星あつめの ホシオ
夜のまよい森には、いつも小さな光がひとつ、またひとつと瞬いていました。
その光の主は、ホシオというおばけ。
ホシオは、落ちてきた星をひとつずつ拾い集めるのが仕事でした。
体は夜空のような深い藍色をしていて、肩のあたりには小さな星のかけらが光っています。
歩くたびに、さらさらと星屑がこぼれ落ち、森の地面を淡く照らしました。
ある晩のこと。
ホシオはいつものように、森の高い木の上から夜空を見上げていました。
そのとき、ひときわ大きな星が、すっと流れて落ちていくのが見えました。
「わあ……これはきれいだ……でも大きすぎて、ひとりじゃ持てないな」
落ちた星は、まだ熱を帯びており、近づくとまぶしくて息をのむほど輝いていました。
手で触れると、光が痛いほど強くて、指先がじんとしびれるようでした。
困ったホシオは、夜の霧の中に呼びかけました。
「ミル、手伝ってくれる?」
霧の向こうから、ふんわりと白い影が現れます。
「もちろん。わたしの霧の力で、星をそっと包んであげるよ」
ミルの霧がやさしく広がり、星を包み込みました。
二人は息を合わせて、重たい光のかたまりを森の奥の丘へと運んでいきます。
途中、木々の間を通る風がきらきらと光を散らし、枝の先まで星の粉が届きました。
森全体がまるで星空の中に溶け込んでしまったように見えました。
ようやく丘にたどり着いたとき、ミルが霧をそっとほどきました。
そこにはホシオが集めた星々が、小さな宝石箱のように並んでいたのです。
ひとつひとつの光が呼吸をしているかのように、ゆらゆらと輝いていました。
「ありがとう、ミル」
ホシオが微笑むと、ミルはふわりと霧の中へ溶けていきました。
「わたしこそ。ホシオの光、きっと森をやさしくするね」
そのとき、丘の下の池から、淡い光がゆらめきました。
ミズキの水面が、星の光を映し出していたのです。
水に揺れる光は、空の星と森の星をひとつにつなぐように輝きました。
ホシオは思わず息をのみ、手のひらの小さな星に語りかけました。
「よくここまで来たね。君たちは、まだ森を照らしてくれるんだね」
小さな星たちは、まるでうなずくように、柔らかく揺れました。
その瞬間、森の木々が静かにざわめき、夜の空気がほのかに温かくなりました。
その夜、ホシオは一晩中、丘の上で星を並べ続けました。
大きな星のまわりに、小さな光をそっと添え、ひとつひとつに名前をつけていきます。
「これは“風のしらべ”、こっちは“水のひとみ”……」
星たちは、呼ばれるたびにちいさく光を揺らし、森の音に混ざってささやきました。
木々も、鳥たちも、夜の虫たちも。
みんながその光景を見守りながら、息をひそめていました。
まよい森の夜が、まるでひとつの祈りのように静まり返っていきます。
夜明けが近づくころ、東の空がわずかに白みはじめました。
ホシオは集めた星々を見渡し、深く息をつきました。
「いつか、森中の夜をこの星たちで照らしたい」
その言葉は小さかったけれど、丘の上の光たちがそれに応えるようにまたたきました。
まだ誰も知らない夢。
でも、森の小さなおばけたちは、どこかでその願いを感じ取っていました。
ユラリは歌で、ポタリは涙で、チビリンは笑いで。
みんな、それぞれの方法でホシオの夢を見守っていたのです。
その夜、ホシオはひとつの星を手に取り、そっと胸に抱きました。
光が胸の奥にしみこんでいくように、やさしい温かさを感じました。
「ぼくたちは、ひとりじゃなくても、森をきれいにできるんだ」
森の奥では、霧がゆらめき、波紋が広がり、ふわりと光る星屑が漂いました。
まよい森は、ホシオの小さな夢を包み込むように、静かに輝き続けました。
ホシオは知っていました。
自分の小さな手で集めた光が、いつか森を照らす、大きな星空になることを。




