小さなキス
ウェンディ誘拐事件は、レベッカの知らないところでクリストファーが迅速に対処したらしい。随分後になってから、レベッカはリードからこっそり詳細を教えてもらった。
ランバート家とアルマン家から正式に謝罪があり、それぞれの家から賠償金が支払われた。ちなみに、いくらなのかは聞くのが怖かったので、レベッカは敢えて聞かなかったが、かなりの金額だったらしい。
首謀者であるエステル・ランバートは収監施設への幽閉や謹慎処分等が検討された。しかし、本人の精神状態が不安定なため、弟のニコラスが奔走して、結果的に専門の病院へと入院したようだ。まだ1日の大半をぼんやりとして過ごしているが、ニコラスとだけは少しずつ会話ができるようになっているらしい。また、ブルックス・アルマンとの婚約も解消された。
ランバート侯爵は上手く立ち回り、爵位返上や役職を失うことはなんとか避けられたようだが、貴族の間では今回の事件の噂が流れ、肩身の狭い思いをしているらしい。
実行犯であるブルックス・アルマンは学園を卒業間近だったが、自ら退学し、謹慎中の身だ。男爵家の跡取りだったが、今回の事件により後継者の座を弟に変更することを家族が検討している。しかし、彼にとっての一番の罰は、エステルに二度と会えないことらしく、毎日嘆き暮らしているそうだ。
今回の事件は貴族の間でも取り沙汰され、話が広がっていった。社交界で貴族達は根拠のない噂を流し、面白おかしく楽しんでいる。学園の中にまで、あることないこと噂が囁かれるようになり、その中には悪意も含まれた噂話もあったようだ。被害者であるウェンディは好奇の視線に晒されることが予想されたため、心配したクリストファーと教師の間で話し合いが行われることとなり、結果的にウェンディは卒業まで自邸で静かに過ごすこととなった。
ただし、ウェンディ本人は学園に戻らなくてすんだことに内心で大喜びしているようだ。
「本当に学校に戻らなくて大丈夫なんですか?」
事件から数日後、仕事の休憩中にレベッカはウェンディに尋ねた。現在、レベッカはウェンディによってソファに座らせられている。ウェンディもまたソファに腰を下ろし、楽しそうにレベッカの髪を手で遊ばせながら頷いた。
「ええ。元々試験も終了して、卒業間近だったから……授業もほとんどなくて卒業準備の期間だったしね。ああ、でも」
ウェンディは何かを思い出したように言葉を重ねた。
「一度は学園に戻らなくてはならないわ。いろいろと事務処理が残ってるの。あとは残りの荷物も取りに行かなくちゃ。まあ、ほとんどはジャンヌが持って帰ってくれたけど」
レベッカは苦笑した。結局ジャンヌは事件の2日後に、コードウェル家へと荷物を抱えて戻ってきた。現在はレベッカと共にウェンディ専属のメイドとして忙しく働いている。
「でもお嬢様、残念ですね……」
「え?何が?」
その言葉に、ウェンディはレベッカの髪を三つ編みにしながら首をかしげた。
「お嬢様は何も悪くないのに、学園に戻れないなんて……」
レベッカがそう言うと、ウェンディはクスクスと笑った。
「そんなのどうでもいいわよ」
「でも……」
「仲のいい人もいないし、未練はないの。元々私は人と関わるのは苦手だし……。変な噂が流れているみたいだけど、別に気にしてないわ。私にはあなたさえそばにいてくれればそれでいいんだもの」
「……」
顔を曇らせて無言になるレベッカに構わず、ウェンディはそのままレベッカの髪を優しく撫でた。
