第21話
久しぶりの更新です。
あと二話くらいで完結する予定です。
今回開催される王宮舞踏会は貴族の子息および令嬢たちのデビュタントも兼ねている。前回、ある事件によってデビュタントをしそこねた子息および令嬢たちも含めるのでかなりの規模だ。
王宮舞踏会当日――。
貴族の子息および令嬢のデビュタントは国王ならびに王妃への謁見から始まる。高位貴族から順に謁見をしていくのだ。自分の息子または娘を国王に紹介し、社交界デビューをしたという証をもらうのが習わしだった。
今回は大規模な人数なので午後から謁見が始まり、夜は王宮舞踏会となる。婚約者のいない貴族子息と令嬢たちの見合いの場でもあるので、親たちはこの時のために力を入れるのだ。
午後から始まった謁見は日が暮れるまで続き、ようやく王宮舞踏会が開催された。
次々と入場する貴族たちの人数はオーグランド王国中の貴族が集まったのではないか? というほどの盛況さである。王宮の舞踏会場に入場してきた貴族の名前を読み上げる係の者は大忙しだ。
「レオンハルト・トームス・マルク子爵ならびにエレナ・ガードナー伯爵令嬢のご入場です」
トームスがエレナをエスコートして舞踏会場に入場すると、すでに入場をすませていた貴族たちから騒めきが起こる。
「お二人は先日婚約されたばかりだそうですわ」
「まあ、お似合いね。あの変な眼鏡がなければだけれど……」
トームスは相変わらず瓶底眼鏡をかけている。貴族の中にはトームスがエドワルドと同じ顔をしているのを知っている者もいるが、今日は目的があるため、その顔を晒すわけにはいかない。
「眼鏡がダサくて悪かったな」
ふんとトームスが鼻を鳴らすと、隣のエレナがクスクスと笑う。
「仕方がないですわ。でも、眼鏡を差し引いても貴方は素敵だと思いますよ」
今日のエレナはドレーンをつけた白いドレスをまとい、ふわっとした金色の髪はハーフアップに結って白い生花を付けている。デビュタントをする令嬢は白いドレスをまとうというしきたりがあるからだ。
あらためてトームスは自分の婚約者を見つめる。
「今日のエレナはいつにも増してきれいだな」
エレナの頬が朱に染まる。
「貴方から歯の浮くような誉め言葉が出るとは思いませんでしたわ」
「いいから、素直に褒められておけ」
そっぽを向いてしまったエレナを見て、くつくつとトームスが笑う。
しばらくすると高らかにファンファーレが鳴る。王族の入場だ。
「エドワルド王太子殿下ならびにフィルミナ・ヴィルシュタイン公爵令嬢のご入場です」
この国の王太子であるエドワルドが婚約者のフィルミナをエスコートして舞踏会場に入場してきた。
それまで話に花を咲かせていた貴族たちは口を閉じると、王族に対する最上級の礼をとる。
エドワルドとフィルミナは国王と王妃が座る玉座まで進むと、椅子の横に立つ。王太子のみであれば、玉座に椅子が用意されるのだが、今日はフィルミナをエスコートするため、椅子は用意されていない。もっともフィルミナが王太子妃になれば、エドワルドの隣に座ることになるのだが……。
次に国王と王妃が入場し、玉座に座る。いつも王宮を留守にしがちの王妃が今日の舞踏会に参加するというので、トームスは密かに王妃の顔が見れると楽しみにしていたのだ。
エレナの謁見の際は父であるガードナー伯爵がエスコートを務めたので、ここでトームスは王妃を初めて見る。王妃の姿は驚いたことにトームスの亡くなった母にそっくりだった。
(母さんにそっくりだ。違うのは瞳の色だけだな)
王妃はエドワルドと同じ金髪にアメジストの瞳だが、トームスの母は瞳の色がエメラルドグリーンだった。トームスは瞳の色だけ父親譲りなのだ。
エドワルドと瓜二つな理由が分かった気がしたトームスだった。母親がそっくりならば、子供もそっくりになる可能性は大だ。
一曲目のカドリールが流れると、エドワルドとフィルミナが舞踏場の中央へ歩を進め、ダンスを踊り始める。二人の呼吸は見事に合っていてなんとも華麗な様だ。
「さすがはフィルミナ様。見事なステップですわ」
エレナがほうとため息を吐き、見惚れている。
「殿下のリードも大したものだけどな」
トームスはふとエドワルドとの地獄の特訓を思い出す。自分と同じダンスレベルにしようとエドワルドはトームスを徹底的にしごいた。
(失敗するとカエルの刑だもんな)
『カエルの刑』とはカエルの着ぐるみを着せて、バルコニーから吊るすというものだ。下には池があり、水嫌いのトームスにはまさに地獄のおしおきだった。
(まあ、特訓の甲斐があって、上手く踊れるようにはなったけどな)
トームスは苦笑いする。
「一曲目が終わったな。あらためてエレナ嬢、俺とダンスしていただけますか?」
手を差し出すと、エレナは「喜んで」と自分の手を重ねる。舞踏場に進む途中、エドワルドとすれ違う。すれ違いざまエドワルドがトームスに耳打ちをする。
「ぬかるなよ、トームス」
「殿下もな」
二曲目のワルツが流れる。トームスとエレナのダンスを見た貴族たちはこう囁いていた。
「王太子殿下に勝るとも劣らないダンスの腕前だ。くるくる眼鏡がなければなあ」
「マルク子爵家は資産家だし、条件はいいのですけれどね。あのダ眼鏡がなければですけれど……」
貴族たちの囁きは耳のいいトームスにしっかり届いていた。
「くるくるのダ眼鏡で悪かったな。俺だって好きこのんでかけてるわけじゃねえよ」
密かにチッと舌打ちするトームスだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




