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69.

「まずは僕が先に戻るから、合図するまで待ってて」


 いきなりシャルロッテが姿を現すと、混乱が生じるかもしれない。

 シャルロッテには近くに待機してもらい、僕が先にティアたちが待つ場所に戻ることにした。

 すでにブレイズキャットたちは、跡形もなく消え去っていた。


「ふふん。どうよ、アレス! 私にかかればブレイズキャットなんて相手にもならないわ!」

「さすがだよ。おつかれ、ティア!」


 僕の言葉に、嬉しそうにティアが笑う。


「ふふっ。ティア様ったらアレス様に誉めてほしい一心で、ものすごく頑張ってたんですよ」

「ちょっと、リナリー? 余計なこと、言わないで!」


 からかうようなリナリーに、ティアが真っ赤になって言い返す。

 違うんだからね、と涙目で睨まれ、僕としては黙って頷くしかなかった。


「でも、ありがとう。本当に頼もしいよ」

「当ったりまえ! もっと頼ってくれても良いんだからね!」


 ティアはそう嬉しそうに言いつつ、


「それで、そっちはどうだったの?」


 そう首をかしげた。

 バグ・サーチに導かれてたどり着いた先で起きたこと。正体不明の男に襲われていたシャルロッテを助けたところ――説明するなら今かな。

 僕はシャルロッテを呼ぶと、


「紹介するよ、ティア。この子はシャル、さっき向かった先で出会った冒険者なんだ。ヒーラーとして旅をしてるらしくて──」

「ちょっとアレス⁉ この方、シャルロッテ王女殿下じゃない! なんで王女様がこんなところに居るのよ⁉」


 一発でバレた⁉

 そりゃそうだよね。ティアだって貴族だ。

 うちみたいな貧乏貴族とは違って王国で開かれるパーティにも参加している。そこでシャルロッテと面識があっても可笑しくはない。


「シャルロッテという方のことは存じませんわ。私はただの旅するヒーラーです!」

 胸を張り、ドーンという効果音が出そうな表情で言い張るシャルロッテであったが、

「いやいや。聖女様のこと知らないヒーラーって、明らかに無理があるって」

「そう、なのですか?」


 語れば語るほどにボロを出すシャルロッテ。


「ヒーラーにとって聖女様は憧れの存在! そうだ、聖女様に憧れを抱いて武者修行に明け暮れるフリーのヒーラー。シャル、とりあえずはこれで行こう!」

「こほんっ。そういうことですから、よろしくお願いしますね、ティアさん!」 

「な、なるほど?」


 シャルロッテの勢いに負けて、コクコクとうなずくティア。だけども納得したかというと別で、ティアからはチラチラッと問い詰めるような視線が向けられた。

 そう言われても僕だって困る。僕だって、どうしてシャルロッテがこんなところに居るのか分からないのだから。


 これからどうしよう?

 常識的に考えれば、すぐにシャルロッテを王城に送り届けるべきだ。でもついさっき、シャルロッテが命を狙われるのを見たばっかりだしなあ……。


「それで――シャルは、何でこんなところに?」

「ええっと……」


 言葉を濁らせていたシャルロッテだったが、


「アレスさんに会いに来たって言ったら信じますか?」

 もじもじとそんなことを言い出した。

「え?」

「な、何でもありません!」


 ぶんぶんと首を横に振るシャルロッテを、ティアがじーっと警戒したように見ていた。心なしか目が三角になっており――なんでだろう、機嫌が悪そうだ。


「ティア、そんなに警戒しないでも大丈夫だと思うよ」

「け、警戒⁉ 別に、私、アレスのことなんて――」

「え、なんで僕……?」


 チート・デバッガーのスキルが権力者にバレたら、都合よく利用される可能性がある。リーシャにも警告されたことだ。ティアが警戒しているのもそのことかと思ったのだけど――ティア の反応を見ると違ったのかもしれない。

 ティアはわたわたと手を振っていたが、


「アレスは渡さないからね!」

 なぜか僕の腕を掴み、むーっとシャルロッテを威嚇するのだった。


「お兄ちゃん! とりあえず馬車に戻ろ?」

「そうだね、ここで話すのは危ないか」


 見れば馬車から顔を覗かせ、こちらの様子を伺っている人も居た。

 ここでは誰が聞いているか分からない。シャルロッテの正体を隠し通すためにも、まずは安全な場所に移動するべきだろう。


「ええっと、シャル? 馬車での移動になるけど大丈夫?」

「もちろん! 私、冒険者に混じって馬車に乗ってみたかったんです!」


 僕の質問に、シャルロッテがウキウキとそう答えるのだった。

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