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82.

――――――――――

・スキル【聖女】のアップデートが異常終了しています

修復しますか?

――――――――――


 僕の疑問に答えるように、脳内に声が響き渡った。

 スキルを使うときに聞こえるいつもの声だ。



 ――アップデートの異常終了?


 掴みどころが無かった一連の物事が、どこか繋がっていくような感覚。シャルロッテのスキルの不調は、きっとそれが原因なのだろう。


「シャル、君のスキルのことについて、試したいことがあるんだ」


 このコードは、安全なのだろうか?

 新たに手に入れたコード【アップデート】。その効果はいまだに分からず、下手すると今より事態が悪化する可能性もあった。

こんなスキルを使うべきか分からず、僕は迷っていたが、



「やっちゃって下さい」


 シャルロッテは笑みを浮かべてそう言った。

 シャルロッテは、僕が何をしようとしているかは知らないはずだ。それでも彼女からは、確かな信頼向けられた。


「分かりました――」

「私は、アレスさんのことを全面的に信じます。――私の英雄」

「え?」


 最後の呟きは、小さくて聞き取れなかった。


「スキル【聖女】のアップデート。修復!」


 僕は、指先でポチっと「はい」を選択する。シャルロッテは、ぎゅっと目を閉じていた。僕はシャルロッテの額に手を当て、そっと意識を集中する。


――――――――――

・聖女を【アップデート】します

 (所持者:シャルロッテ・ミスティリカ)

・聖女の【アップデート】が完了しました


アップデート内容:

 一部の魔法の属性を変更(光→聖)

 新魔法を取得

――――――――――


 成功した――脳に流れ込んできた情報をもとに、僕はそう判断する。

一部の魔法の属性を変更……、光属性から聖属性。

やっぱり、そういうことか。

シャルロッテの魔法は、ネオ・サイクロプスが唯一弱点としていた聖属性魔法に変異していたのだ。恐らくは中途半端な形で――それが僕のスキルにより、完全な形になったのだろう。



「シャル、どう? たぶん成功したと思う」

「さっそく、試してみます!」


 僕の言葉に、シャルロッテは目をおずおずと開いた。


「すごいです、さすがはアレスさんです! 見えました!」


 シャルロッテは歓喜の表情を滲ませ、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


「明日、城下町でブラッディー・ビーフの半額セールが開催されるそうです!」

「す、凄くどうでも良い情報だった⁉」

「未来が見えなくなってからは、しばらく簡単そうな予知を試してたんです。美味しいんですよ、ブラッディー・ビーフ」


 シャルロッテは、笑顔でそんなことを言う。



「せっかくなのでお礼を兼ねて、アレスさんの未来を占いますよ~!」


 上がったテンションそのままに、シャルロッテはそんな提案をしてきた。

 シャルロッテの能力は本物だ。

 未来を知れると言われて、興味深い反面、恐ろしくもあった。


「アレスさんの未来は……! アレスさんの未来は……、あれ? おかしいですね。まったく見えません」


 ぐむむむ、とシャルロッテは、頬を膨らませて僕の顔を凝視した。真剣な表情なのに、どこか子供っぽい仕草がやっぱり可愛らしい。


「まだ本調子じゃないのかな?」

「むむ! 本当に未来、見えるようになってますから!」


 ムキになったようにシャルロッテは呟く。

むむむ~っと何やら念じていたが、


「な、なんですかこれッ⁉」


 次の瞬間、表情が凍ったように真っ青になった。


「古き時代、の因縁──黒……、赤?」

「役割はまだ終わっていない。――神魔戦争――天使信仰……」

「堕天使の復活? ――蘇って再び滅びを撒き散らす――?」


 うわごとのようにシャルロッテはなにかを呟く。


「このままだと、村が、一つ滅びる――」


 大粒の汗を流しながら、ここではないどこかを見ながら何かを読み上げているシャルロッテ――ところどころに物騒な言葉が混じっていた。

 未来予知の能力は、使うだけで負担が大きいのだろう。

 真っ青になったシャルロッテは、しばらくは肩で息をしていたが、


「スキルを使うのは人間……、そうですよね」

「シャル?」


 そう小さく呟くと、


「私は、私が見たものを調べたい。なにか良くないことが起きようとしているのなら、それを止めたいんです――アレスさん、もう少しだけ協力して頂けますか?」


 まっすぐ顔を上げ、力強く僕にそう頼み込んできた。それは望まれるままにスキルを使い、ただ求められるままに生きてきたシャルロッテにとって、大きな一歩なのだろう。


「もちろんだよ、乗りかかった船だしね」


 僕の方から頼みたいぐらいだ。

こんな予言を聞いてしまったら、気になって旅を続けるどころではない。


「とりあえず戻ろうか?」


 僕が促すと、シャルロッテはこくりと頷いた。

 久々に使えるようになった未来予知――いったい彼女は何を見たというのだろう。新たな騒動の予感を胸に、僕たちはティアたちの元に向かうのだった。

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