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目の前に居るドラゴン。
それは相変わらず恐ろしいモンスターではあったけど。
その巨体は恐怖の象徴ではなく、ただの乗り越えるべき障壁。
「暗黒竜バハムート! せっかく復活したところ悪いけど、一瞬で決めさせて貰うわよ!」
そうして私は、ドラゴンに向かって駆け出すのだった。
◆◇◆◇◆
ドラゴンの攻撃は、喰らっただけで即死する現状。
ならば長期戦を挑むのは当然不利だ。一瞬でカタを付ける必要がある。
ドラゴンのメインの攻撃手段は、ブレス攻撃だ。
間違ってもリナリーたちを巻き込まないように、私はぐるりと回り込み、距離を取った。
「アレスのバフ、本当にデタラメな性能ね――!」
そうして気が付く。
アレスは【剣姫】スキルの全性能を6倍にすると言っていた。
それは技の攻撃力に限らず、パッシブスキルによる効果まで――
「いつになく体が軽い! これならドラゴンが相手だって――!」
剣姫の戦い方は、独特だ。
スキルレベルを上げるほどに、攻撃力とスピードにボーナスを得られる。
基本的にはそのスピードで敵を圧倒し、一気に敵の懐に飛び込み急所を貫くような戦い方をする。
アレスのバフにより、私のスピードは飛躍的に高められていた。
ドラゴンの強大な口に、魔力が集まっていく。
凝縮されたマナが、空間を揺るがすように集まっていき一気に放出されたが――
「遅いっ!」
それこそドラゴンのブレスが、射出されてからでも楽に躱せる程度には。
私なんて、掠っただけで蒸発してしまうだろう。
だからこそ常に細心の注意を払う必要があるが――決して恐れる相手ではない。とにかく前に進むしかないのだから。
絶対に仕留められると確信した一撃だったのだろう。
あっさりと躱されたドラゴンは、苛立ったように咆哮を上げた。
グルルル……
「『バーサク剣姫』ね。良いじゃない」
私の動きが、ドラゴンすら困惑させた。
自分が圧倒的な強者になったような錯覚すら覚えてしまうが――勘違いしてはいけない。これはアレスから授かった力だ。
HPを確認すると、ゾッとするような勢いでゴリゴリ削れていた。
忘れてはいけない。これは時間制限付きの恩寵なのだ。
「ゆっくりはしてられないわね。回復薬は、飲まないで良いか」
削れたHPは、攻撃力に転換される。
そう思えばこのデメリットすら、利点となる。
今のスピードでも、ブレスをゼロ距離で避けるのは不可能。
どうにか隙を突き、一気に距離を詰める必要がある。
私はドラゴンと一定の距離を取りながら、その周りをグルグルと回り始めた。
常に高速で移動することで、狙いを絞らせないためだ。
グルアアアアア!
絶対の自信を持っているのか。
ドラゴンが再びブレスを吐き出した。
「だから遅いのよっ!」
いくらドラゴンと言っても、連続でブレスを放つことなど出来ない。
私はドラゴンのブレスを回避すると、一気に駆けだした。
剣姫スキルの影響で、一瞬でトップスピードまで加速。
一瞬でドラゴンの巨体に肉薄する。
たしかにドラゴンと視線が交わった。
ブレスすら打てない状況で、接近を許したドラゴンが浮かべていたのは、怯えではなく勝利への確信。
ドラゴンが秘密裏に発動していた闇属性の魔法が、そこで完成する。
その影響範囲は、自分の周囲のごくごく短い影響範囲。
私はみすみす、その効果範囲に誘い出されてしまった形だ。
まんまとかかった私を嘲笑うように、ドラゴンは今度こそ勝ち誇ったように咆哮を上げた。
「分かってるのよ! あんたが、何か仕掛けようとしていたことは――!」
『天空翔!』
間一髪で、空高くに飛び上がり難を逃れる。
次の攻撃に繋げるための高速移動技――いつもの6倍の性能のそれは、私自身ですら信じられないようなスピードをもたらした。
回避不能のはずのドラゴンの魔法は、空振りに終わる。
私の動きがあまりに予想外だったのだろう。
ドラゴンは、私のことを見失ったようだ。
この一瞬の隙を逃さぬため。
『アイス・シールド!』
私は空中に足場を作り、力強く蹴りだす。
飛び上がった勢いをそのまま反転し、更に加速しながらドラゴンの元に落下していく。
「遅いっ!」
ドラゴンが再びブレスの準備をはじめる。
今度こそ回避は不可能。ならば私にできることは、この一撃を何よりはやく叩き込むことのみ。何よりも早く。この一撃にすべてを賭ける覚悟で――
「『氷華・乱舞』!」
まるでスキルがささやきかけてくるようだった。
本能に従い土壇場で繰り出したのは新スキル。
『剣姫』スキルの中でも最上位スキルの1つ。
氷でできた冷徹な花が、ドラゴンを覆いつくすように咲き乱れた。
やがて氷の華が消えていく。
そしてそれと同時に――
グオオオオオォォォ……
おぞましい咆哮と共に。
バタリとドラゴンが倒れ込んだ。
「どうにか……。なったの?」
あまりの激闘。
いまだに実感が無く、私は呆然とドラゴンを見つめることしか出来なかった。
とりあえず念のためにと、アレスに渡されたエクスポーションを飲み干す。
この激闘を経て、結局アレスにかけられた支援効果で死んだりしたら、死んでも死にきれない。
――――――――――
【実績開放】称号「ドラゴンスレイヤー」を獲得
――――――――――
実感のない私を祝福するように。
頭の中に直接、不思議な声が響いた。
――――――――――
◆ ドラゴンスレイヤー
ドラゴンを討伐したものに送られる称号
――――――――――
ドラゴンはもう、ピクリとも動かない。
「やった。やったんだ――!」
そう思うと、途端に力が抜けてしまい。
私はぺたりと、その場に座り込んでしまった。
座り込みながら、アレスの方を見る。
彼が向き合うのは、大災厄を引き起こした全ての元凶。
私たちのそれとは比べものにならない、人智を超えた場所での争い。
とても、とても悔しいけれど。
今の私では、ここが精いっぱい。
あの隣に立つことはできないけれど――
「アレス、そんな奴に負けるんじゃないわよ!」
祈るような呟きながら。
私はアレスの戦いを見守るのだった。
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俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
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