セツナが遺したもの
--それは、罰だった
彼女を裏切った罰だった
護れなかった罰だった
--もう生きていたくない、もう終わらせて、死にたい
何度も何度もそう思った
それでも、私は生き抜いた
あなたとの約束を果たすために
あなたを救うために
あなたのためならば、役立たずの私は何でもできる
茨の道だって、裸足で進めるの
あなたを苦しめる世界だって、この手で壊してみせるよ
だって、誰にも愛されない私を、あなたは受け入れてくれたから
大丈夫だよって、言ってくれたから
だから、私は--
◆◆◆
『--いや、本当は、分かっている。気づいて、いるんだ』
リースエラゴが呟くようにそう言った。
『--この空間と、外の世界の時間の流れは、違う。ここでずっと、眠っていたが……それでも、分かっている。きっと、セツナと別れたあの日から、人間の世界では何十年も、何百年も経ったのだろう……セツナも、とっくの昔に死んでいるはずだ。どれほど待っていても……セツナは、戻ってこない』
リースエラゴの青い海のような瞳は悲しみに染まっている。そんなリースエラゴを真っ直ぐに見つめ、レベッカは口を開いた。
「そうとは……限らないと思います」
その声に反応してリースエラゴはレベッカを見る。そして、困惑したような声を出した。
『は?』
その様子に構わず、レベッカは顔を伏せて小さく呟いた。
「ようやく、分かりました。どうしてこの剣がここへやって来たのか。私をここに導いたのか」
もしかしたら、この島を訪れることになったことも、偶然ではないのかもしれない。そんなことを思いながら、レベッカはリースエラゴに視線を向け、言葉を続けた。
「……セツナさんという方は、もしや左の頬に大きな傷がありますか?」
その言葉に、リースエラゴは大きく目を見開いた。
『--なぜ知っている?確かに、セツナは私と逃げる時に攻撃を受けたせいで、頬に傷跡が残っていた……』
レベッカはそれを聞いて、確信した。
《アイリーディア》をリースエラゴに向ける。
「これ、この剣は、魔法そのものを斬ることが出来るという剣だそうです。実際に、二年ほど前、私はこの剣で呪いを斬った事があります。そして、恐らく、これはセツナさんが作った物です--あなたを助けるために!」
リースエラゴはその言葉を聞き、訝しげな声を出した。
『セツナが……?確かにその剣からセツナの気配を感じるが……だが、そんな事が……』
信じきれない様子で、リースエラゴは剣に視線を向ける。しかし、
「この剣の名前は、《アイリーディア》というそうです」
レベッカの言葉を聞いたリースエラゴがハッとしたように息を呑む。そして絶句した様子で真っ直ぐに剣を見つめた。
「何かご存知なんですね?」
レベッカがそう尋ねると、リースエラゴは小さな声を出した。
『--アイリーディアというのは、……私の昔の名前だ……セツナだけに教えたことがある。セツナしか知らない……私が、人間だった時代の名前だ』
「えっ」
その言葉に、レベッカは驚いて思わず大きな声をあげた。
「あなた、に、人間だったんですか!?」
リースエラゴは気まずそうな声で答えた。
『--元は、人間として生きていたんだ』
何かとても話したくなさそうな様子で顔を背ける。レベッカもそれ以上の事は聞けずに、オロオロとしていたが、気を取り直して口を開いた。
「えーと、とにかく、この剣でその魔法具を斬ってみますね……?」
『--いいのか?』
レベッカの言葉に、リースエラゴは目を細めて言葉を返してきた。
『私がお前を騙しているかもしれないぞ……呪いが解けた瞬間、お前を喰うかもしれない』
「え?喰べるんですか?」
キョトンとしながらレベッカが問いかけると、リースエラゴは目を伏せた。
『……喰べない。人間を喰べたいと思ったことはない』
その様子に、レベッカは少し笑った。
「あなたが嘘をついているなんて思いませんよ。それに、それに……、この剣、《アイリーディア》が私にずっと語りかけてきましたから。あなたを助けてほしいって」
その言葉に、リースエラゴはしばらく無言でレベッカを見つめ、やがておかしそうに目を細めた。
『お前、呑気な奴だな』
「よく言われます」
レベッカも微笑み返すと、ゆっくりと剣を握った。
「それでは、いきますね」
『--頼む』
リースエラゴの言葉に、レベッカは走って尻尾の先へと回った。赤い輪へ向かって剣を構える。そして、
「よっと」
変な声を出しながら、剣を振るった。
剣が赤い輪に触れた瞬間、ピシリと音をたてる。そして、輪は強く光り輝き始めた。
その光に、レベッカは目を見開いたが、そのまま輪を切るために剣に力を込めた。
「むっ……」
なんだか、とても硬い感触がする。輪が抵抗しているような気がした。刃先が全然進まない。
--これ、本当に斬れるの……?