「ここで過ごす方がずーっと楽しいわ。だからそんな暗い顔をしないで、ベッカ。私は本当に気にしてないのよ」
ウェンディはキッパリとそう言ったが、レベッカの顔は晴れなかった。
「でも、卒業パーティーもあったんですよね?それは……?」
「出ないわよ。もちろん」
「え!?」
ウェンディが当然のようにそう言ったため、レベッカは思わず大きな声を出した。
「ドレスまで作ったのに!?」
「あれはお兄様に言われて仕方なく作ったのよ。本当は適当なドレスでよかったの」
ウェンディは顔をしかめつつ答えた。
「元々出るのはイヤだったのよ。ただ、コーリンに頼まれたから……最後にパートナーとして顔だけ出すつもりだったの。コーリンはもう学校に来ないだろうし、私も行くつもりはないわ」
「そんな……」
レベッカは何も言えなくなった。そんなレベッカの頭に、ウェンディはキスをするとそのまま手を伸ばし、軽く抱き締めてきた。
「ねえ、でも見せてね」
「はい?」
突然抱き締められ、耳元で囁かれたことに身体を硬直させながらも、ウェンディの方へ顔を向ける。ウェンディはレベッカを愛おしげに見つめながら言葉を続けた。
「私のドレスと一緒にあなたのドレスも購入したでしょ?私のことはどうでもいいけど、あなたのドレス姿は見せてね」
「あ……」
「私、楽しみにしてたんだから。ベッカ、絶対に着てね」
「は、はい……」
レベッカが戸惑いながら頷くと、ウェンディは満足そうな顔をした。
──お嬢様は今後どうなるのだろう。
レベッカは中庭の掃除をしながらぼんやりと考えていた。
現在、ウェンディはこの屋敷にて、仕事である小説を書いたり、レベッカと過ごしたりと静かな日々を送っている。クリストファーは相変わらず伯爵としての仕事が忙しいようだが、誘拐事件の後からなんとなくウェンディとの関係が軟化しつつあるようだ。兄妹の間でポツリポツリと会話が増えている。まだ完全に元に戻ったとは言えないが、とてもいい傾向だ。クリストファーの妻のリゼッテは出産を控えており、とある事情によりコードウェル家の別邸へと移った。別邸とはいえそれほど距離は離れていないが、しばらくはそちらで過ごすようだ。恐らくは出産もそこでするのだろう。
信じられないくらい平和で穏やかな日常が過ぎていく。
レベッカは動かしていた箒を止めて、自分の手を見た。少しずつ良くなってはいるが、まだ傷は残っている。包帯はそろそろ不要になりそうだ。
そのまま視線は屋敷の方へと向けられる。ウェンディの部屋の窓はここから遠い。きっと今頃、ウェンディは仕事のためにタイプライターを叩いているのだろう。
──もうすぐお嬢様は正式に学園を卒業する。卒業したら、どうするのだろう。
卒業後のことについて、レベッカはウェンディから何も聞いていない。というか、聞くのが怖い。
結局のところ、ニコラス・ランバートとはただの友人であり恋仲ではなかったが、ウェンディが誰かと結婚するかもしれないという不安は消えない。ウェンディは「絶対に結婚したくない」とは言ったが、それでも貴族の女性だ。家同士の繋がりのための結婚は避けられないだろう。むしろ、未だに婚約さえしていないのが奇跡的なのだ。ウェンディは三大美女と言われるほど美しいのだから。
クリストファーからも、きっと何か将来のことに関してウェンディはいろいろと言われているとは思うが、レベッカはどうしても恐ろしくて今後の事を尋ねる勇気はなかった。
「だけど……」
レベッカはうつむきながら小さく呟いて、両手を強く握った。
「私は……」
──レベッカはどうしたい?
