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悪役令嬢(仮)に断罪された偽王太子は本物王太子に影武者としてこき使われる  作者: 雪野みゆ
学園編

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第16話

 領主館に到着して早々、エドワルドが鉱山の視察に行くというので、セインの案内で領主館から直結している鉱山へと足を踏み入れた。


「殿下。フィルミナとエレナを連れてこなかったけど、良かったのか?」


「これからフィーに贈る結婚指輪の宝石を選びにいくのだ。本人には内緒でサプライズしたいからな」


「なるほどな」


 フィルミナとエレナは襲撃者のこともあり、疲れているようだったので、領主館に残してきたのだ。


「ちょうど良い機会だから、お前もエレナに贈る結婚指輪の鉱石を選べ」


「はあ? まだ婚約発表もしてないのに気が早すぎないか?」


「君がエレナの婚約者になるのか?」


 先導していたセインが振り返り、緑の瞳がきらっと光る。


「明日、ガードナー伯爵家の領主館に赴き、トームスを伯爵に合わせる予定です。セイン殿」


「そうか。エレナとフィルミナは幼い頃から仲が良かったから、私の妹同然に思っていた。彼女を不幸にしたら……」


「幸せにします!」


 不幸にしたら……殺すと言わんばかりのセインの迫力に押され、トームスは背筋を伸ばし即答する。セインがにこやかな顔に戻る。


「うん。ぜひお願いするよ」


 隣にいるエドワルドにこっそり耳打ちする。


「フィルミナの兄ちゃんって怖いんだな」


「……そうだな。フィーは家族に溺愛されているからな」


 フィルミナと婚約をした時に、エドワルドも同じくセインに念を押された。そしてトームスと同じ反応をしたのだった。他人事とは思えない。


「公の場が苦手とは思えないぜ。あれなら宰相にもなれそうだよな」


 ヒュン!


 空を切るような音がしたので、エドワルドとトームスは咄嗟に地面に伏せた。直後に壁にドシュ! と矢が刺さる。


「ああ。言い忘れていたけど、その辺の壁に無闇に触らないように。盗賊よけの罠が仕掛けてあるんだ」


「そういうことは最初に言ってくれ! いや。ください……」


 トームスがうっかり罠のあるところの壁に触ってしまったのだ。


「それは悪かったね。でも2人とも良い反射神経をしているね」


 にこやかにセインが謝罪をするが、目が笑っていない。


(絶対! 嫌がらせだ。殿下との内緒話が聴こえてたんだな。殿下に矢が刺さってたらどうする気だったんだろう?)


「この程度の罠に引っかかるような腑抜けに大事な妹たちを嫁がせるわけにはいかないからね」


 トームスの疑問にはセインが答えてくれた。


(心まで読めるのか!? この兄ちゃん。マジ怖えんだけど)


「正確には読唇術だよ。人間は考え事をしている時に僅かに唇が動くんだ」


 セインは内ポケットから手のひらサイズの本を取り出すとトームスに渡す。タイトルは『正しい読唇術の会得法』だった。


(やっぱり兄妹だ。似てる)



 

 採掘場に続く坑道を進んでいくと、周囲の壁が光り出した。青と緑の光が交互に点滅している。


「すごいな! これが鉱石か?」


 光っている場所をきょろきょろ見回すトームスに、エドワルドが呆れたようにため息を吐く。


「落ち着け。初めての場所に連れてきてもらった子供のようだぞ」


「初めての場所だけど?」


「そういう意味ではなくてだな……もういい」


 額に手をあてるエドワルド。はしゃぐトームスを止めるのは諦めたようだ。


「これは我が国でしか産出されない貴重な石でグリニッシュブルーライトというんだ。鉱石を研磨すると綺麗な青緑色の宝石になるんだよ」


 セインが丁寧に説明をしてくれる。市場に出ると大変な高値がつくうえに、闇ルートだと市場の倍の値で取引されるため、盗賊に狙われやすいのだという。


「俺たちが避けれる罠なんだから、手練れの盗賊なら簡単に忍び込めるんじゃないのか?」


「罠の仕掛けはあれだけではないよ。他にもいろいろあるんだ。まず領主館に忍びこむのも一苦労だろうね」


 要塞のような堅固な城に、鉱山に続く道は罠がたくさんあり、おそらく坑道にも何か仕掛けがあると思われる。今まで忍びこめた盗賊はいないそうだ。

 セインの案内がなければ、自分たちも今頃は神のみもとだったと思うとトームスはぞっとした。


「では、こちらへどうぞ」


 セインが壁の間に作られた小部屋へと招く。中に入ると研磨されたグリニッシュブルーライトがいくつかガラスケースの中に入っていた。青緑色の宝石は美しい輝きを放っている。


「この中から好きな石を選ぶといいよ。どれも最高級の石だ」


 エドワルドとトームスはガラスケースを覗きこむ。光加減によって青にも緑にも見える不思議な宝石だ。トームスはごくりと喉を鳴らす。


「高そうだな」


「マルク子爵家は資産家だろう? 結婚指輪は妥協するなよ」


「殿下は国の税金から算出するんだからな」


「王族の予算内だ。心配するな」


 一つ一つ吟味していくが、トームスには高そうだと思う以外、宝石の価値が分からない。宝石を盗んだことはあっても、すぐに売って金に替えていた。グリニッシュブルーライトは今までお目にかかったこともない宝石だ。


「セイン殿。選び方の基準ってあるのか?」


「もの選びは第一印象が大切だからね。君がエレナに似合いそうだと思うものを選べばいい」


 そういうものかとまた一つ一つ見ていくと、ふと気づく。同じように見えるが宝石の輝き方が微妙に違うのだ。星のまたたきのように輝いていたり、優しい輝き方をしているものなど様々だ。


(エレナはふわりとした感じだから、この優しい輝きのが似合いそうだ)


「私はこれにしよう。フィーのように美しく輝いている」


 エドワルドが指差したものは星のまたたきのような輝き方をした石だ。


「俺はこれ」


 セインが穏やかに微笑む。


「ふむ。2人ともいい石選びの目をしている。合格だな。後で宝石のデザイナーを呼ぼう。土台のデザインをしてもらわないとな」


「フィーとエレナ嬢にバレないように頼む」


「分かっているよ」とセインはウィンクをしてみせた。

宝石名は造語です。


ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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