レベッカが顔をしかめたその時、剣の石がチカチカと光った。諦めないでと言われているような気がして、レベッカは思わず小さく笑う。大きく息を吸い込むと、再び力を込めた。ゆっくりと、刃先を進めていく。
そして、再びピシリと音がした。
「あっ」
レベッカは思わず声をあげる。
赤い魔法具が放つ光が消える。そして、そのまま粉々に砕け散った。あまりにも簡単に壊れたため、レベッカは狼狽えながら、一歩下がる。そして、リースエラゴを見上げ、驚いて口をポカンと開けた。
パキンと音をたてながら、石像にひびが入った。細い割れ目は、リースエラゴの身体の全体に広がっていく。
石像は、音をたてながら砕けていった。
「……っ」
レベッカは息を呑んで、思わず腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。石像が割れ、中から現れたのは真っ白な竜だった。全身が雪のように白く輝いている。
竜は青い瞳を大きく開くと、そのまま天を見上げ、大きく吼えた。
その時、レベッカが持っていた剣の石が今までで一番強く光った。そして、
「えっ」
レベッカが驚いて声をあげるのと同時に、剣の刀身が折れる。
そのまま、リースエラゴの復活を見届けて安心したように、《アイリーディア》はボロボロと崩れていった。
後に残されたのは、剣に付いていた水色の石だけだった。コロンと地へと転がったその石へ、レベッカが手を伸ばそうとしたその時、石が再び光った。
「わっ」
石から、小さな光が浮かび上がるようにフワリと現れた。小さな光はそのまま空中をフワフワと移動し、やがてリースエラゴの顔の前で止まる。
その光を見たリースエラゴが絞り出すように声を出した。
『--お前、……お前、やっぱり馬鹿だろう』
その海のような瞳が、潤んでいた。
『私なんかのために、こんな、こんなに時間をかけて……自分の、魂まで使って……』
その時、不思議な声が聞こえた。
“戻ってきたの。約束したから”
“ただいま、リーシー”
その声を聞いたリースエラゴの瞳から次々と雫がこぼれていく。
『こんなになってまで……約束を、守ってくれたんだな……セツナ』
祝福のように、光が強く輝いた。
『--知っているか?セツナ。私は……、幸せだったんだ。お前がそばにいてくれたから……』
声が震えていた。
『--セツナ、セツナ、どうか、覚えていてくれ。忘れるな。私のことを。私が、お前を、世界で一番好きだったということを。私も、忘れない。お前との出会いを。お前と過ごした日々を--!』
ゆっくりと光は弱くなっていった。少しずつ消えていく。
リースエラゴは小さく呟いた。
『いつか、また出会えたら、その時は、今度こそ、ずっと一緒にいよう。--約束だ』
それに答えるように、光が揺れる。そして、蝋燭の火のように、フワリと消えていった。
その光景を、レベッカはポカンと見つめていた。
しばらく沈黙が続く。そして、リースエラゴはまだ潤んだ瞳で、レベッカに視線を向けた。
『--感謝する』
そう声をかけられたレベッカはビクリと肩を震わせた。
『これで、ようやく呪いが解けた。本当に、ありがとう、小さな人の子よ』
レベッカは慌てて立ち上がった。
「ひ、人の子なんて呼び方はやめてください。私は、レベッカです」
それを聞いたリースエラゴが目を細めながら、頷いた。
『そうか、では、レベッカ。私の事は、“リーシー”と呼ぶがよい』
「ええっと、リーシーさん……?」
