第7話「剣に選ばれる儀式で中二ポーズを要求された件」
神殿の最深部で♰滅びの剣♰を発見し神殿を出発してから、もう三十分が経過していた。黒い刀身を煌めかせる剣は確かに美しく、確かに太郎の中学時代の理想を完璧に体現していたが、一つだけ重大な問題があった。
「あの...救世主様?」
エリーゼが心配そうに声をかける。太郎は腰ある剣を腕組みをしたまま、険しい表情で立ち尽くしていた。
「なんか変なんだ...」「持てないわけではないけど、これを使って攻撃できない感じで...」
太郎は既に何度も剣に手を伸ばしていた。しかし、手が柄に触れた瞬間、まるで見えない壁があるかのように弾かれてしまう。物理的な力が働いているわけではない。ただ、剣が太郎を拒んでいるのだ。
「救世主様、もしかすると何かの条件があるのかもしれません」
アルフレッドが♰終焉の黙示録♰の第一巻を開きながら言った。彼はずっと聖典を手放さず、まるで攻略本を見ながらゲームをプレイしているかのような状態だった。
「条件?」
「はい。♰滅びの剣♰を真の所有者になるには、♰選定の儀式♰を行う必要があると書かれています」
太郎の背筋に嫌な予感が走った。中学時代の自分が考えそうな「儀式」など、ろくなものではないに決まっている。
「その...♰選定の儀式♰って、具体的には何をすればいいんだ?」
恐る恐る尋ねる太郎に、アルフレッドは聖典の該当ページを指差した。
「ここに詳しく書かれておりますが...『真の救世主は心の準備を整え、♰契約のポーズ♰を取ることで剣に己の覚悟を示さねばならない』とあります」
「♰契約のポーズ♰?」
太郎の声が裏返った。中学時代の記憶が蘇る。確か、主人公が伝説の武器を手にする場面で、かっこいいポーズを考えていたような気がする。しかし、当時は一人で妄想していただけだった。まさか他人の前で、それも真面目な顔をした仲間たちの前でやることになるとは。
「救世主様、どのようなポーズなのでしょうか?」
エリーゼが純粋な瞳で太郎を見つめる。その無垢な視線が、太郎の羞恥心をさらに刺激した。
「え、えーっと...」
太郎は記憶を必死に辿った。確か右手を上に、左手を下に...いや、違う。片膝をついて...でも、それも違ったような。
「あの、聖典にはもう少し詳しい説明は書いてないのか?」
「ございます」アルフレッドが頷いた。「『右手を天空に向けて高く掲げ、左手は大地を指差す。足は肩幅より広く開き、顔は斜め上を向いて決意を込めた表情を作る』とあります」
太郎の顔が真っ青になった。それは間違いなく、中学二年生の太郎が考えた「超かっこいいポーズ」そのものだった。当時は鏡の前で何度も練習し、一人で悦に入っていたポーズだ。
「さらに」アルフレッドが続ける。「『このとき、救世主は心の奥底から湧き上がる♰覚醒の光♰を剣に向けて放射せねばならない』とも書かれています」
「♰覚醒の光♰って何だよ...」
太郎は頭を抱えた。中学時代の自分の発想力を呪いたくなる。どうしてこんな恥ずかしい設定を考えたのだろう。
「救世主様?」
エリーゼが心配そうに近づいてくる。
「大丈夫です、救世主様」彼女は優しく微笑んだ。「きっと神聖で美しい儀式なのでしょう。私たちは救世主様を信じております」
その純粋な信頼の眼差しが、太郎の心を余計に苦しめた。こんな恥ずかしいポーズを「神聖で美しい儀式」だと思っているなんて。
「あの...もしかして、違う方法はないのか?」
「申し訳ありませんが」アルフレッドが首を振る。「聖典によれば、この方法以外に♰滅びの剣♰を手にする術はないとあります。『偽りの救世主は剣に触れることすらできず、真の救世主のみが♰選定の儀式♰を完遂できる』と」
つまり、このポーズをやらなければ剣は手に入らない。そして剣がなければ、この先の冒険を続けることもできない。太郎は完全に追い詰められていた。
「救世主様、お時間がかかっても構いません」エリーゼが励ますように言った。「心の準備が整うまで、私たちはお待ちいたします」
「そうですな」アルフレッドも頷く。「♰選定の儀式♰は神聖なものです。急いで行うものではありません」
二人の気遣いが、かえって太郎を追い詰めた。やらないという選択肢は、もはや存在しないのだ。
「わかった...やる」
太郎は覚悟を決めた。どうせやるなら、さっさと済ませてしまおう。これ以上考えても恥ずかしさが増すだけだ。
「本当ですか?」エリーゼが嬉しそうに手を合わせた。
「ああ。でも、あまりじろじろ見るなよ」
「承知いたしました」アルフレッドが神妙に頷く。「私たちは敬虔な気持ちで見守らせていただきます」
それが一番恥ずかしいのだが、太郎にはもう選択の余地はなかった。
「じゃあ...やるぞ」
剣が黒い光を放ちながら、まるで太郎を待っているかのように輝いている。
「まず、足を肩幅より広く...」
太郎は恥ずかしさに顔を赤らめながら、足を開いた。エリーゼとアルフレッドが固唾を呑んで見守っている。
「次に、右手を天空に...」
太郎はゆっくりと右手を上に伸ばした。指先を天井に向けて、できるだけ高く掲げる。
「左手は大地を指差して...」
左手を下に向ける。このポーズを取った瞬間、太郎の記憶が鮮明に蘇った。中学時代の自分が鏡の前で何度も練習していた、あの恥ずかしい記憶が。
「顔は斜め上を向いて...」
太郎は天井を見上げた。決意を込めた表情を作ろうとするが、恥ずかしさで顔が引きつってしまう。
「救世主様...」
エリーゼが感動したような声を上げた。
「なんと荘厳なお姿...」
アルフレッドも感嘆の声を漏らす。
太郎は心の中で絶叫した。荘厳でも何でもない、ただの厨二病ポーズなのに!
