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アーヴィン家の執務室で、一人の男がくたびれた顔でため息を付いていた。
その男の名は、ピザン・アーヴィン──アレスの父で、アーヴィン家の領主であった。
「どうして、こんなことになったのだ……」
悩みのタネは尽きない。
すべての誤算は、《神託の儀》でアレスが外れスキルを授かったことから始まった。神官の言うことをすべて鵜呑みにして、ろくに調べず、早々に追放を言い渡したのだ。
アーヴィン家のメンツのため、家から外れスキル持ちが現れたなどという事実は、あってはならないのだから。
「領内の兵士では、手も足も出なかったカオス・スパイダーの変異種を、アレスのパーティが単独で撃破した!?」
「洞窟に現れた"邪神"を単独で撃破して、"称号持ち"の冒険者になった!?」
だというのに入ってくるのは、耳を疑うようなアレスの活躍だった。
アレスの名声が高まるにつれて、アーヴィン家には疑いの目が向いた。
あれほどの冒険者が、まさか外れスキル持ちのはずがないと。
アレスのスキルは、非常に優秀だった。誰も見たことがない効果を、次々と発揮していったのだ。まさに神に愛されたユニークスキルに違いないとの評判で──その実力を見抜けずに追放を言い渡すなど、有能な領主であればあり得ない失態だ。
「おい! アレスの奴は、ほんとうに外れスキル持ちだったんだろうな──!」
儀式を担当した神官を問い詰めようとしたが、彼はとっくに行方をくらませていた。途方に暮れるとは、このことだった。
おまけに次期領主となるはずのゴーマンは、ひどいものだった。
いずれは次期領主としての自覚が出てくるだろうを期待したが、現実はその逆。レアスキルを手にしたゴーマンは、これ以上ないほどに喜び舞い上がった。世界が自分を中心に回っていると言いたげに、これまで以上に自由奔放に振る舞ったのだ。
しかしアレスの婚約者のティアは、ゴーマンを選ばなかった。
それどころかお気に入りの専属メイドにすら逃げられる。
それを逆恨みして、アレスを相手に決闘騒ぎ。
そして──
「ゴーマン! お前は、なんてことをしてくれたんだ……!!」
誰がどう見ても、ただの逆恨みだった。
それでもせめて、ゴーマンがレアスキル持ちの名に恥じない戦いをしていれば、まだ状況は変わったかもしれない。しかし、現実はアレスの力を見せつけるだけの結果となった。
すべての行動が、ことごとく裏目っていた。
そして発生した大災厄。
領内で未曾有の大事件が起きたにも関わらず、アーヴィン家はその発生を予測することすら出来なかった。否、国の方でも予期することは出来なかったのだ。仕方のないことではある。
アレスの要請で世界各地から優秀な冒険者が集められ、彼はそのまま大災厄を無事に解決してしまったのだ。
アレスは今や、街の──否、国にとっての英雄だ。国王陛下から呼び出され、直々に感謝の言葉を贈られたと言う。
「どうすれば良いのだ……」
ピザン・アーヴィンの頭を悩ませていたのは、国王からの招待状だった。
アーヴィン家は、辺境の守りを任されているだけの小さな貴族だ。これは中央の権力者と繋がりを作るチャンス。以前なら喜び勇んでいたところだろうが、恐らくは喜ばしい知らせではない。
◆◇◆◇◆
時は待ってはくれない。
またたく間に指定された日になり、アーヴィン家の領主であるピザンは、王城に向かう。
王城に入った先で、国王陛下は不思議そうに、
「アーヴィン家の跡取りは、ゴーマンであったな? 姿が見えないようであるが?」
「はっ。彼には謹慎を言い渡しています。当分は、家で大人しくしているかと」
未だに教育も不十分なゴーマンを、連れてくることなど出来ない。
まして彼は決闘騒ぎを引き起こし、一部では今回の大災厄のトリガーになったなどとも噂されている。
「ピザン・アーヴィン。アレスを追放したのは、彼が外れスキルを手にしたからに相違ないな?」
「……はい」
「しかし本当は、外れスキルなどではない。それどころか、決して替えの効かないユニークスキルであったと。大切に保護しなければならないところを、保身のために追放を言い渡したと。……実の息子にも関わらず」
「すべてはその通りにございます」
「嘆かわしいことだ」
そもそもが外れスキルだからと追放すること自体が、あまりにも非常識だったのだ。国王は失望をあらわにした。
「我が娘も、随分とアレス殿を気に入ったようでな。今後は、アーヴィン家との付き合い方は考える必要があるか……」
ぽつりと呟いた国王の言葉。
それはピザンにとって、死刑宣告のようにも感じられた。
「お待ち下さい! すぐにでも、アレスの奴を連れ戻しますので。」
ピザンはがくがく震えながら、真っ青な顔でアーヴィン家に戻るのだった。






