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そうして僕たちは、コウモリの洞窟に足を踏み入れた。
Fランクの弱いモンスターしか出なかった前回とは違う。
「うわ、本当に浅層にSランクのモンスターが跋扈してるのね……」
「さすがSランクダンジョンだね。気を引き締めていかないと……『状態異常付け替え――極・ライフアップ!』」
一歩間違えたら即パーティ全滅もあり得る。
前回と同じだと思ったら痛い目に遭う――ここは、凶悪なSランクダンジョンなのだ。
僕は最大HPを増加させる支援効果を、パーティ全員に付与した。
「アレス様? それは何ですか?」
「最大HPを上げる支援効果だよ。といっても格上相手だと、気休めにしかならないと思う。リナリーとリーシャは、極力モンスターから身を隠して欲しい――」
「たしかにSランクダンジョンのモンスターの相手は、私たちには荷が重いですね。アレス様の心遣いに甘えさせて貰います」
「うう……。私もデバッガーのスキルが使えれば」
僕の言葉に、頷くリナリーたち。
「ちょっとアレス? まさか自分だけで戦うつもり?」
一方のティアは、どこか不満そうだった。
「ううん。僕だけだと限界あるし、ティアには前衛でアタッカーになって欲しい。……すごく危険だと思うけど――」
「それなら良いわ。任せて!」
パッと表情を明るくして、「危険なんて冒険者には付き物よ」とティアは笑みを浮かべる。
危険な前衛をお願いしたのに、ここまで喜ばれるなんて……。
そうして僕たちは、ダンジョンの中を突き進むのだった。
ダンジョンに入り少し歩いたところで、僕たちを迎えたのはダンジョン・サイクロプスだった。
レベル43の怪物――僕は、前回のように『極・精霊使い』のスキルを使って、精霊を駆使してモンスターを討伐していく。
「リナリー、ほかにモンスターの気配はない?」
「はい! この周辺に居るのは、そいつだけだと思います!」
リナリーの探知スキルは、ほんとうに優秀だった。
戦闘を避けようと思えば避けれるほか、他のモンスターとの交戦中に不意打ちの心配もない。
「『アイシクル・シャープネス』』――ティア、大丈夫?」
「バッチリよ! アレスの支援効果、本当にすごいのね!」
精霊をすり抜けてきたモンスターの相手をするのは、ティアだ。
僕は完全復元コードである『状態異常付け替え』を、自由自在に操ってティアを支援していた。
さっき僕が使ったのは、氷属性の魔法の威力を、一度だけ8倍まで引き上げる支援効果だ。
「『アイシクル・シュート!』」
ダンジョンサイクロプスは、物理攻撃に対しては耐性を持っている。
ティアが放った魔法は、僅かに残った格上であるはずのダンジョンサイクロプスのHPを、的確に削り切った。
「さすがティア、お疲れさま!」
「何がさすがよ? あれだけ苦戦したダンジョンサイクロプスが一撃なんだけど。アレス、また訳の分からないスキルを手に入れてたのね?」
「ううん、これも前回手に入れた『状態異常付け替え』の効果だよ。僕が使ったのは、その効果のうちの1つ――ただの支援効果だよ」
「ただの支援効果、ねえ……」
ティアがじとーっとこちらを見た。
通常のバフの効果は攻撃力を1.2~1.3倍にする程度。
氷属性の魔法を一度限りとはいえ、8倍という支援効果はたしかに並外れて高い。
「ティア、本当に気を付けてね。いくら攻撃力が上がっても、敵は格上だからね。一撃でも貰ったら、それが致命傷になりかねない」
「うん、分かってる。今、私が戦えてるのは、全部アレスのおかげだもん」
それは大げさだと思うけど……。
ティアが本当にただの素人なら、隙を突かれてとっくに攻撃を貰っている。
Sランクモンスターを圧倒しているのは、支援効果だけでなく、ティアのもともとの技術があってこそだ。
「多少の危険は、最初から覚悟してるわ。こんなところで、立ち止まって居られないもの(そして、いつか本当の意味で、アレスの隣に立ってやるんだから!)」
「え?」
「何でも無いわ!」
ティアは慌てたように剣を構え直し、前を向いた。
「前方30メートル――角を曲がったところに、どろどろヘドロ! 来ます!」
「リナリーのそれ、凄すぎない? ――『エンチャント・ホーリーナイト』ティア、次は物理攻撃が弱点。【剣姫】スキルが有効だよ」
「分かったわ!」
その後も、ダンジョン攻略は順調だった。
リナリーの探知スキルで、モンスターの群れとの交戦は極力避けながら、ダンジョンを進んでいく。
ときどき現れるモンスターは、前回の記憶を頼りに、的確に弱点を突いて葬っていった。
「お兄ちゃん! みんな強すぎて、私の出番がないよ~?」
大量の賢者の石を抱えながら、リーシャがそんなことを言った。
……回復担当に出番が来ないのは、良いことだよね?
「う~ん、攻撃アイテムも持っとく?」
「いらない! ティアお姉ちゃんに万が一のことがあったら、すぐにでも賢者の石を使う方が大事だもん!」
ぶんぶんとリーシャは首を振る。
そんなことを喋りながら。
気がつけば、僕たちは、ダンジョンのボス部屋の前に到着していた。






