45
決闘の日の夜。
僕とティアは、2人で宿の部屋で顔を見合わせていた。
2部屋に分かれて男女別にしようとしていたが、何故かリナリーが「アレス様は、ティア様とお泊まり下さい!」と熱弁したのだ。
そうしてリーシャを連れて、隣の部屋を取ってしまったのだ。
「アレス、お疲れ様! まあ全然、心配なんてしてなかったけどね!」
「ありがと、ティア!」
「私も、ありがとう。そして……ごめんなさい」
「え、何が?」
意味が分からず首を傾げる僕に、ティアはポツリと言葉を漏らす。
「だってこの決闘、どう考えても私がしっかり断れなかったせいよね?」
「あれはどう考えてもゴーマンが悪いよ。……むしろ、弟が迷惑かけてごめん」
「アレスが謝ることは無いわ。最終的には全部、私の言葉が原因じゃない。まさか、こんな大事にしてくるなんて……」
「ティアが気にする必要はないよ。あれは明らかにゴーマンが悪いし……」
決闘騒ぎにしたのはゴーマンだ。
まさか闘技場を貸し切って、大々的に噂を流して舞台を整えるとは思っていなかったけれど……きっと、目立ちたかったのだろう。
「決闘だって悪いことばかりじゃないよ。僕だって、極・神剣使いの使い手と戦ってみたかった。冒険者としてやっていくなら、こういう事もなれておいた方が良いもん」
荒くれものの多い冒険者だ。
いくら冒険者ギルドが取り仕切っているとはいえ、揉め事は基本的には当人たちで解決するもの――決闘騒ぎは、別に珍しいことでもない。
そう口にしても、ティアの表情は晴れなかった。
「私、アレスの役に立つどころか、いきなり足を引っ張って……」
ティアここまでしょんぼりしているのは、珍しい。
僕が知るティアは、いつだって自信満々で、言いたいことは堂々と言い切った。
……いいや、これもティアが見せてこなかった一面なんだろう。
ティアの気持ちも分かるけど、そんな心配はいらないのに。
僕は少しだけ考え、ティアの額に手を当ててみた。
「ティア? 熱でもあるの?」
「――は?」
僕の言葉に、案の定、ティアは目を三角に尖らせた。
そんな表情を見て安心してしまうのは、間違っているのだろうか?
「だって、そんな気にしてもしょうがない過去の話。いつまでも引きずって……らしくないよ?」
「な! そんな言い方しなくても――!」
ティアはキッと僕を睨もうとして、力なく目を逸らした。
やっぱり、らしくない。
「それを言うなら、最初に巻き込んだのは僕だよ。身勝手な自分の夢に、ティアを巻き込んだ」
「それは違うわ! 私が自分の意思で、アレスに付いていくって決めたんだもの!」
もちろん分かっている。
申し訳ないと思う心もあるが、それはもう口にしても意味が無い。
だからこそ、せめてパーティメンバーとして支えていきたいと思っている。
「僕だって同じだよ。ティアと旅を続けるために、ゴーマンを返り討ちにした。それだけだよ」
「でも、それは私の……」
「だから、そこにティアは関係ないよ。僕がティアと旅を続けたかった。今回のことだって、僕が、自分のために、そうしたくて、ただ決闘を受けただけなんだから」
それ以上でも、それ以下でもない。
ティアがどう思っていても、僕の行動は、僕だけのものだし、それだけが真実だ。
「もう……。アレスはずるいよ」
とはいえ、納得できるものではないだろう。
ティアは不満そうな顔をしながらも、そのままベッドに潜り込んだ。
「そんなこと言われたら、何も言えないじゃない」
弱々しい声。
そして、訪れる沈黙。
僕は何と声をかけて良いか、分からなかった。
考えた末に、出てきた言葉は、こんなものだった。
「ティア、信じよう。相手の身勝手さを――」
「どういうことよ?」
「だって、僕たちはお互いに、これ以上ないほど身勝手なんだよ? お互い、絶対に自分がやりたい事しか、しないと思う。……そう思えば、迷惑かけたかもなんて、悩むのも馬鹿らしくならない?」
「何よそれ……」
寝返りを打ったティアは、いつものように呆れた目で僕を見た。
それでも、少しだけ晴れやかな顔をしているのは気のせいだろうか。
「私、絶対にアレスの力になれるように頑張るから。隣に立てるように、頑張るから――」
そんな静かな誓いと共に。
ティアは静かに寝息を立て始めるのだった。
「ティアにはずっと助けられてるよ」
僕は小さく呟く。
外れスキル持ちだと、実家から追放されたとき。
これまでの生き方を否定されたような気すらしていた僕が、前向きに夢を追いかけようと思えたのはティアのおかげだ。
ティアは大切なパーティメンバーだ。
でも彼女が望むのは、僕が守ることではない。
隣に立って、共に戦うことなのだ。
『状態異常の付け替え!』
チートデバッガーのスキルを使って、僕だけが強くなっても仕方がない。
いずれティアを頼るときが来るだろう――そんな予感があった。
「【剣姫】の固有バフ『エンチャント・ホーリーナイト』――固有技の効果を4倍に引き上げる、か。『アイシクル・シャープネス』――氷属性の魔法の威力を倍にする。これも使えそうだよね」
ティアは凄腕の冒険者だ。
その能力をさらに引き出すためにも、チートデバッガーは十分に役に立つ。
僕は目的の支援効果を即座にティアに付与できるよう、『状態異常の付け替え』のコードを何度も使ってみたい。
「うん。こんなもんかな――」
これなら十分に実戦でも使えるだろう。
そう思って、僕は大きくノビをして眠りについた。