いつかのキャリーの声が脳裏に響く。
「そんなの、決まってる。私は──」
叶えたい想いがある。
自分の望みは、ただ一つ。
どんなに悲しくても、辛くても、苦しくても。
自分はこの望みのためならば、何度でも立ち上がれる。
──それがどんなにつらくて悲しい現実であっても。
レベッカが顔を上げたその時だった。
「レベッカさん」
いつの間にかジャンヌがすぐ近くにいた。レベッカは慌ててそちらへ顔を向ける。
「あ、ジャンヌ!何か仕事がある?」
「仕事、というか……」
ジャンヌは苦笑しながら答えた。
「お嬢様がお呼びですよ」
「え?どうかしたのかな?」
ジャンヌはコソコソとレベッカの耳の近くで声を出した。
「書いている小説がちょっと詰まってるらしくて……気分転換したいみたいです」
それを聞いたレベッカは納得したように頷き、ジャンヌに箒を手渡した。
「それじゃあ、行ってくる。箒をお願いしていい?」
「はい。行ってらっしゃい」
ジャンヌは快く送り出してくれた。レベッカは軽く頷くとそのまま足早にウェンディの部屋へと向かった。
未だにウェンディが小説家であるという事実に現実感がない。好きな作家が自分の主という事が信じられなくて夢みたいな話だと感じている。それは目の前でウェンディがタイプライターを打って物語を作り出す光景を見ても同じだった。ウェンディは特に気にすることなく、すごい勢いで次から次へと小説を書いているようだが、まだその姿を見慣れない。
ウェンディの部屋に行くと、やや疲れたような顔で迎えて入れてくれた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……ん」
ウェンディは長い髪をかきあげながら小さく頷く。
「……お疲れですね」
「展開は決まってるんだけど、どう書こうか迷っているところがあるの。いろいろ考え過ぎて、少し疲れちゃった」
ウェンディは苦笑しながらレベッカに向かって手招きした。
「こっちきて」
「はい」
レベッカが素直に駆け寄ると、ウェンディは蕩けるような甘い笑顔を浮かべる。そして、自分も立ち上がると、レベッカの正面にしゃがみこんだ。
「うわっ」
突然ウェンディが手を伸ばし、レベッカの身体を抱き寄せる。レベッカが驚いたような声をあげるが、ウェンディはその様子に構うことなく、
「んふ、んふ」
笑いながら幸せそうに抱き締めた。
レベッカは迷いながらもそっとウェンディの背中に腕を回す。
しばらくその状態のままだったが、やがてウェンディが囁くように声を出した。
「ベッカ、今日も蜂蜜みたいな香りがするね」
「そ、そうですか?自分ではよく分からないんですが……」
「んふふ。私、この香り大好き」
ウェンディはまた声に出して笑い、ようやく身体を離す。そして、何かを思い出したような顔をして立ち上がった。
「そういえば、あなたに渡したい物があるの」
「え?」
戸惑うレベッカから離れてウェンディは机の方へと向かう。そのまま引き出しから大きな本を取り出した。再びレベッカの方へと来るとその本を手渡してくる。
「はい、どうぞ」
「これは……?」
「私の新作」
「ええっ」
レベッカは目を見開きいてその本を見つめた。焦げ茶色の本の表紙には『嘘つき少女の閉じられた記憶』というタイトルが記されている。
「わあ、どんなお話ですか?」
「子ども向けのミステリーよ。記憶をテーマにした探偵もの。発売はもう少し先だけど……あなたに1冊プレゼントしようと思って」
「よろしいんですか!?」
レベッカが顔を顔を輝かせると、ウェンディも嬉しそうに笑いながら頷いた。
「ありがとうございます!大切にしますね!!」
本を抱き締めるようにしながらレベッカは深く頭を下げた。
その後、ウェンディに促されソファに腰を下ろす。ウェンディもレベッカの隣に体をピッタリくっつけるようにして座った。
「読むのがすごく楽しみです!」
レベッカは本を見つめながらニコニコ笑う。そんなレベッカを見つめながらウェンディも楽しそうに微笑んだ。
「読み終わったら感想を聞かせてちょうだいね」
「はい!」
