第10話
今日はあと1話投稿予定です。
トームスがエレナをエスコートして庭園を歩いていくのを、エドワルドとフィルミナは微笑ましく見送った。
「トームスとエレナはお似合いですわね(眼鏡が邪魔ですけれど)」
「フィーもそう思うか? あの二人を婚約させようかと考えているのだが」
フィルミナは首を傾げて、あごに人差し指をあてる。その様がなんとも可愛いので、エドワルドはフィルミナを抱く力を強めた。いまだ膝の上に乗せたままである。
「でも、トームスは子爵、エレナは伯爵令嬢ですわ。身分差が邪魔ですわね」
「それは大丈夫だ。近々トームスを伯爵に陞爵させようと思っている」
オーグランド王国は実力主義だ。身分に関係なく、優秀な者は王宮で重要な役職に就かせたり、国に有益な領地の管理を任せたりしている。おかげでこの国の官僚はエリート揃いだ。
「トームスが無能なら影武者という名の侍従止まりだったろうがな。あいつは優秀だ。私が即位したら右腕になってもらう」
エドワルドはトームスに宰相になってほしいと思っている。現宰相はフィルミナの父ヴィルシュタイン公爵だが、宰相は世襲制ではない。
フィルミナには兄がいる。兄は父に似て優秀なのだが、自分は公の場には向いていないからと領地で領主代行をしていた。ヴィルシュタイン公爵領は資源が豊富な土地だ。管理が難しいのだが、兄は見事に采配をしている。
「まあ、優良物件ですのね(トームスのくせに)」
トームスの背中がぞくっとした。なんかいやな予感がする。
「どうかなさいましたの?」
背中が揺れてエレナの手にも振動が伝わったのだろう。怪訝な表情をされる。
「いや。今悪寒がしたんだ」
「風邪かしら? なんとかは風邪をひかないと言いますのにね」
「それは俺がバカっていうことか?」
エレナは答えず、目の前にある東屋を指差す。円筒状の白い建物だ。
「あちらで話をいたしましょう」
「無視ですか? そうですか」
エレナを東屋にある椅子に腰かけさせ、自分は向かい側の椅子に座る。
「話って何だ?」
「わたくしは学園を卒業したら、フィルミナ様の女官になるべく王宮で働く予定です」
「はい?」
話の先が全くみえないトームスは呆然としている。エレナは構わず続ける。
「将来、王妃になるフィルミナ様をお支えしたいのです。ですから!」
テーブルをバンと力をこめて叩き、立ち上がると拳を握りしめて熱弁をふるう。
「殿下をアンジェリカ様にとられるわけにはいかないのです!」
最近、エドワルドに何かとまとわりついてはフィルミナの邪魔をしているアンジェリカは傍から見ても、エドワルドを狙っていると分かる。
「いやいや。殿下はアンジェリカ嬢は苦手だって言ってたぞ」
「今はそうかもしれませんが、この先アンジェリカ様に気持ちが傾かないと言い切れますか!?」
アンジェリカがエドワルドに近寄る度に、表面上は平静を装っているフィルミナだが、元気がなくなる。だだ漏れの本音が出なくなるほどに。
エレナはずいとトームスに顔を寄せる。その迫力に気圧されそうなトームスである。
「たぶん……ないと思うぞ」
「殿下をアンジェリカ様にとられるくらいなら貴方にとられた方がまだマシです! そしてフィルミナ様はわたくしが幸せにします!」
「おかしな方向に話が向いてるぞ! ロマンス小説の読みすぎだ!」
トームスはエレナに顔を寄せると、彼女の細い手に自分の手を重ねる。
「落ち着け! あの二人の絆はよく分からないけど深いと思うぞ。ぽっと出てきた女に引き裂けるとは思えない。殿下を信じろ」
吐息がかかるほど近い距離に二人の顔がある。今さら気づいたエレナはばっと顔と手を離し、ふいと横を向く。白い頬が薄い紅色に染まる。
「エレナ、悪い! レディに対して失礼だよな。紳士として失格だ」
「……ないで」
「なんだ?」
「謝らなくてよろしいですわ。熱くなりすぎたわたくしが悪いのですから」
エレナは東屋を出ると、フィルミナ達の元に戻るべく歩き出す。残されたトームスは口元を手で覆う。眼鏡で顔の大部分が隠れているが、顔が赤い。
「やべえ。可愛い。抱きしめたくなった。いやいや。何考えてんだ? 俺」
首を横に振ると、トームスも東屋を出てエレナの後を追った。
一方、エドワルドとフィルミナはまだいちゃついていた。密着度がさらに増している。
「トームスとエレナは何を話しているのかな?」
「案外、恋愛沙汰に発展してるかもしれませんわ(きゃ~恥ずかしい)」
「フィーは本当に可愛いな。口づけしてもいいか?」
フィルミナがうつむいて、横目でちらりとエドワルドを見るとエドワルドの頬を両手で包み込む。
「もう、エド。二人がそろそろ戻ってきますわ(少しだけですよ)」
目を瞑るフィルミナに唇を寄せ、エドワルドは軽く口づけをする。
少しだけフィルミナの勘が当たっているかもしれない(笑)
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