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ミントの香りと嫉妬

「身体の調子はどうなの?」

ユウの瞳は不安げにシュリを見つめる。


「良くなりました。明日には稽古に復帰できます」

ユウの視線を受け止め、シュリの頬は少しだけ赤くなる。


2人は中庭にある草葉の上に座っていた。


周囲には色とりどりのバラが咲き乱れている。


ベンチがたくさんあるのに、

ユウは生い茂るミントの茂みのそばに座ることを好んだ。


「稽古?」

ユウは突然、不機嫌そうな顔をした。



「はい。早朝稽古です」

シュリは、ユウの顔色を伺いながら返事をする。


ユウはむっつりと黙り込んだ。


「何か・・・気に触られましたか?」

恐る恐る伺う。


「別に。何もないわ」

ユウは頭をそびやかす。


「早朝稽古に行くことに・・・何か問題があるのですか」


乳母子が剣技に励むのは主を守るためである。


シュリの場合、主はユウのことを指す。


「問題なんて何もないわ。稽古に励むことは良いことだわ」

吐き捨てるようにユウは話した。


「・・・はぁ」


ーーどう見ても怒っている。


なぜ、機嫌が悪いのだろう。


ユウの意図がわからず、シュリの整った眉毛は困ったように下がった。


あの日・・・スモモの木から落下した日から4日が経った。


それ以来、ユウの様子がおかしい。


些細な事で感情を乱すようになったのだ。


不機嫌になったり、物想いに沈んだり、怒り出したりする。


そんなユウの変化に、シュリは戸惑うばかりだった。


「あの女中は楽しみにしているでしょうね」

ユウは投げつけるようにシュリに話す。


「どの・・・女中ですか?」

シュドリー城には数え切れないほどの女中がいる。


「稽古の時に水を渡す女中よ」

ユウがキッと睨むようにシュリに話す。


「稽古・・・水・・・?あぁ、スーザンのことですか」

シュリの茶色の瞳は、少しだけ大きくなった。


あの女中は、スーザンという名前だということをユウは知った。


ーー名前を呼び捨てにするほど仲が良いのか。


ユウの胸に、言いようがない感情が広がる。


「随分、仲が良いのね」

ユウは不機嫌そうに話す。


「仲が良いというか・・・親切にしてくれます。

スーザンと呼んでくれと向こうの方から話しかけてくれたんです・・・水も」

シュリが話せば話すほど、ユウの顔が険しくなる。


「そうなの」

その声はゾッとするほど冷たい響きだった。


「スーザンと話すのが嫌なのですか」

シュリは思い切って質問をしてみた。


「そんなことないわ」

挑戦的な目でユウは睨む。



ーーこんな顔の時に、普通に会話をしたらダメなのだ。


違う角度で話した方が良い。


これは、母ヨシノが使っている対処法だ。


不機嫌そうに、ミントの茎を折るユウの横顔を見つめた。


「ユウ様、早朝稽古の様子を見てくれているのですね」

シュリは伝えた。


その瞬間、ユウの顔が赤くなり不自然に顔を背けた。


「もっと・・・ユウ様をお守りできるように稽古に励みます」

シュリは言葉を選ぶ。


「そうね」

ユウの瞳は苛立ちと戸惑いで滲んだ。


ーーどうして、あんなバカなことを口走ったのだろう。


まるで・・・まるで、自分が女中に嫉妬しているかのような発言だ。


ユウは、シュリがどんな顔をしているのか顔が上げられなかった。


それでうつむいた。


すると、ユウのまつ毛がとても長くて黒く、

瞼は厚ぼったく夢見るようなので、

その効果は愛らしく、シュリの心を刺激するものだった。


ミントの香りが、目には見えない祝福のように2人の周囲を立ち込めた。


シュリは、ユウに顔をあげて欲しかった。


もう一度、あの可愛い、強気な物問げな視線を受け止めたかった。


それと同時に、そんな事をユウに望んでしまう自分を責めた。


ーーユウは姫だ。


もうすぐ縁談が来るような年頃の姫に、

自分のような立場の人間が見つめてほしいと願うのは不謹慎なことだ。


それでも・・・


「ユウ様が望まないならば・・・スーザンとは話しません」

シュリは話す。


「私は望んでいません」

ユウは顔を赤らめて叫ぶ。


不自然に大きな声だった。


その様子を見て、シュリの胸は言いようもない幸福感に満たされた。


「そうですね。それなら・・・私が望んだことです」

シュリは駄々をこねる子供をあやすように伝えた。


その瞬間、風がふいた。

ミントの香りがふたりを包み込み、ユウのまつ毛が、かすかに揺れた。


平和な午後だった。


――その時まで。


次回ーー


ゼンシ急死――それは謀反だった。

悲しみに沈む城で、ただ一人シリだけが冷静だった。

「次に狙われるのは、この城」

静かな覚悟が、女たちを目覚めさせる。

戦の幕が、再び上がる。



小説を書いたときの裏話をエッセイで書きました。

自分で書いた小説に泣き崩れている奴がここにいますー恋愛小説で自分の心が壊れた話ー

コードはN2523K Lです。

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