戦おうとしているようだ。だけどもあんな高圧的な言い方をしていたら、たしかに理解は得られないか……。


「いい加減、なんの益にもならない天使信仰なんてやめて、現実を見ろよ! この村が滅んでも良いっていうのか⁉」

「貴様! おまえのようなよそ者に何が分かるっていうんだ!」

「そうだ! そうだ!」

「くそっ。なんでそんなに閉鎖的なんだ! このまま戦いが続いたら、村は疲弊していって、いずれは全滅する。それがどうして分からない?」


 両者ともにすっかりヒートアップしている。

 ここは完全に部外者である僕が間に入った方が、話も進みやすいかな……?


「こんにちは、ひだまり村のみなさん」

「なんだ、おまえは?」

「通りがかった旅人です。お手伝いさせて貰うべく、ここに来ました」


 村人たちは、警戒心むき出しで僕たちを見る。

 強硬にこちらの都合を押し付けても、理解は得られないだろう。こういうときは、あくまで相手を尊重している姿勢を示すことが大事なのだ。


「皆さんの邪魔はしません。その変わり皆さんのサポートと――、ついでに僕たちに自由に行動する許可を頂けますか?」

「あ、ああ……。俺たちと戦いの範囲が被らなければ構わねえぜ」


 毒気を抜かれたように、村人がうなずいた。


「ありがとうございます。それでは、さっそく支援効果を――」

「支援魔法が使えるやつが居るのか? それならリーダーと――」


 思わぬ助けが来た、とパッと顔を明るくする村人たち。それから遠慮がちに、支援効果をかけて欲しいと主戦力と思われるメンバーの名を口にしていたが、



「って済まない、無茶言ったな。なんならリーダーだけでも……」


 黙っている僕を見て、なにかを勘違いした村人は慌ててそう言い繕った。

 ちまちま対象者を選ぶのは、かえって面倒なんだよね。


「すいません、まとめてかけちゃって良いですか?」

「……は? この人数を相手に何を――」



『特殊効果付与──攻撃力プラス!』


 僕は「攻撃力プラス」の支援効果を、村人たち全員に付与した。

 あまり強力すぎる支援効果でも、普段との違いに戸惑うことになるからね。ティアも言っていたけれど、この効果でも支援魔法としては十分らしいし。


「どうでしょうか? 少しでも戦いが楽になると良いのですが――」

「力が、力がみなぎってくるようだ!」

「これならゴブリンなんか相手に、負けようがねえ!」

「これほどの人数に、支援効果を付与できるだと⁉ あなた、剣士ですよね?」


 力がみなぎってくる、と村人たちは、驚きに目を見開いていた。


「ついでに差し入れです。必要に応じて使ってください」


 僕が取り出したのは、大量のエクスポーションである。



「良いのか? 見ず知らずの人を相手に、こんな貴重な品を!」

「もともと僕たちは、この村を助けるために来たんです。遠慮なく使って下さい」

「うぉおおお! これだけの力があれば負けようがねえ!」

「一体残らず血祭りにあげてやるよ!」



 気合に満ち溢れた様子で、村人たちはそう盛り上がっていた。


「まさかこれほどの実力者だったとは。失礼なことを言って悪かったな!」

「いえ、こちらこそ。突然割り込んですいませんでした」


 僕は、村の守りは村人たちに任せるつもりでいた。

 村人たちは、これまでもモンスターの襲撃から村を守り抜いている。まして今日は支援効果を得ているのだ。並のモンスターが相手であれば、問題なく防衛できるはずだ。


「それではご武運を。僕たちは、周りを警戒してきます」

「な、ちょっと待てよ。アニキ⁉」


 ゴーマンは納得いかなそうにしていたが、こそこそと僕の後に付いてきた。

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