しかし、不思議なことが起こった。太郎がポーズを完成させた瞬間、♰滅びの剣♰が青い光を放ち始めたのだ。
「おお...剣が反応している」
アルフレッドが興奮した様子で呟く。
「♰覚醒の光♰ですね」エリーゼが手を合わせた。「救世主様の心から光が放射されています」
太郎は混乱した。♰覚醒の光♰なんて意識していないのに、なぜ剣が光っているのだろう。
「救世主様、今です!」アルフレッドが叫んだ。「そのまま剣に手を伸ばしてください!」
太郎はポーズを維持したまま、恐る恐る♰滅びの剣♰に手を伸ばした。今度は見えない壁に阻まれることなく、手が柄に触れる。
瞬間、激しい光が太郎を包んだ。
「うわあああああ!」
太郎は反射的に目を閉じた。光が収まったとき、彼の手には確かに♰滅びの剣♰が握られていた。
「やった...」
太郎は信じられない思いで剣を見つめた。黒い刀身に刻まれた赤い文字が、薄っすらと光を放っている。重量は意外に軽く、手に馴染む感覚があった。
「素晴らしい!」エリーゼが拍手した。「救世主様は見事に♰選定の儀式♰を完遂されました!」
「まさに聖典通りの展開ですな」アルフレッドも満足そうに頷く。「♰契約のポーズ♰も完璧でした」
太郎は複雑な心境だった。確かに剣は手に入った。しかし、その代償として、人生最大級の恥ずかしい体験をしてしまった。
「あの...もう儀式は終わりだよな?」
「はい」アルフレッドが聖典を確認する。「♰滅びの剣♰を手にした救世主は、次の試練に向かうことができます」
「次の試練って?」
「それは次の章に書かれているようですね」
太郎はため息をついた。まだまだ恥ずかしい体験が続きそうだ。
「でも、救世主様」エリーゼが嬉しそうに言った。「さっきの♰選定の儀式♰、とても格好良かったです」
「え?」
「はい。とても神々しくて、本当に救世主様だと改めて確信いたしました」
太郎は驚いた。エリーゼは本心からそう言っているようだった。
「私も同感です」アルフレッドも頷く。「あのような神聖な儀式を間近で見ることができて光栄でした」
二人の純粋な称賛を聞いて、太郎の心に小さな変化が生まれた。確かに恥ずかしかった。しかし、結果的に仲間たちの役に立ったのも事実だ。
「まあ...うまくいって良かった」
太郎は照れ隠しに♰滅びの剣♰を鞘に収めた。
「それでは、そろそろ出発しましょう」アルフレッドが提案した。「道中で剣の性能を確認してみませんか?」
「そうだな」
三人は歩き始めた。太郎は剣の重みを腰に感じながら、少しだけ誇らしい気持ちになっていた。
確かに恥ずかしいことばかりだが、仲間たちが喜んでくれるなら、それもまた悪くないかもしれない。
「救世主様」エリーゼが歩きながら言った。「今度機会があったら、♰契約のポーズ♰をもう一度見せていただけませんか?」
「絶対に嫌だ!」
太郎の叫び声が空に響いた。やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。それだけは変わらなかった。
しかし、エリーゼとアルフレッドの笑い声を聞きながら、太郎は思った。こんな日常も、意外と悪くないかもしれない。
♰滅びの剣♰を手に入れた一行は、♰聖なる森♰向けて歩を進めるのだった。
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