レベッカは頷きながら表紙を軽く撫でた。今から読むのが楽しみだ。ウェンディの本なのだから、きっと素晴らしい傑作にちがいない。しばらくは夜更かしをする日々となるだろう。
そんなことを思いながら、レベッカはハッとして顔を上げるとウェンディに向かって声をかけた。
「本当にありがとうございます、お嬢様……あの、何かお礼を──」
「そんなの気にしなくていいわよ」
ウェンディは苦笑しながらそう言ったが、レベッカは本を抱き締めながら言葉を続けた。
「そんなわけにはいきません。こんなに素敵な物をいただいたのに……」
レベッカの言葉にウェンディは少し考えるような顔をした後、悪戯っぽく笑った。
「じゃあ、ベッカ」
「はい、お嬢様」
「私からベッカにお願いがあるの」
ウェンディの瞳がキラリと光る。それを目にしたレベッカは心の奥底で嫌な予感がしたが、それを無視して口を開いた。
「はい!何でしょうか?私にできることなら何でもいたします!」
「んふ」
ウェンディはレベッカの言葉に微笑むと、自分の膝を軽く叩いた。
「……?」
意味が分からず首をかしげるレベッカに、ウェンディはハッキリと言葉を出した。
「ここに乗って」
「……はい?」
「私の、膝に乗って」
「はい!?」
レベッカは飛び上がるようにソファから立ち上がった。
「何ですか、それ!?そんなのできるわけが──」
「できるでしょう?ここに乗る、それだけのことよ」
ウェンディはアッサリとそう言ったが、レベッカはブンブンと頭を横に振った。
「お、お嬢様のお膝に座るなんて、そんな……っ、そんな無礼なこと、できませんよ!!」
「ベッカ」
ウェンディは名前を呼ぶと、上目遣いをしながら言葉を重ねた。
「お願い、ベッカ」
「……うぅぅ」
レベッカはウェンディのこの甘えたような顔に昔から弱い。恐らくはウェンディもそれを理解して意識的にこんな表情をしている。
──自分の顔面を武器にするなんて、本当にタチが悪い。
そう心の中で呟きつつ、結局レベッカはさんざん苦悩しながら諦めたように声を出した。
「メイド長には……」
「分かってる。言わないわ」
ウェンディは楽しそうに笑いながらレベッカの耳元に唇を寄せた。そして、小さく囁く。
「私とあなただけのヒミツよ」
「……」
レベッカは深呼吸を数回すると、震えながら身体を動かした。ソファへ上がると、ウェンディの膝を跨ぐような体勢となる。そのまま膝立ちになったレベッカを見て、ウェンディは拗ねたような顔をした。
「このまま、お膝に乗りなさい」
そう命じられたが、レベッカはうつむきながら首を横に振った。
「わ、私、重いので」
「こんな小さな体なのに何を言ってるの」
ウェンディは呆れたような顔をしたが、レベッカは頑なに体勢を崩さなかった。
「これ以上はムリです……お嬢様」
そう言いながら、顔を上げる。思ったよりもウェンディの顔が近かったため、レベッカの心臓は跳ね上がった。顔を真っ赤にさせたレベッカを見て、ウェンディはクスクス笑う。そのままレベッカの手を取ると優しく撫でた。
「まだ治らないのね」
「え?あ、傷ですか?もうすぐ包帯は取れるかと……」
ウェンディはそのまま包帯が巻かれた手に軽く口づけをする。ビクッと肩を震わせるレベッカを見つめながら、ウェンディは言葉を続けた、
「あのね、ベッカ」
「はい?」
「……近いうちに、ベッカに話したいことがあるの」
そう言うウェンディはとても真面目な顔をしている。何か不穏なものを感じたレベッカは困惑したようにウェンディを見返した。
「お嬢様……?話って何ですか?何か、ありましたか?」
「……その、ちょっといろいろと考えててね。今後のこと、とか……」
ウェンディの言葉にレベッカの顔は真っ青になる。心臓が大きな音をたてていて、心がザワザワと波打つような感覚がした。
「……それって」
それ以上の言葉が続かず、レベッカの口は閉じてしまった。不安を感じてモゾモゾと身体を動かす。今後のこと、というのはウェンディの卒業後のことだろうというのはすぐに察した。
「……正式に卒業したらきちんと話すわ。だからもう少し待っててくれる?」
「……はい」
