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85.

 僕とバースは、宿の傍にある広場で決闘することになった。

ティアたちパーティメンバーだけでなく、騎士団の団員も大勢集まっていた。騎士団長の剣術が見られるとあって、決闘を見守る騎士団員のボルテージも高い。


「何があるか分からないからね。念の為、周りを警戒していて欲しいんだ」


 シャルロッテを守るため、僕はティアとリナリーにそんなお願いをした。

僕とシャルロッテが出会ったのは、シャルロッテが何者かに襲われていた場面だ。刺客はアーヴィン家と繋がりのある者だと予想されるが、アーヴィン家がシャルロッテを狙う利点もない。背後に王家の誰かが居る可能性を考えるべきだろう。そう考えると王国騎士団の中に、シャルロッテを害そうとする者が紛れ込んでいる可能性もゼロではなかった。

 正直なところ、僕は王国騎士団をどこまで信じて良いのか判断しかねていた。騎士団長の忠誠は本物だと思うけど、万が一の事態に備えておく必要があるのだ。


「大丈夫ですよ。私、これでも冒険者ですから! 自分の身ぐらいは、自分で守れます!」

「シャル、こういうときはちゃんと守られていて下さい。その方が安心だからね」

「アレスさん……」


 驚いたように目を瞬くシャルロッテに見送れ、僕はバースとの決闘に望むのだった。


***


 そして決闘が始まった。

 大勢の騎士団員が見守る中、僕とバースは剣を手にして向き合っていた。


「アレス・アーヴィンだったか? 姫に取り入って、いったい何が目的だ?」

「目的? 僕は殿下に、少しだけ望むままに行動して欲しいと思っただけですよ」

「ッ! 貴様になにが分かるというんだ!」


 怒りをむき出しにして、バースはそう怒鳴った。

 王国騎士団の面々は、型に従った美しい剣術を是としていた。バースの構えも、王国騎士団に伝わる由緒正しき構え。しかし美しさだけでなく、気迫のこもった一撃は、どこか荒々しさも覗かせていた。


「ッ!」


 気合いとともに深々と踏み込み、バースはその豪腕から鋭く剣を振り下ろす。

かろうじて僕は、バースの一撃を剣の腹で受け止めた。腕が痺れるほどの一撃――騎士団長の名に恥じない重々しい一撃だった。


「ほう、今のを止めるか!」



「さすがです。見事な一撃ですね」

「ほざけ。こうも軽々と止められるとはな」


 バースは獰猛に笑いながら、バックステップで距離を取った。

 あえて躱さずに剣で受けたのは、真正面からバースとぶつかるためだ。今回の決闘は、あくまでバースに実力を認めさせるのが目的だ。

 その後も僕たちは互いの隙をうかがいながら、剣で交わしていく。


「すげぇ! あの冒険者、団長と互角に打ち合ってやがる!」

「見ろ、団長が笑ってるぞ……!」

「なるほど、これほどの使い手を前に出し惜しみをするなど失礼であったな」

「そう思ったのなら、殿下の願いを聞いて下さっても良いんですよ?」


 僕は冷や汗をかきながら、そう言ってみるが……、


「これほどの好敵手との戦い。これで終わらせては、もったいないと思わないか?」


 そんなことを言い、バースは再び剣を構えた。

バースの闘気が、みるみる膨れ上がっていく。ただむき出しの戦意をぶつけるだけで、そこに立っているだけで相手を竦ませる超上級者のみが持つオーラ。


「王国流剣術――奥義、紅蓮!」


 バースが宣言すると、剣が炎に包まれていく。


「うおぉぉぉ! 久々に団長が奥義を使うぞ!」

「あの冒険者、本当に何者なんだ⁉」


 観戦している騎士団員たちは、そう歓声をあげた。


「それが奥の手ですか」

「ああ。死んでくれるなよ? これは、うまく手加減は出来んからな。……一応、降参の意思を聞いておこうか?」

「余計なお世話です。これからが本番です!」

「そうこなくてはな」


 バースは、たしかな実力者だ。相手にとって不足なし。

 僕は意識を集中し、バースと向き合った。


「行くぞ――紅蓮・神楽舞!」


 バースが一歩を踏み出し――これまでとは比べ物にならない速度で突っ込んできた。一瞬で肉薄され、

『特殊効果付与――ラビット・キングの極意!』

 とっさに素早さに特化した支援効果を自らに付与。

 目にも留まらぬ相手の死角に回り込み、一気に背後に回り込む。



「やはり実力を隠しておったか!」

「バースさんこそ!」


 驚愕に目を見開くバース。

 魔力を合わせた独自の戦闘スタイルなのだろう。バースが纏う闘気の炎が、死角に居るはずの僕に向かって蛇のように襲いかかってくる。

このタイミングは避けられない。それなら――


「虚空・天破!」


 僕の剣から放たれたのは、すべてを浄化する真っ白な閃光だ。すべてを飲み込まんとする光の奔流が、青い空に吸い込まれていく。

 バースに直撃こそしなかったものの――その一撃は、纏っていた炎を根こそぎ消し去った。


「な、なんだ今のは……⁉」

「これで終わりです!」


 呆然としているバースの懐に潜りこみ、勢いよく斬り上げる。

 狙いは相手の武器――バースが掲げている剣だ。

 キーンッ!

 金属と金属がぶつかり合う激しい衝突音。

 僕の振るった剣は、狙い違わずバースの剣を弾き飛ばした。


「これでチェックメイト、ですね」

「ま、参った――」


 バースが手を上げてそう宣言する。

 場は一瞬、シーンと静まり返っていたが、


「うおぉぉおおおお!」

「まさか団長が敗れるなんて⁉」

「あの冒険者は何者なんだ!」


 予想外の決着を迎え、やがて熱気に満ち溢れた歓声が上がるのだった。

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