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 決闘の日の夜。

 僕とティアは、2人で宿の部屋で顔を見合わせていた。


 2部屋に分かれて男女別にしようとしていたが、何故かリナリーが「アレス様は、ティア様とお泊まり下さい!」と熱弁したのだ。

 そうしてリーシャを連れて、隣の部屋を取ってしまったのだ。



「アレス、お疲れ様! まあ全然、心配なんてしてなかったけどね!」

「ありがと、ティア!」


「私も、ありがとう。そして……ごめんなさい」

「え、何が?」


 意味が分からず首を傾げる僕に、ティアはポツリと言葉を漏らす。



「だってこの決闘、どう考えても私がしっかり断れなかったせいよね?」

「あれはどう考えてもゴーマンが悪いよ。……むしろ、弟が迷惑かけてごめん」


「アレスが謝ることは無いわ。最終的には全部、私の言葉が原因じゃない。まさか、こんな大事(おおごと)にしてくるなんて……」

「ティアが気にする必要はないよ。あれは明らかにゴーマンが悪いし……」


 決闘騒ぎにしたのはゴーマンだ。

 まさか闘技場を貸し切って、大々的に噂を流して舞台を整えるとは思っていなかったけれど……きっと、目立ちたかったのだろう。



「決闘だって悪いことばかりじゃないよ。僕だって、極・神剣使いの使い手と戦ってみたかった。冒険者としてやっていくなら、こういう事もなれておいた方が良いもん」


 荒くれものの多い冒険者だ。

 いくら冒険者ギルドが取り仕切っているとはいえ、揉め事は基本的には当人たちで解決するもの――決闘騒ぎは、別に珍しいことでもない。

 そう口にしても、ティアの表情は晴れなかった。



「私、アレスの役に立つどころか、いきなり足を引っ張って……」


 ティアここまでしょんぼりしているのは、珍しい。

 僕が知るティアは、いつだって自信満々で、言いたいことは堂々と言い切った。

 ……いいや、これもティアが見せてこなかった一面なんだろう。



 ティアの気持ちも分かるけど、そんな心配はいらないのに。

 僕は少しだけ考え、ティアの額に手を当ててみた。


「ティア? 熱でもあるの?」

「――は?」


 僕の言葉に、案の定、ティアは目を三角に尖らせた。

 そんな表情を見て安心してしまうのは、間違っているのだろうか?



「だって、そんな気にしてもしょうがない過去の話。いつまでも引きずって……らしくないよ?」

「な! そんな言い方しなくても――!」


 ティアはキッと僕を睨もうとして、力なく目を逸らした。

 やっぱり、らしくない。



「それを言うなら、最初に巻き込んだのは僕だよ。身勝手な自分の夢に、ティアを巻き込んだ」

「それは違うわ! 私が自分の意思で、アレスに付いていくって決めたんだもの!」


 もちろん分かっている。

 申し訳ないと思う心もあるが、それはもう口にしても意味が無い。

 だからこそ、せめてパーティメンバーとして支えていきたいと思っている。



「僕だって同じだよ。ティアと旅を続けるために、ゴーマンを返り討ちにした。それだけだよ」

「でも、それは私の……」


「だから、そこにティアは関係ないよ。僕がティアと旅を続けたかった。今回のことだって、僕が、自分のために、そうしたくて、ただ決闘を受けただけなんだから」


 それ以上でも、それ以下でもない。

 ティアがどう思っていても、僕の行動は、僕だけのものだし、それだけが真実だ。



「もう……。アレスはずるいよ」


 とはいえ、納得できるものではないだろう。

 ティアは不満そうな顔をしながらも、そのままベッドに潜り込んだ。


「そんなこと言われたら、何も言えないじゃない」


 弱々しい声。

 そして、訪れる沈黙。


 僕は何と声をかけて良いか、分からなかった。

 考えた末に、出てきた言葉は、こんなものだった。


「ティア、信じよう。相手の身勝手さを――」

「どういうことよ?」


「だって、僕たちはお互いに、これ以上ないほど身勝手なんだよ? お互い、絶対に自分がやりたい事しか、しないと思う。……そう思えば、迷惑かけたかもなんて、悩むのも馬鹿らしくならない?」

「何よそれ……」


 寝返りを打ったティアは、いつものように呆れた目で僕を見た。

 それでも、少しだけ晴れやかな顔をしているのは気のせいだろうか。



「私、絶対にアレスの力になれるように頑張るから。隣に立てるように、頑張るから――」


 そんな静かな誓いと共に。

 ティアは静かに寝息を立て始めるのだった。



「ティアにはずっと助けられてるよ」


 僕は小さく呟く。

 外れスキル持ちだと、実家から追放されたとき。

 これまでの生き方を否定されたような気すらしていた僕が、前向きに夢を追いかけようと思えたのはティアのおかげだ。



 ティアは大切なパーティメンバーだ。

 でも彼女が望むのは、僕が守ることではない。

 隣に立って、共に戦うことなのだ。


『状態異常の付け替え!』


 チートデバッガーのスキルを使って、僕だけが強くなっても仕方がない。

 いずれティアを頼るときが来るだろう――そんな予感があった。


「【剣姫】の固有バフ『エンチャント・ホーリーナイト』――固有技の効果を4倍に引き上げる、か。『アイシクル・シャープネス』――氷属性の魔法の威力を倍にする。これも使えそうだよね」


 ティアは凄腕の冒険者だ。

 その能力をさらに引き出すためにも、チートデバッガーは十分に役に立つ。

 僕は目的の支援効果を即座にティアに付与できるよう、『状態異常の付け替え』のコードを何度も使ってみたい。


「うん。こんなもんかな――」


 これなら十分に実戦でも使えるだろう。

 そう思って、僕は大きくノビをして眠りについた。

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