レベッカが小さく声を出して頷くと、ウェンディはホッとしたように微笑んだ。そんなウェンディの表情を見て、たまらずレベッカは口を開いた。
「お、お嬢様!」
「うん?」
「わ、私は、お嬢様の……」
──ずっとそばにいたい、と言いたかった。
だが、言葉にできなくて、そのまま詰まってしまう。
「お嬢様の……」
そう声を出すレベッカの姿を、ウェンディは不思議そうに見つめている。その表情があまりにも幼くて、かわいくて、何よりも愛おしかった。
ふと、昔に戻りたい、と思ってしまった。ウェンディと2人、寄り添うようにこの部屋で過ごしていた懐かしい日々。ウェンディはベッタリと甘えてきて、レベッカはそれを笑顔で受け止めていたあの頃に、戻りたくて仕方ない。
──馬鹿か、私は。
──未来のことなんて考えることさえしなかった無邪気なあの頃に、戻りたいなんて。
本当に馬鹿だ、私は。
ウェンディはまだ不思議そうな顔で首をかしげている。レベッカは一瞬だけ泣きそうになったが、すぐに微笑むと、ウェンディに顔を近づける。
「──え」
声を出すウェンディの額へ、口づけをした。風のように触れるだけの小さなキスだった。
「べ、ベッカ……」
ウェンディが衝撃を受けたように額を抑える。そのまま顔を真っ赤にさせた。そんな珍しいウェンディの姿を見て苦笑したレベッカは素早くウェンディから身体を離し、ソファから降りた。
「──そろそろ仕事に戻りますね」
そう言ってペコリと頭を下げると逃げるように部屋から出ていく。
レベッカを呆然としたまま無言で見送ったウェンディは、額を抑えたまま唇を綻ばせると、
「……ベッカから、キスしてくれるなんて……夢みたい」
そう言いながら、倒れるようにソファに身を沈めた。
◆◆◆
数日後、レベッカは自室の真ん中で1人で座り込んでいた。今日、ウェンディは卒業の手続きをするために一時的に王都の学園へと行ってしまった。そのため、レベッカの仕事は休みだ。
ここ数日、仕事や個人的な作業が多すぎて疲れが貯まっている。今だってやることはたくさんあるのに全然集中できない。ぼんやりとしながら、ウェンディの顔を思い出していた。
『ベッカに話したいことがあるの』
ウェンディの話を受け止める心の準備ができているとはいえない。未来への不安で心がザワザワしている。怖くて怖くて、たまらない。
だけど。
それでも。
「私は……」
──私は、どうしたいか。どうすべきなのか。
そんなの決まっている。
レベッカは自分の唇に触れながら、小さく笑った。
「……お嬢様、……ウェンディ様……」
小さく呟くと、脳裏にウェンディの笑顔が浮かび上がる。
自分の望みは、1つしかない。
昔から、想っていること。大切な、大切な願い。
誰にも奪えない、たった1つの自分の願い。
「レベッカ」
名前を呼ばれてハッとしながら顔を上げる。いつの間にかキャリーが扉の近くに立っていた。
「あれ?キャリーさん?どうしました?」
「いや、扉が開けっ放しだったから、どうしたのかなーと思って」
「ああ……閉めるの忘れていました」
「最近ぼんやりしてるわねぇ。何か悩みごと?」
「え、えーと。いえ、ちょっと疲れが貯まってて」
そう言いながら誤魔化すように笑う。キャリーは少し心配そうな顔をした。
「大丈夫?」
「はい。もう少しで終わりますから」
その言葉にキャリーはレベッカの部屋を見渡した。
「随分綺麗になったわね……もうここを出る準備は済んだの?」
レベッカは暗い顔をしながら、小さく頷いた。
「もう少しで終わりです」
「残念ね、ずっと過ごしていたここを離れるなんて……」
「……仕方ないですから」
レベッカは無理やり笑顔を作ると、立ち上がった。
「ちょっと休憩したいんですけど、一緒にお茶でもどうですか?」
「あら、いいわね。ジャンヌも呼びましょ」
キャリーの言葉にレベッカは微笑みながら頷く。
そのまま部屋を出ていこうとして、レベッカはふと振り返った。物がほとんどなくなり、空っぽ同然の状態となった部屋を見回す。
少しだけ悲しい顔でうつむいたが、やがて振り切るようにその場から立ち去った。
次回、Xデー!




