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きらめく雫 リリュ

 まよい森の奥深く。

 月の光さえ届くか届かないかというほど、しんと静まり返った場所に、小さな泉がありました。

 その泉のほとりに、ひとりの小さなおばけが住んでいます。

 名前は、リリュ。

 リリュは、水の精のように透きとおる体を持ち、触れたものすべてにやわらかな光を宿すおばけです。

 彼のいるところでは、水がいつもきらきらと揺れ、昼でも夜でも、星のような光が絶えることはありませんでした。

 森の仲間たちは、時々その光を「泉の星」と呼び、迷った夜には、その光を頼りに帰り道を見つけるのです。


 そんなある雨上がりの夜のこと。

 森の空気には、まだしっとりとした水の匂いが残っていました。

 木々の葉からは、しずくがぽとり、ぽとりと落ち、そのたびに小さな音が闇の中で弾けます。

 その音に誘われるように、サヤリが森を歩いていました。

 サヤリは葉の精のようなおばけで、風の声を聞くのが得意です。

 彼女の足元をルミネの光が照らしていました。

 サヤリが泉の近くにたどり着いたとき、水面に微かな光の輪が浮かび上がりました。

「……誰かいるの?」

 サヤリが葉をそっと揺らすと、水面から小さな光の粒がふわりと立ち上がりました。

 それは、水のように冷たく、雨の雫のようにきらめく存在でした。

 光の粒はゆっくりと形を変え、小さなおばけの姿になります。

「こんばんは。僕はリリュ。この泉の水を守っているんだ」

 その声は、水面を震わせるようにやさしく響き、耳に心地よく染みこんでいきました。

 サヤリは葉をふるわせて挨拶を返し、ルミネがそっと明かりを広げて泉を照らしました。

 リリュは微笑み、水の上に手をかざしました。

 その指先から、小さな光の波が生まれます。

 波がひとつ広がるたび、森の影がやわらかく揺れ、ふだんは見えない小道や木の実までもが、月のような淡い光に包まれていきました。

「……きれい」

 サヤリがつぶやくと、リリュは少し照れくさそうに笑いました。

「ひとりじゃさみしいけれど、友達と一緒なら、森もこんなに明るくなるんだ」

 リリュの言葉に、サヤリの葉がそよぎ、ルミネの光が水面に映って、やさしく揺れました。


 その瞬間、泉のほとりに風が通り抜け、葉のささやきが歌のように響きはじめました。

 ルミネの光はそのリズムに合わせて明滅し、リリュの光の波がそれを受けて、泉いっぱいに広がります。

「ひとりではできないことも、みんなでならできるんだね」

 リリュがつぶやくと、泉のまわりに集まってきた虫たちや小さな動物たちが、光に照らされながら静かに見守っていました。

 夜の森が、まるで小さな舞台のように輝きます。

 葉が音を奏で、水が光り、空気がやさしく香る。

 そのすべてが調和して、ひとつの物語になっていくようでした。

 サヤリは葉をふるわせながら笑いました。

「リリュの光があれば、森はいつでも夜を越えられるね」

 ルミネも頷き、

「そうだね。光は消えても、心の中には残るから。」

 リリュは泉の真ん中に浮かびながら、仲間たちを見つめ、静かに波を広げました。

 その光が届くたび、森の闇は少しずつやわらぎ、どんな小さな生き物の目にも、安心の光がともりました。


 それ以来、泉のほとりは、森の仲間たちが自然と集まる場所になりました。

 夜ごとリリュが光の波を作り、サヤリの葉が風を運び、ルミネが灯りをともします。

 その光景は、森の外の誰も知らない、静かで、あたたかな夜の奇跡。

 リリュは今日も泉の上で、光の輪をゆっくり広げます。

 水面がゆらぎ、森がひと息つくとき、彼のやさしい声がそっと響きました。

「大丈夫。森は今日も、ちゃんと眠れているよ」

 その言葉を合図に、風が葉を鳴らし、森全体がひとつの心のように静かに呼吸しました。


 そしてその夜も。

 泉の光は消えることなく、森の夢をやさしく包み続けたのです。

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