79.
「アレス、気をつけて! まだまだ居る!」
「分かってる。この数は厄介だね」
ティアが鋭い声を発した。
依然として、目の前にはネオ・サイクロプスの群れが残っている。
ギャアアアア!
仲間を倒され怒り狂ったネオ・サイクロプスたちが、一斉に襲いかかってきた。
素早さは僕の方が上だ。躱すこと自体は簡単である。だけども後ろには対応手を持たないティアやシャルロッテが、リットたちのパーティメンバーが居る。
かといってあの数を正面から相手するのは困難だ。
どう対処するのが正解だろう?
そう悩む僕の声に応えるように、僕の脳裏に閃きがよぎった。
スキルが呼びかけてくるような感覚。僕は『アップデート』により、出来ることが増えたことを直感する。
剣士・剣聖──そして、極・神剣使い。
それらのスキルは、基本的に一対一の戦闘に特化した技を覚えるものだった。うまく一対一での戦いに持ち込まないと、どうしても苦戦する傾向にあった。
そんな弱点を補うかのように、新コード『アップデート』で追加されたのは──
『──流星!』
脳裏に浮かんだ技名を叫ぶ。
頭上で、星が瞬いた。
僕の振るった剣はあまたの星を呼び寄せ、モンスターの集団に襲いかかる。流れ落ちる星が、凄まじい轟音とともにネオ・サイクロプスを粉砕していく。
アップデートを使用後、完全属性耐性は完全に消滅していた。新たに覚えた僕のスキルは、モンスターを相手に容赦なく破壊を撒き散らす。気がつけば僕たちを取り囲むように控えていたネオ・サイクロプスの集団は、跡形もなく消滅していた。
「……は?」
ぽかーんと呆けた表情で、消えていくモンスターを見るティア。
あまりの破壊力に、技を放った本人である僕もきょとんと目を瞬いていた。
――――――――――
新バージョンのモンスターを討伐しました
絶対権限が18になりました。
絶対権限が19になりました。
―――――――――
◆◇◆◇◆
「アレス、今度はどんな手品を使ったのよ」
戦いに区切りが付いたことを見届け、ティアが呆れたように嘆息した。
「声が聞こえたんだ。スキルをアップデートしますか? って」
「アップデート?」
ティアの疑問に答えるように、僕はスキルを発動した。
「チート・デバッガー」
――――――――――
絶対権限:19
現在の権限で使用可能な【コード】一覧
→ アイテムの個数変更 (▲エクスポーション▼)
→ 魔法取得 (▲ブラックホール▼)
→ ユニットデータ閲覧
→ バグ・サーチ
→ スキル付け替え (▲極・神剣使い▼)
→ 特殊効果付与 (▲毒▼)
→ スキルアップデート (NEW)
――――――――――
スキルを使ってみれば、予想通り新たなコードが追加されていた。
コードの名前は『スキルアップデート』というものだ。何のことかは分からないが、それがたしかに僕たちの窮地を救ったのだ。強力な効果を持つことは疑いようがない。
「スキルアップデート――このスキルを使ったら、攻撃が通るようになったんだ」
ちなみにスキルを使った時には発光していた大剣は、いまは光が収まっている。戦闘中のみ発生する現象なのだろうか。
「それじゃあ最後に使った技も、その『アップデート?』で覚えたの?」
「うん。たぶんこのコードは、すでに覚えているスキルを強化するスキルなんだと思う」
――交戦中モンスターとバージョン情報が異なります
思い出したのは、戦闘中に聞こえたそんな声だ。
バグ・モンスターとは異なるが、ここに居るモンスターとの戦いが何らかの条件を満たし、チート・デバッガーのスキルが成長したのだろう。
「またアレスが、訳のわからないスキルを覚えてる――もはや慣れっこだけど……」
「それは褒められてるのかな……?」
ティアからジトーっとした眼差しが向けられた。
「ふう。これで一件落着かな」
「一時期はどうなるかと思ったけど――どうにかなったわね……」
さすがに少し疲れたわ、とティアが伸びをした。
そんな時だった。
「また、見えなかった……」
ぽつりと声が響き渡ったのは。
声を発したのはシャルロッテ。
思わずといった独り言だったのだろう。しかしその声は風の影響もあったのか、不思議と響き渡ってしまい――
「あ……」
ばっちりシャルロッテと、視線が合ってしまった。
「シャル?」
「な、何でもないです。気にしないで下さい!」
僕と目が合うと、シャルロッテはにへらっと明らかな作り笑いを浮かべる。しまったと言わんばかりの表情――それはシャルロッテにしては珍しい露骨な作り笑いだった。
「ごめんなさい、少しだけ一人で休憩してきます」
シャルロッテはそんなことを言い残し、逃げるように森の方に走り去ってしまった。
元はただの独り言で、誰かに聞かせる気など無かったのだろう。だからこそシャルロッテの本音が覗いていた気もして。
「ティア、ちょっとだけ行ってくる」
「アレスならそう言うわよね。本当にお人好しなんだから――いってらっしゃい」
そう言うティアに見送られ、僕はシャルロッテを追いかけて走り出すのだった。
***
木々をかき分け、僕は森の中を進んでいく。
普段は、あまり人が通ることがない道なのだろう。踏み荒らされた足跡がくっきりと残っており、シャルロッテが通った後を追いかけるのは容易だった。
そうして森の中を進むこと数分後。
僕は、木々にもたれかかるように佇むシャルロッテを発見するのだった。






