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 国王陛下に呼び出されてから1週間後。

 僕は、ティバレーの街を出発することにした。

 居心地の良い街だった。しかし世界の果てにたどり着く日ために、いつまでも同じ場所に立ち止まっている訳には行かないのだ。



 旅立ちの日。

 僕は、旅立ちを告げるため冒険者ギルドを訪れていた。


「えええ!? もう行ってしまわれるのですか!?」


 あっさりと見送られるかと思いきや、随分と大げさな反応をしたのは受付嬢。

 周囲に居た冒険者たちも、驚いてこちらを見ている。


「はい。大災厄の後始末も終わりましたし、そろそろ出発しようかなと」

「そうですか、寂しくなりますね……」


 それでも最初から夢のことを話していた受付嬢は、ついにこのときが来てしまったか納得の表情。

 寂しそうにしていたが、旅立つ者を止めることは何人たりとも出来ない。


「旅の無事を祈っていますね。……私たちは全然、アレスさんたちに恩を返せていません。必ず帰ってきて下さいね、必ずですよ!」

「はい、必ず帰ります。土産話には期待していて下さいね?」


 冒険者は、常に命の危険と隣り合わせの職業だ。

 その出会いは一期一会。昨日まで当たり前のように顔を合わせていた同業者が、ある日を境に姿を見せなくなることも日常茶飯事。

 ましてや、辺境に向けて旅立とうという変わり者。


 それでも心配はおくびにも出さず。


「楽しみにしてますね!」


 受付嬢はいつものように、とびっきりの笑みを浮かべるのだった。




 冒険者の反応も、様々だった。


「そうだよな。アレスさんたちに、こんな小さな街は似合わねえ!」

「わっはっは! 活躍が聞こえてくるのを楽しみにしているぜ?」


 昼間っから酒場に入り浸っていた冒険者たちが、楽しそうにはやしたてた。

 散らかして罰金取られることも何度かあったはずなのに、懲りない人たちだ。

 それでも、そんな空気感も冒険者の醍醐味ではあった。



 そんな中、こちらに向かってくるパーティがあった。

 ロレーヌさんたちだ。新人冒険者の研修など、ティバレーの街で一番関わりが深い人たちだろう。こちらに歩み寄ってくると、


「もう少しだけ、街に居てくださいよ! まだまだ、教えられてないこともあります。全然、アレスさんたちに恩を返せていないのに──」


 必死にそんなことを言ってきた。

 憎からず思ってくれているのは嬉しいが、



「ごめんなさい、もう決めたことなんです。冒険者になったからには、夢を追いかけたい──師匠がたどり着けなかった世界の果てに、たどり着きたいって。ずっとそう思っていたんです」

「……そうか。険しい道だが、アレスさんらしく、とても冒険者らしい──素敵な夢だ」


 それでも僕の言葉に、最終的には笑いながらそう言ってくれた。


 どれだけ無謀なことであっても。

 そこにどうしようもないロマンを感じてしまうのが、冒険者という生き物なのだろう。共感できてしまう以上、それを止めることなど出来るはずがなかった。



「……はるか昔、同じように夢を見て魔界に挑んだ冒険者が居たんだ。どれだけ馬鹿にされても、俺こそが人類ではじめて世界の果にたどり着くんだと。真顔で言うような奴だったらしい」

「すごい冒険者なんですね」


「ああ。私の憧れの冒険者だ。名前はルキウスと言ってな──きっとアレスさんのように、夢を真っ直ぐ追いかける人だったんだろうな」

「ルキウス? それ、僕の師匠です。ロレーヌさんが、まさか師匠の名前を知っているとは……」


「なに!? ルキウスの弟子だと!? どうして、それを言ってくれなかったんだ!」


 そう言うと、ロレーヌさんがクワっと目を見開き、僕をゆさゆさと揺さぶった。



「き、聞かれなかったですし……」

「そ、それもそうか。冒険者の中で、ルキウスの名前を知らない者は居ない──あの御方もまた、多くの冒険者に夢を与えたある種の英雄だな」


 どうやら僕の師匠は、冒険者の間では随分と有名人らしい。

 随分とすごい人に剣を教わっていたんだな、と僕は今さらながらに感慨に浸る。

 今の僕があるのは、間違いなく師匠のおかげだ。



「どれだけ夢を見て冒険者になっても、現実はその日を生きていくだけで精一杯。いつしか夢は色褪せていくものだ──その夢をどうか大切にして欲しい」

「はい、ありがとうございます。ロレーヌさんのこと、僕の恩人としていつか師匠に紹介しますね」


「そ、そんな恐れ多いこと──!」


 いつでも冷静沈着なロレーヌさんが、何故かひどく慌てた様子で首を振っていたのが印象的だった。

 師匠、剣を握れば人が変わったようだけど、普段は酒を飲んでる冴えないおじさんなんだけどな……。憧れは憧れのままで──幻滅されないように会わせない方が、お互いに幸せかな?

 そうして僕はロレーヌさんと別れて、ティアたちと待ち合わせていた街の東門に向かうのだった。




◆◇◆◇◆


 目的地は、魔界近くのフェジテ砦。

 道中でバグを倒しつつ、まずは魔界をこの目で見ようと思ったのだ。


 東門では、すでに3人が勢揃いしていた。


「アレス、遅いっ! 遅刻、10分の遅刻よ!(別に楽しみすぎて、ずっと前からそわそわと待ってたりなんてしてないんだから!)」

「ご、ごめん。ついつい話が長引いちゃって……」


「お兄ちゃん、何してたの? もしかして、またバグ見つけちゃった?」

「そんなにポコポコあってたまるか……!」


「アレス様、どこまでもお供します」

「ありがとう、リナリー」


 ──これまで以上に危険な旅路だろう。


 それでも、大災厄すら共に乗り切った頼れる仲間と一緒なら。

 どんな危機だって乗り越えられる。そう根拠のない確信があった。



「ティア、リーシャ、リナリー。改めて──これからもよろしく!」


 師匠すら至れなかった世界の果てにも、きっとたどり着ける。

 新たな旅の予感を胸に、僕たちは街の外に足を踏み出すのだった。

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