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77.

 リットに案内され、僕たちはモンスターの群れと交戦している二人の冒険者と出会う。

 盾役の大男が前に立ち、必死に戦線を支えていた。その後ろでは杖を構える少女が、後ろで悔しそうに膝を突いている。負傷が激しく、まともに動けないようだ。

 幸いなことに死傷者は居ない。治療すれば助けられるだろう。


「リーダー、もう大丈夫です。助けを連れてきました!」

「リット⁉ おまえ、どうして戻ってきた⁉」


 リットの声に反応して、盾を持った大男が目を見開いた。


「ちょうど良い。リット、アステールを連れて逃げろ! こいつらはヤバイ、この人数でどうこうできる相手じゃない!」


 リーダーの大男は、必死にそう叫んだ。

 彼らが交戦しているのは、紛れもなく見たことがないモンスターだった。

 巨大な人型モンスターで、風貌はSランクダンジョンで見たサイクロプスと似ている。しかし色は一般的な水色ではなく、全身血のように真っ赤。そんな巨体が群れを組む光景は、不吉を通り越して禍々しいほどだった。

 モンスターが激しく棍棒を打ち下ろしたが、


「舐めんなッ!」


 リーダーの大男は、盾をまっすぐ構えて真正面から受け止める。

ガキーーーン!

激しい衝突音が地を揺るがした。

あの棍棒に、いったいどれほどの威力が込められているのだろう。

 本当にどうにかなるのか? と不安そうな顔でリットがこちらを見てきた。僕は、安心させるようにうなずき返す。


「アレスです、微力ながらお手伝いさせてください」

「どこの誰だか分からねぇが、正気か?」


 リーダーの大男は、ちらりとこちらを見ると辛辣な言葉を投げてきた。


「こいつらは、そこらのモンスターとは違う。こっちのどんな攻撃も、ことごとく無力化されちまうんだ――正真正銘のバケモノだよ。無駄に死人を増やすだけだぞ⁉」

「そんなのやってみないと分からないじゃないですか!」

「結果が見えてるからこう言ってんだ! 今打てる最善手は、俺がここに残って、他のやつは全員急いで逃げることなんだよ!」

「ふざけないで下さい!」


 リットのパーティのリーダーは、自分が盾になることで、どうにか仲間だけでも逃がそうとしているようだった。その目はすでに死すら覚悟しているようで……、


「リットさんは、ボロボロで宿にたどり着いて、必死に助けを求めていました――あなたのことを助けるためです。生きることを諦めないで下さい!」


 パーティのリーダーとして、犠牲を最小限にして、何がなんでも仲間を生き残らせたい。その覚悟は立派なものだと思う。

だけどもそんな結果では、助けに戻ってきたリットが浮かばれないのだ。


「ッ! お前に、いったい何が――」

「分かりますよ。あなたたちが、お互いがお互いを大事に思ってるってことぐらい!」


 逃げろと言われても、きっとリットはこの場に残ることを選ぶはずだ。それは彼のパーティメンバーであるアステールと呼ばれた少女も同じだろう。

 そんな視線を一身に浴びて、


「後悔しても、知らねえからな」


 頭をかきながら、小さくそうこぼすのだった。




『エリアヒーリング!』


 シャルロッテが背中からぴょんと飛び降り、交戦していたパーティメンバーを癒やしていく。


「サンキュ、正直かなりきつかった」

「ありがとう、助かったわ」


 傷を負っていたメンバーが、お礼を言いながら再びモンスターと向き直る。


「気をつけろ。奴らはとにかく普通じゃねえ」

「攻撃が効かないんですよね。まずはそのカラクリを突き止めないと――」


 挑むは未知のモンスターの集団だ。

僕はモンスターの群れに向き直り、敵の情報を調べることにした。


『ユニットデータ閲覧!』


――――――――――

【コード】ユニットデータ閲覧

名称:ネオ・サイクロプス(LV46)

HP:4396/4396

MP:0/0

属性:完全耐性→旧属性

  :弱点→聖

▲基本情報▼

――――――――――


「な、なにこれ?」


 映し出されたステータスを前に、僕は思わず呆然と声を漏らしていた。

 変異種、あるいはバグ・モンスターのどちらかだと思っていた。しかし調べた所、目の前のモンスターは、そのどちらでもないことが判明する。

 おまけに属性耐性は『完全耐性→旧属性』いう訳のわからない単語が書かれている。


 ――相手の攻撃はそのままに……


――こっちの攻撃は何一つとして通用しないような……



リットが口にした要領を得ない説明を改めて思い出す。


「アレス、どうしたの?」

「ティアは、絶対に攻撃を受けないように防御重視で立ち回って。敵のステータスを鑑定したんだけど……、ちょっと理解できない結果なんだ」


 交戦体制に入ろうとしていたティアに、僕はそう伝える。

 レベル四六というのも脅威そのものだった。最大限の警戒を持って当たるべきだろう。


「理解できないって、どういうことよ⁉」

「相手はネオ・サイクロプス。レベルは四六で――”旧属性”に完全属性耐性持ち。HPは四桁を超えてるみたいで……。ティア、とにかく気をつけて──」


 『特殊効果の付与――極・ライフアップ!』

 僕はティアに付与する支援効果を、防御寄りのものに切り替える。


「アレスさんは鑑定師なのか? それで旧属性って何なんだよ?」


 そんな属性は聞いたこともない、とリーダーの大男が眉をひそめた。

 僕だって同じだ。この世界に存在する属性は、炎・水・氷・土・風・光・闇――旧属性というのが何を意味しているかは、サッパリ分からなかった。

 分からないのなら――


「試してみるしかないね!」


 僕は手にした剣を構え、一気に距離を詰め、

『虚空・破斬!』

 素早い太刀筋で敵を切り払う。

 空間そのものを裂く大技で、極・神剣使いのスキルでも上位に位置するスキルである。

 ネオ・サイクロプスは、反応すらできない。

 ──倒せる!

 そう確信があった。なのに……


「はぁ⁉」



 何か得体の知れないものに阻まれた感覚。

 僕の一撃は、ネオ・サイクロプスの首筋を浅く切り裂いただけであった。

 首筋ともなれば、大抵の人型モンスターの急所である。一撃で仕留めるとまでは行かなくとも、たしかに大ダメージを与えられると思っていた。それなのに――


「どういうことなの⁉」


 結果はまったくのノーダメージ。

 僕は大きくバックステップして素早く距離を取る。

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