ちいさないたずら チビリン
まよい森のまんなかあたりに、
小さな小さな、ほんとうに小さなおばけが住んでいました。
名前は、チビリン。
ふわふわの体に、ちょん、と短い手足。
まるで風の子どものように、ぴょんぴょん跳ねながら森を駆け回るのが大好きでした。
チビリンの特技は、「いたずら」。
木の葉をそっと動かして道を変えたり、キノコをころころ転がしたり、森の小道に小さな影を落として仲間を驚かせるのです。
「にゃははっ!」
驚いた声を聞くたびに、チビリンは森のどこかでくすくす笑っていました。
それはまるで、森がくしゃみをしたような、やわらかい音でした。
ある日のこと。
チビリンは森の泉のほとりで、ポタリとユラリに出会いました。
ポタリは、すぐに涙をこぼしてしまう泣き虫なおばけ。
ユラリは、夜に森の子守歌を歌う、やさしい声の持ち主です。
「今日はね、森の小道をもっと楽しくするいたずらを考えたんだ!」
チビリンは胸を張って言いました。
「えっ、どんなことするの?」
ユラリが首をかしげ、ポタリは涙をぬぐいながら小さく笑いました。
チビリンは、森じゅうを駆け回って木の実と落ち葉を集めると、小道にちいさな迷路を作りはじめました。
木の実を置いて、葉っぱをくるくる並べて、風の通り道を計算して、ふわりと一陣の風を送りこむと……
サワ……サワ……
葉っぱがやさしく揺れ、木の実がころころと転がります。
通りかかるおばけたちは、思わず笑顔になりました。
「わぁっ、すごいね!」
ユラリがぱちぱちと手を叩きました。
チビリンはうれしそうに跳ねながら、さらに声を弾ませます。
「見て、ポタリ! ここを通ると雨みたいに葉っぱが落ちるんだよ!」
その瞬間、ふわりと木の葉が降りそそぎました。
ポタリの頬をくすぐるように触れ、ひとしずくの涙がこぼれます。
「わぁ……うれしい……」
ポタリの涙は森の泉に落ち、
そこに小さな虹がかかりました。
ユラリの歌声がそっと響き、森の空気はやさしい笑いで満たされました。
けれど、夜になると。
チビリンは時々、森の影に隠れて小さくなってしまうことがありました。
「いたずらばかりしていても、誰も気づいてくれないときがあるんだ……」
木の根っこのそばで、チビリンはふわりとため息をつきました。
森の夜風が、ひとりぼっちの気持ちを撫でていきます。
そのとき、遠くから、明るい笑い声が聞こえてきました。
「チビリン、そこにいるの?」
声の主はニコリ。
いつも笑顔で、みんなの心をあたためるおばけです。
「あなたのいたずら、みんな楽しんでるわ」
ニコリはそっと近づいて、チビリンの頭を撫でました。
「森の子たちはね、チビリンのいたずらがあると、“今日もまよい森だ”って思えるの。夜になると、君の声が森を明るくしてくれるんだよ」
チビリンの目が、ぱっと輝きました。
「ほんとうに……?」
「ほんとうに」
ニコリはやさしく微笑みました。
その夜。
チビリンは、ユラリやポタリ、それにミルやパリィたちを誘って、森の中を駆け回りました。
葉っぱの迷路をくぐりぬけるたびに、ユラリの子守歌がふわりと流れます。
ポタリの涙が泉に小さな虹を描き、ミルの霧が光の帯を作り、パリィの葉っぱがカサカサと笑いの拍子を刻みました。
「にゃははっ! ねえ、見て! 森が笑ってるよ!」
チビリンの声が響きます。
森全体が、小さな光と笑い声でいっぱいになりました。
それはまるで、夜の中に咲く星の花のようでした。
「いたずらって、ただ楽しいだけじゃないんだね……」
チビリンは空を見上げながらつぶやきました。
「みんなを笑顔にして、森をあたたかくするものなんだ」
遠くの空では、ルナリの月が静かに輝き、まよい森の木々がその光に揺れていました。
チビリンは満足そうに息をつき、ふわりと仲間たちのそばに寄り添いました。
葉っぱの音が子守唄のように響き、ポタリの涙のしずくが、星明かりのように瞬きます。
森のいたずらっ子、チビリン。
その小さな足あとと笑い声は、今もまよい森のあちこちに、やさしい風として残っています。
そして、チビリン自身も心の奥に、小さなあたたかい光を感じながら、今夜もまた、ふわりと眠りにつきました。




