木の実のおばけ ミモリ
まよい森の奥のほうに、ひっそりとした小さな丘がありました。
その丘には、古くから立つ木々が何本も並んでいて、
四季の移ろいにあわせて、それぞれの枝にいろんな実をつけます。
春には白い花を咲かせ、夏には青い実がふくらみ、秋には赤や茶色、金色の実が枝いっぱいにぶらさがり、冬には雪の中でも小さな実がきらきらと光を宿す。
その丘は「実の森」と呼ばれ、森の仲間たちにとって大切な場所でした。
その木々の間を、ふわり、ふわりと漂う小さなおばけがいます。
名前はミモリ。
ミモリは森の木の実を守るおばけです。
体は木の葉のように軽く、風にのって舞い上がることもあります。
まだ小さな姿ですが、枝や葉の間をすばやく飛び回り、熟した木の実が落ちそうになると、ふわっと両手で受け止めるのです。
ミモリの触れるところからは、淡い金色の光がこぼれます。
その光は温かく、木の実をやさしく包み、鳥や虫たちがその場所を覚えられるように印を残すのでした。
ある秋の夜のこと。
丘の上に強い風が吹きつけ、木々の枝がざわざわと鳴りました。
森じゅうがざわめき、枯葉が空を舞い、
熟したドングリや赤い実が、ぽとん、ぽとん、と落ちそうになります。
「待って、落ちないで!」
ミモリは枝の間をすり抜けながら、小さな手を伸ばしました。
ふわりと風に押されながらも、落ちる実を受け止め、ひとつ、またひとつと、抱きしめるように守ります。
けれど風はどんどん強くなっていきました。
木々がしなり、夜空が鳴ります。
そのとき、森の仲間たちがやってきました。
風のおばけのヒューが、空をなでるように飛んできて、
「大丈夫? ミモリ!」
と声をかけます。
葉っぱのおばけのパリィたちは、枝の上をくるくると回りながら、落ちそうな木の実を葉っぱの手で受け止めました。
そして木の影からは、カゲルがこっそり現れます。
「ミモリ、大丈夫か?」
ミモリは、ふわふわと揺れながら答えます。
「うん、大丈夫。でも……みんなの力があれば、もっとたくさん守れるんだ」
その言葉に仲間たちはうなずき、すぐに動き出しました。
ヒューが風の流れを弱め、パリィが落ち葉で地面をやわらかくし、カゲルが木々の影のあいだを飛びながら実の場所を知らせます。
ミモリはその光景を見て、胸の奥がじんわりとあたたかくなりました。
「ありがとう……」
ミモリは木の枝にそっと触れ、熟した実のひとつひとつに金色の光をのせていきます。
すると、光が木の実のまわりでふわっと広がり、小鳥やリスが遠くからでも見つけられるようになりました。
夜が深まるほど、森は静かになり、木の実のまわりに浮かぶミモリの光が、小さな灯のように森を照らします。
まるで丘の上に星が降りてきたようでした。
その光の中で、ツキミがそっと現れました。
「ありがとう、ミモリ。君のおかげで、森のみんなは安心して食べられるね」
ミモリは照れくさそうに笑い、木の葉の影に身を隠しました。
ふわりと風が吹くと、ミモリの光がいくつも舞い上がり、それが木々の間を渡りながら、森の夜をやさしく包みこみます。
「みんなが笑ってくれるなら、それでいいの」
ミモリは小さくつぶやきました。
その声は風にのって遠くまで届き、やがて森のどこかで眠る生き物たちの夢の中にも、ほのかな光となって揺れていました。
夜が終わり、東の空が白みはじめるころ、ミモリの姿は、朝霧といっしょにゆっくりと消えていきます。
けれど丘の上の木の実が朝日に光るとき、そこにはかならず、ミモリの残した金色のぬくもりがありました。
森の実りを見守る、小さなまもりの精。
それがミモリというおばけなのです。




