第2話
いよいよ学園生活がスタートします。
今年のウィンド・ウォール学園の入学式はおおいに賑わった。王太子が入学するというので、貴族令嬢と富裕層の娘たちが大騒ぎしたからだ。王宮舞踏会に出席していた貴族は除いて……。
「入学生男子代表エドワルド・オーグランド。女子代表フィルミナ・ヴィルシュタイン。壇上へ!」
ウィンド・ウォール学園長が挨拶の後、高らかに2人の名前を呼ぶと、エドワルドとフィルミナは「はい!」と返事をして壇上へ上る。
入学前に学力テストがあったのだが、エドワルドは首席、フィルミナは次席だったので入学生の男女それぞれの代表になったのだ。エレナが三席、トームスが四席で仲良し四重奏で上位を占めた。
ウィンド・ウォール学園は貴族と富裕層の子息令嬢が通うとされているが、最近は奨学金制度ができて庶民にも門が開かれている。ちなみに奨学金制度の政策を出したのはエドワルドである。
学園に在学中は身分差は関係なく生徒は平等にという校則がある。もちろん家名の敬称で呼ぶことは禁止されている。王族といえども例外ではない。
「本日は、私たち新入生のために盛大な入学式を催していただき、誠にありがとうございます。学園長をはじめ、諸先生方ならび在校生の先輩方、来賓の皆様にも、心より御礼申し上げます」
「私たち新入生一同は伝統あるウィンド・ウォール学園の学生としての誇りを持ち、その名に恥じぬよう学生生活を送ることをここに誓います。以上を持ちまして宣誓の言葉とさせていただきます」
エドワルドとフィルミナが交互に入学の挨拶を紡いでいく。さすがは婚約者同士で息がぴったりだ。挨拶文を作成したのはトームスだが……。
「なあ、フィルミナって引きこもりの割には堂々としてるよな?」
トームスが隣に座るエレナに話しかけると、エレナは今さらなぜそんなことを聞くのかというあきれた表情をする。
「フィルミナ様は人前が苦手というわけではありません。元々、上に立つ才は秀でているのです。引きこもっておられるのは発行される本はすべて読破するという目標があるからです」
現在、オーグランド王国が刊行している本だけで何万冊とある。諸外国の本も合わせるとその数は膨大だ。しかも本はどんどん発行されているのできりがない。
「……そんなに読書してれば、引きこもりになるよな」
エドワルドとトームスは17歳、フィルミナとエレナは16歳だが、入学したからには1年生から始めることになる。
4人は1年生の棟に行くとクラス分けも見ず教室へと向かう。トームスが手続きという名の交渉を学園長としたので、同じクラスで教室も分かっている。平等な学園なはずなのだが、トームスは裏の駆け引きに長けていた。
「トームスは優秀なのですね」
フィルミナは当然のようにエドワルドの隣にいる。婚約者なので不自然ではないが、他の女子生徒たちは羨望の眼差しを向けながらすれ違っていく。
「ああ、優秀だぞ。頭の回転が速いからな。仕事もできるし助かっている。それに武にも秀でているから護衛にもなる」
「まあ。殿下に似て顔が良いだけではないのですね(意外だわ)」
「それより、ここでは殿下ではなく、昔のようにエドと呼んでくれ」
「分かりましたわ、エド。ではわたくしのことも昔のようにフィーとお呼びくださいませ」
お互いに顔を見合わせふふっと微笑む。子供の頃に遊んでいた時を思い出したのだろう。
「そこのバカップル。教室に着いたぞ。いちゃつくのは2人だけの時にしてくれ」
トームスが教室の扉を開けながら2人の方へ振り向く。彼は伊達メガネをかけている。エドワルドとトームスは一見すると見分けがつかない。同じ顔が2人いては周りが混乱するからという理由で、トームスがメガネをかけることになった。
「分かった。ダ眼鏡」
「分かりましたわ(無粋なダ眼鏡ですこと)」
ダ眼鏡呼ばわりされたトームスは不貞腐れる。
「好きで眼鏡をかけているわけじゃないからな! あとダ眼鏡呼ばわりはやめようか」
「似合っていますわよ。ダ眼鏡」
エレナがくすくす笑う。
「おまえもさらりととんでもないことを言うな。この腹黒令嬢」
笑顔は可愛いのに残念だとトームスは思う。
教室に入ると、窓際の片隅で貴族と思われる令嬢が何人か1人の女子生徒を囲んでいるのが見えた。
「あなたのような庶民あがりの男爵令嬢がくるところではなくてよ」
「場違いだとは思わなくて?」
次々と罵声を浴びせる令嬢方に怯みながらも、大きな水色の瞳をうるうるさせて女子生徒は勇敢に立ち向かう。
「でも……入学許可をいただきました!」
「生意気な!」
リーダー格と思われる令嬢が女子生徒のストロベリーブロンドの髪を掴もうとする。その手を制したのはエドワルドだった。
入学早々、何かに巻き込まれそうです。




