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あなたの瞳の色を選んだ

城のあちこちが賑やかで、多くの人が入り乱れていた。


昨日、ゴロクとシリが話し合った結果――「冬の間に争いの備えをせよ」


その命が発され、家臣、侍女、女中たちは準備に追われている。


その中心にいたのは、黒のドレスを身にまとった妃だった。


「テーブルは二つ、くっつけて。そこを作業台にしましょう」

飾り気のない装いにもかかわらず、彼女は目を引いた。

声も所作も凛としており、美しさが際立っていた。


地下の厨房には、薪と大釜が運ばれていた。軟膏作りのためだ。

「これが終わったら、裁縫室を設置しましょう」

エマと家臣たちを従え、シリは的確に指示を飛ばしながら城内を移動していく。


シュリも机の配置を手伝っていた。

作業が一段落し、三姉妹の部屋へ向かおうとしたとき、ふと東側の部屋が賑わっているのが目に入った。


――なんだろう。


覗いてみると、そこはまるで市のようだった。


ミヤビから来た商人が、部屋いっぱいに商品を広げている。


「さぁ、見ておくれ! ミヤビで流行りの品だよ!」

テーブルにも棚にも隙間なく並ぶ品々に、家臣たちが目を輝かせていた。


シュリもその一角に吸い寄せられるように足を止めた。

とくに目を惹かれたのは、装飾品のコーナーだった。

飾り櫛、ネックレス、指輪、どれも高価で手が出せない。


だが、脇に並べられたリボンが目に留まった。


赤、黄色、紫、そして――青。


その青に、心が奪われた。


――ユウ様の、瞳の色だ。


気づけば手に取っていた。


商人がにこやかに勧める。


「上等な布だよ」


値段を聞いても、頭はぼんやりしていた。


無意識のうちに、支払いを済ませていた。


買ったあと、後悔が胸を刺す。


――何をしているんだ、俺は。


ーーなんで買ってしまったのだろうか。


リボン、誰のため?


答えはわかっている。


あの人には、もっと立派なものが似合う。


贈る資格なんて・・・


それなのに。


どうしてーー


包みは軽いものだけど、シュリの心は重い。


ため息をつきながら自室に戻ろうとすると、リネン室の前でウイに出逢った。


「シュリ!」

無邪気な声が、心臓を跳ねさせる。


咄嗟に、包みを背中に隠した。


その様子を見て、ウイは小首を傾げた。


「シュリ、どうしたの?何を隠しているの?」

ーーそんな振る舞い、彼らしくない。


「あ・・・あの、いえ、なんでも」


顔を赤らめ、露骨に袋を隠す。

それがいっそう不思議に見えた。


「シュリ、見せて」


その声に逆らえなかった。


主の妹に、嘘をつけるはずもない。


シュリは顔を赤らめ、包みの中を見せた。


青いリボンが、光を受けて揺れた。


「・・・ああ」


ウイの瞳が、柔らかく揺れる。


問いかけはない。


ーーそれでも、わかってしまう。


リボンーー真っ青な色、それは姉の瞳に似ている色だ。


シュリは露骨に目を伏せる。


「特に・・・意味はないのですか・・・」


その表情を見て、ウイの心は揺れた。


乳母子と姫との恋愛は許されない。


わかっている。


けれど、目の前に佇む真っ赤な顔をしたシュリ、

そしてーーシュリの前では笑顔を見せる姉の顔を思い浮かべた。


ーー姉上が笑ってくれるのなら。


「2月ーー誕生日は2月だわ」

誰のーーとは言わない。


それは口にしなくてもわかっている。


ユウの誕生月は2月だ。


「このリボン、私が刺繍をしましょうか」

ウイが提案をした。


「刺繍?」


「ええ。このリボン・・・白百合を刺繍すると映えると思うの」

優しくシュリを見上げる。


「白百合・・・」

それはユウが一番好きな花だ。


「2月までに間に合わせるわ。あと2ヶ月半もあるもの」


その優しい声に、シュリは目を見開いた。


ウイの微笑みは、すべてを知ったうえで、包んでくれるようなあたたかさだった。


「・・・お願いします」


シュリは、震える手でリボンを差し出す。


その日は冷え込んでいた。


けれど、心にはほんの少しだけ春が近づいていた。



本日もお読みいただきありがとうございます。

今後、1日2話更新ペースを続けていきます。


「展開、ちょっと遅いかも?」と思っている方へ・・・実は、家族にも同じことを言われました。


その時のことを、エッセイとして書いてみました↓


テンプレ?何それ?美味しいの? Nコード:N2523KL


→ (小説裏話)展開が遅いと家族が倒れた件


書き手の葛藤や、ストック放出の舞台裏など、笑っていただけたら嬉しいです。

今後とも『秘密を抱えた政略結婚2』をよろしくお願いいたします。


次回ーー明日9時20分 更新


絹一枚が、戦を動かす。

静かに放たれたキヨの策は、命と誇りを揺さぶりながら、深く静かに広がっていく。

届いた訃報に、シリは覚悟を決めた。

奪われたものの先に、避けられぬ戦が待っている。


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