60
大災厄との戦いの一部始終。
そのすべてを見届け、ゴーマンが僕の方に歩いてくる。
どうやら自分は大災厄を起こすために利用されたらしいということに、気が付いたのだろう。
「なあ、アニキ。アニキが得た力は、いったい何なんだ?」
僕のスキルが、自らの得た【極・神剣使い】のスキルより優秀であること。
それを認めることは、自らのアイデンティティを手放すことと同義だ。
それでもゴーマンは見たものを、ありのままを受け入れようとしていた。
自らが得たスキルを誇る傲慢な弟の姿は、そこには無かった。
「このスキルは、歴代のデバッガーの――世界を守りたいと願って生きてきた人たちの願いの結晶だよ」
このスキルは世界に干渉して自在に操るスキルである。
でもその本質は女神が――歴代のデバッガーたちが繋いできた世界を守りたいという願いなのだと思う。
僕がアルバスを上回ったのは、そういう部分なのだから。
「そうか。アニキは、俺なんかより大切なものを手に入れてたんだな」
ゴーマンはしみじみと呟く。
「なあ、アニキは俺たちを憎んでないのか?」
まるで憑き物が落ちたように、ゴーマンはそんなことを聞いてきた。
「それ、僕が答える意味がある?」
――恨んでいるか?
気にしていないと言えばウソになる。
憎んでいると言ってもウソになる。
もはや僕にとって、過去は過去でしかない。
こうして世界をデバッグしながら、旅するきっかけに過ぎないものになっていた。
「僕がどう思ってたとしても。ゴーマン、君がやるべき事は何も変わらないよね?」
「ああ、嫌になるぐらいその通りだ。アニキのそういうサッパリしたところ――やっぱり嫌いだぜ。絶対に敵わねえ」
いつになく素直な言葉だった。
「なあ、アニキ? やっぱり戻ってこないか?アニキが出て行って痛感したよ。屋敷の連中が俺を見る目――悔しいけど、俺はアニキには成り代われねえよ」
「それで?」
僕はゴーマンをそっと促す。
「アレス。おまえの周りには、いつだって人が自然と集まってるよな。外れスキルを授かって全てを失ったと思っても、気が付けばアニキがすべてを持っていた。俺はすべてを失って……。アニキの周りには自然と人が集まるんだ――俺は領主なんて器じゃねえよ」
「いつになく弱気なことを言うね?」
思わず僕はゴーマンの言葉を遮っていた。
「すべてを失っただって?」
「ああ。だって、そうだろう? すべての期待を裏切って。こうして失態をさらして――もう誰も俺に期待なんてして無えよ」
いつになく弱気な発言。
ゴーマンの手に入れたスキルは、極めてレアなスキルに違いない。
そこにはまだまだ可能性が秘められている。
今まで何もしてこなかったのなら、そこには無限の可能性が秘められているのに。
どうして何もせずに、そんなことを言えるのか。
「それこそ、ふざけないでよ?」
「アニキ……?」
「君がスキルを手にしたとき、寄せられた期待は本物だろう? そのスキルには、まだまだ可能性があるさ。裏切ったと思うなら――それこそ死に物狂いで取り返すべきだよ。今からでもスキルを極めて、認めさせるべきだ。違う?」
ゴーマンは目を見開く。
「そんなこと、今からでも出来るのかな?」
「知らないよ! ……少なくとも、僕は期待してるよ? ゴーマンのスキルが、まだ僕の知らない【極・神剣使い】の姿を見せてくれるってことを」
スキルの可能性の片鱗を伝えたくて、僕は決闘の場で『虚空・天破!』を使って見せた。
それは可能性の始まりに過ぎない。
それでもゴーマンの持つスキルの、あり得る未来の導きとなることを願って。
「何を言ってるんだ? アニキはもう極めてるだろう?」
「ゴーマン……。スキルを極めるっていうのは、そんな簡単なことじゃないよ」
たとえばチートデバッガーというスキル。
このスキルには、まだまだ未知の可能性が眠っている。
一生かけても機能を十全に引き出すことは困難――それが神託の儀で与えられるスキルなのだ。スキルに秘められた可能性なのだ。
「それなら、俺なんかにどうやって?」
ここまで弱気なゴーマンは珍しい。
まるで別人を相手にしているようだ。
スキルという拠り所を失って、すっかり心が折れてしまっているのだろうか。
仕方ないな……。柄じゃあないけど――
「師匠は絶対に見捨てないよ。稽古に出てこない君のことを、いつも気にかけてた。やる気になった相手は、どんな人も導こうとする人だから」
厳しくも優しかった師匠。
恐ろしい人だと思われがちだが、領主になりたいと。相応しくありたいと。そう願ったなら、本気で向き合ってくれる人だ。
気が付けば、ティアとリーシャが僕たちを見ていた。
割って入ろうかとオロオロと、不安そうに見守っているようだ。
追放された兄と、追放した弟。
因縁の深い2人だ。
決闘で命も奪い合った仲――当然だった。
「僕はこれから、ギルドに報告に行く。だから――ここで解散だ」
「ああ」
まだ何か言いたそうなゴーマン。
その瞳の迷いは未だに大きい。
そんな迷いを抱えるぐらいなら。
「ゴーマン、過去を悔やむぐらいなら――そんな暇があるのなら、少しでも前に進んで欲しい。それが手にした者の義務だ」
次期領主の座。
結果的に、ゴーマンは望むものを手に入れはした。
そこから先の道が、どれだけ茨道であろうとも――手にしたからには、その使命は果たせ。
僕から言えるのは、それだけだった。
「ああ。まったく――本当に、アニキには敵わねえ。でも俺だって、ちゃんと極スキル持ちだ。次あった時には、あんな邪法に頼らなくても良いぐらいに強くなる。俺の方が領主に相応しいと――正々堂々とぶっ倒してやるさ」
ようやくと言うべきか。
ゴーマンは調子を取り戻したのか、不敵な笑みを浮かべなら僕にそう宣言してきた。
真っ直ぐに前を向くという宣言。
「うん、それで良い。次会う時を楽しみにしてるよ」
今はそれが聞けただけでも安心だった。
そうして僕はゴーマンと別れ、ティアたちと共に冒険者ギルドに戻るのだった。






