第19話
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ガードナー伯爵VSトームスの決闘? が終わった後、再び応接間に戻り、マーガレット夫人お手製のマカロンをお茶菓子にして、紅茶を飲みながら、歓談していた。
「トームス君。今度の王宮舞踏会ではエレナのエスコートを頼むよ。エレナの社交デビューだからな」
伯爵の思わぬ言葉にトームスは驚きの色が隠せない。
「えっ! エレナは社交デビューしてないのですか?」
エドワルドがふんと鼻を鳴らすとトームスを睨む。
「エレナ嬢だけではない。フィーもだ」
「なんでだよ。前の王宮舞踏会では2人ともいたじゃないか?」
「お前のせいだからな!」
「そうですわ! わたくしとエレナは前の王宮舞踏会で社交デビューするはずだったのに、貴方のせいで台無しでしたのよ(せっかく気合を入れてましたのに)」
「あ! その節はどうもすみませんでした」
あらためてトームスは頭を下げる。そう。通称「王太子の影武者がいました事件」でトームスが前の王宮舞踏会を中断させてしまったのだ。
「そういうわけだ。トームス君。本当は私がエスコートしたいのだが、責任とってくれるね?」
ガードナー伯爵は顔は笑っているが、背後に怒気が漂っていた。
「はい。もちろんです!」
マーガレット夫人がトドメの一言を刺す。
「エレナを幸せにしてくださいね。大切な娘ですから」
「はい! 幸せにします! 白い大蛇のエサにはなりたくないです!」
「ブランシェは人間を襲いませんよ」
優雅に紅茶を楽しんでいたエレナがソーサーにティーカップを置き、ぼそりとつぶやく。
「え? そうなの?」
「ブランシェは美食家なのです(人間は不味いそうです)」
「さらりととんでもない本音が漏れてますけど!? それって味見したことあるんだよね?」
不味いということはぱっくりといったということではないのか? トームスは戦慄する。
「すぐに吐き出したみたいですわ。その方、ぱっくりされても生きておりましたもの」
少しほっとしたが、あることに気づく。
「ちょっと待て。なんであの大蛇が美食家とか……その……不味いとか知ってるんだよ」
「時々、エレナとわたくしでブランシェの部屋に行ってお茶してますもの」
「女子会楽しいですわよね」
フィルミナとエレナは「ね!」と顔を見合わせる。
「お前ら、蛇の言葉が分かるのか!?」
「「なんとなく」」
口をパクパクさせて、エドワルドの方へ顔をギギギと向ける。
「……殿下。俺……女の子が怖くなってきた」
「その……なんだ……男は細かいことは気にするな」
その日はガードナー伯爵家に泊まることになり、ガードナー伯爵夫妻と4人で晩餐を楽しんだ。料理長が腕をふるった晩餐は、畜産が盛んということもあり、肉料理が絶品だった。
晩餐の後、トームスはエレナを部屋までエスコートしていったので、フィルミナはエドワルドにエスコートしてもらい客間へと向かう。
「エド。お願いがありますの」
「フィーの願いなら、なんでも聞かないとな」
「それぞれの結婚式の後に、どこか小さな教会で4人だけでダブル結婚式をしたいのです(ダメかしら?)」
上目遣いでエドワルドを見つめるフィルミナはなんとも庇護欲をそそる。
「ダメではない。トームスとエレナ嬢の了解を得ればだが。フィーの望みを叶えてやりたいからな」
「エレナの了解は得ていますわ」
「では、トームスに拒否権はないな。決定だ。そうだ! マルク子爵領は温泉があるし、自然豊かなリゾート地だ。トームスに手配させよう」
「でも、トームスとエレナの結婚式はマルク子爵領でするのでは?」
貴族の結婚式は婚家ですることになっているが、例外もある。
「いや。ガードナー伯爵領で行う。トームスの両親は他界しているし、兄弟もいないからな。マルク子爵領で取り仕切る人材がいないなら、こちらで行ってはどうか? とガードナー伯爵が申し出てくれたのだ」
「まあ。ではトームスとエレナの結婚式が終わったら、マルク子爵領に行ってダブル結婚式をしましょう!」
「ついでに4人で新婚旅行に行こうか?」
フィルミナがぱあと顔を輝かせる。美しい青い瞳が嬉しそうに細められる。
「それは素敵ですわ!(今からワクワクします)」
トームスだけが知らないところで着々と話が進んでいった。彼に拒否権はないのだろうが……。
エレナをエスコートして、部屋の前まで送っていったトームスは役目を終えたので「じゃあ。また明日な」と挨拶して踵をかえそうとする。
「お待ちになって。部屋の中にお入りになってくださいな」
「えっ! 婚約前に部屋に入ったらまずいだろう?」
トームスの顔が赤くなる。意味を察したエレナの顔も赤くなる。
「そういう意味ではありませんわ! 貴方、お父様との試合の時に背中を打ち付けたでしょ? かなり痛むはずですわ」
エレナの言うとおりだ。黙っていたが、背中がズキズキと痛む。
「一晩、寝れば治るから大丈夫だ。俺は頑丈だからな」
「打ち身に効く塗り薬がありますの。我が家は武人の家系ですから、秘伝の薬ですのよ」
いいから入れとエレナが自ら自室の扉を開けた。トームスはふっと笑うと両手を挙げる。降参だ。
「強引だな。まあ気の強い女も好きだけどな」
エレナの部屋は花柄の壁紙で、調度品も女性が好きそうな可愛らしい家具が並んでいる。彼女らしい部屋だと思った。
キャビネットの引き出しをあけて薬を取り出したエレナは、恥ずかしそうにトームスをソファに座らせる。
「その……シャツを脱いでくださいな」
「はいはい」
シャツを脱いだトームスの肌が露わになる。エレナは父と兄が剣の稽古の後、上半身裸になるので、男性の裸には耐性があると思ったのだが、あらためてトームスの上半身を見て顔を赤らめる。
(きれいな肌をしているのね。男性らしくしっかり筋肉もついているのに)
背中を向けているトームスに真っ赤になった自分の顔が見えてなくて良かったと思う。手際良く打ち付けて青いアザになっている部分に塗り薬をぬっていく。
(手が少し震えているかな? 男の裸に耐性ないとか? 可愛いなあ)
「終わりましたわ」
「ありがとな」
「どういたしまし……て……きゃー!」
エレナは咄嗟に顔を隠す。トームスが上半身裸のままエレナの方を向いたからだ。
「あ! 悪い! 今、シャツ着る……か……ら……」
一瞬、トームスの息が止まった。にやにや笑っているエドワルドと顔を隠しつつも手の隙間から覗いているフィルミナが扉の前にいたのだ。
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