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夢の影と指輪の光

秋の光が差し込むバルコニーに、淡く紅い風が吹いていた。


シリは静かに甥たちを迎えながら、胸の奥の痛みを隠して笑った。


「タダシ、結婚おめでとう」

シリは微笑んだ。


「シリ姉・・・ありがとう」

タダシは照れたように目を伏せた。


シリ、甥のタダシ、その弟のマサシはシュドリー城のバルコニーにいた。


グユウが亡くなって3年。


シリは28歳。


今だにシュドリー城にいる。


「明日は初夜か」

次男のマサシがにやにやと笑いながら言った。


「あぁ」

タダシはスプーンで紅茶をぐるぐるとかき混ぜている。


すでに砂糖は溶けているのに、手は止まらない。



「マサシ、からかわないの」

シリは苦笑して、黄色のプラムの砂糖漬けに手を伸ばす。


その左手の薬指には、いまだに指輪が光っている。


「どうなんだ。うまくやれそうか?」

マサシは既に結婚しており、子も妾もいる。

気楽な立場だ。


「顔も見たことがない。相手は16歳だ。何を話せば良いのか…」

タダシの肩が落ちる。


領主の息子に結婚の自由はない。


それは承知の上だけど、ほぼ初対面の人と夜を共にするのは、男の方も緊張をするのだろう。


「妃になる方も緊張しているはずよ。

タダシは・・・大丈夫。優しい子だもの。きっと上手くいく」

シリは微笑んだが、その笑みには、どこか壊れた光が差していた。


「母上」

シリにむかって子供が駆け寄る。


シリの三女 レイだった。


彼女はもうすぐ4歳。


白い肌と漆黒の髪、切れ長の黒い瞳――誰が見ても美しい子供だった。



「レイも将来、美人になるだろうな」

マサシが感嘆を漏らす。


「グユウさんに似ているの」

シリは嬉しそうに話す。


レイの黒い瞳を見ると、恋しい夫の顔を思い出す。


しかし、その瞳の奥は、勝気な母親に似た気の強さが見え隠れしている。


「口元はシリ姉に似ている」

タダシは微笑みながら、レイが美味しそうに砂糖漬けを食べている姿を見つめた。


レイは黄色のプラムの砂糖漬けを食べた後、再び部屋に戻った。


元々、口数は少ない子だ。


「シリ姉、キヨが城を築いたようだね」

タダシが気遣うようにシリの顔を見つめた。


「そうなのよ」

シリの瞳に憎しみとやるせなさが宿る。


キヨはロク湖の辺りに新たな城を築いた。


城づくりに必要な材木は、レーク城から転用して築城された。


グユウと自分が過ごした大事な大切な城を、キヨの手で壊された。


もう、行くことがない城だけど胸が痛む。


夫、義理の息子 義父母、家臣、そして城を壊したキヨに苛立ちが募る。


「キヨが建てた城を含めると、ロク湖に周辺に4つの城が囲むようにできた」

マサシはティーカップに口をつけた。


「それによって便利になるわね。ミンスタ領は、軍事的、経済的にロク湖の水運を抑えた事になるわ」

気持ちを切り替えようとシリは、冷静に話す。


「あぁ。父上はキヨにお祝いの品を用意している」

タダシはうなづいた。


「・・・兄上の夢が、形になってきてるわね」


誰に向けたとも知れない独り言のように、シリはつぶやいた。


だが、その夢の影には――

いつだって誰かの痛みがあるのかもしれない。



その後、シリは式の準備で騒がしいホールを訪れた。


控室の前を通りかかったとき、耳に飛び込んできたのは――

ゼンシの怒声だった。


次回ーー



怒りに支配された控室に、ゼンシの怒声が響き渡る。

重臣を殴りつける兄の姿に、誰もが凍りついたその瞬間――

柔らかな声で場を変えたのは、西領の領主ジュンだった。

怒号と恐怖の中で光ったのは、穏やかな背中だった。


控室の怒号 笑うたぬき


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