再婚、それは終わりのはじまり
「何ですって?」
呆然とした顔でシリがつぶやく。
「シリ姉!頼む!この通り」
マサシは、土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。
「私と・・・ゴロクが結婚・・・?」
受け入れようがない現実に手が震える。
頭の中で何度繰り返しても、現実味がない。
後ろにいるエマも絶句したまま、立ちすくんでいる。
「シリ姉、このままではモザ家はキヨの支配下に置かれる。
それを止めるには、対抗する力があるゴロクに嫁いでくれ。お願いだ」
マサシは頭を下げ続けている。
シリは言葉は出てこない。
ゴロクと・・・結婚?
幼い頃からゴロクはシリの近くにいた。
けれど、恋愛感情を持ったことは一度もない。
なにしろ、年上すぎるのだ。
嫌だ。
嫌だ!
再婚なんてしたくない。
グユウの事を想いながら、子供達の成長を見守れると思っていたのに!
「シリ様・・・これは重臣達で決めたことです」
古老の重臣 トムが口を添える。
その言葉でシリは小さなため息をつく。
女の自分には自由がないのだ。
受け入れるしかないのだ。
シリの心の中には義務感がよぎる。
それはモザ家の未来を守るため、そして、ゼンシの妹として生きるべきだという責任感だ。
「マサシ、頭を上げて」
シリは優しく声をかけた。
「シリ姉・・・」
マサシの顔は苦しそうに歪んでいる。
亡くなった父や兄ならば、シリを守れただろうに。
無力の自分では何もできないのだ。
「私は・・・9年間もモザ家にお世話になりました。
マサシ、承知したわ。ゴロクの元に嫁ぎます」
その言葉が部屋に落ちたとき、エマは顔を背けた。
◇
「とんでもないことになりましたね」
マサシとトムが部屋から出たあと、エマが口にした。
「まさか・・・ゴロクと結婚することになるなんて」
シリの動揺は止まらない。
「ゴロク様は・・・その・・・少し・・・年上ですよね」
エマの声は沈んでいた。
「・・・私より25歳年上と聞いたわ」
「では・・・59歳?!」
この時代、平均寿命は50歳だった。
エマは信じられないと言わんばかりに、手を上に挙げた。
「エマ・・・、そういう私も34歳なのよ」
「そうですが・・・」
エマは納得いかないような表情をした。
エマの目に浮かぶのは、今もなお輝く黄金の髪、澄んだ青い瞳。
あの戦乱を越えてなお、シリは人々の目を惹く存在だった。
その美しいシリが老人の元に嫁ぐとは・・・頭では理解しつつも受け入れられない出来事だった。
シリは黙って木像の前に座った。
その木像は、グユウが亡くなる直前に渡されたものだった。
「グユウさん・・・。もし、あなたがここにいてくれたなら・・・」
何百回も想ったことを、思わず口にする。
結婚するということは・・・グユウ以外の男の人に抱かれることを意味する。
想像するだけで・・・嫌だ。
シリはため息をつき、木像をそっと撫でた。
心を沈めようとするけれど、心の中の波は収まらない。
シリは大きく息を吸って吐いた。
今、ここで、自分ができることは、この婚礼を受け入れること。
子供達とモザ家の誇りを守るため。
必死に言い聞かせる。
誰かがドアを叩く音がする。
対応したエマがオロオロしながら、シリに伝えた。
「ゴロク様が面会を希望しています」
シリは木像を見つめたまま、微かに目を伏せた。
――覚悟を、問われる時が来た。
次回ーー
「グユウさん以外の人に嫁ぐなんて――」
木像の前で涙を堪えながら、シリは再婚を受け入れる覚悟を固めた。
相手は25歳年上の重臣ゴロク。
モザ家を守るため、母として、妃として背負わねばならない道。
その頃、中庭でゴロクは己の老いを嘆き、
キヨは「諦めない」と胸の内をさらけ出す。
翌朝、子どもたちへ再婚を告げる時が迫る。
――その日は、誰かの運命を決定づける一日となるのだった。
明日の20時20分 シリの覚悟
ブックマークありがとうございます。
32話で再婚相手の登場、展開が遅すぎるのに丁重に読んでくれる読者様に感謝です。
これからシリの再婚にむけて物語が進みます。(展開は遅いです)
続きが気になった方はブックマークをお願いします。
===================
前作のご案内
この物語は、完結済『秘密を抱えた政略結婚』の続編です。
兄の命で嫁がされた姫・シリと、無愛想な夫・グユウの政略結婚から始まる切なくも温かな愛の物語です。
▶︎ https://book1.adouzi.eu.org/n2799jo/
===================