『さん、はいらぬ。ただ、リーシーでいい』
その言葉に頷きながら、レベッカはゆっくりとリースエラゴに近づいた。
「えーと、リーシー……身体は大丈夫ですか……?」
『ああ。まだ体力と魔力は完全に戻ってはいないが、しばらく休めば回復するだろう』
その言葉にレベッカはホッと胸を撫で下ろす。そんなレベッカを見ながら、リースエラゴは言葉を続けた。
『何か、お前に礼をしたい。望むものはあるか?』
リースエラゴの声に、レベッカは小さく笑って首を横に振った。
「いいえ。お礼なら、既にセツナさんからもらっているので」
『うん?』
不思議そうな声を出すリースエラゴにレベッカは微笑んだ。
「--セツナさんが遺してくれた、《アイリーディア》のお陰で、私も大切な人を救えました。だから、気にしないでください」
あの剣がなければ、きっとウェンディを助けられなかっただろう。セツナの力のお陰だ。
レベッカの言葉に、リースエラゴは不思議そうな顔をしていたが、やがて気を取り直したように再び口を開いた。
『--その、もし、よければなんだが』
「……なんですか?」
どこかモジモジしたような様子のリースエラゴをレベッカはキョトンと見返した。
『その……、ここで暮らさないか?』
「--はい?」
レベッカがポカンと口を開けると、リースエラゴは何かを誤魔化すように言葉を重ねた。
『その……お前、かなりの魔力を持っているだろう?……人間とは思えない、強い魔力だ。人間というか……精霊とかその辺に近いな』
「……あー」
『お前のような存在は、あちらで、かなり生きにくいだろう。私は、知っている。欲深い人間の醜さを。強い魔力を利用しようとする愚かさを。……ここは異次元の空間で、普通の人間は入ってこれない。ここにいれば、お前は静かに穏やかに、ずっと生きられるだろう。だから--』
「いいえ」
リースエラゴの言葉を遮って、レベッカは首を横に振った。
「--あちらで、私を待っていてくれる人がいます。その人のそばにずっといると、約束しましたから、だから……帰ります」
その言葉に、リースエラゴは目を大きく見開く。そして、すぐに、
『--そうか』
と、小さく頷いた。
「あなたは、外に出ないんですか?」
レベッカの問いかけに、リースエラゴは少し首をかしげた。
『元々、私は外の世界では生きにくいからな……身体が回復するまではここで休むとしよう。その後は……分からないが、まあ、もう少し考えて……』
ふと、リースエラゴはレベッカの近くに転がっている水色の石へと視線を向けて、口を開いた。
『そうだ。お礼と言えるかは分からないが--これを』
「え?」
リースエラゴは地に転がっている、《アイリーディア》の水色の石を手に取った。
『これをお前に贈ろう』
「えっ?」
リースエラゴがフッと息を石に吹きかける。すると、水色の石は瞬く間にリースエラゴの瞳のような深い青の石へと変化した。
「それは……?」
『--元は、魔石の一種だったようだな。先ほどまではセツナの魔力と魂が入っていた。セツナが消えた今、普通の石に戻ってしまったが……』
リースエラゴは大きな手で、その石をレベッカへと差し出してきた。
『今、私の魔力を少量、この石に込めた。これを身に付けておけ。何かあれば、いつでも私の名前を呼ぶがよい。お前のためなら、いつでもどこでも駆けつけよう』
レベッカは戸惑いながら、青色の石とリースエラゴをチラチラと見た。
「えーと、いいんですか?もらっても……」
『ああ』
リースエラゴが大きく頷いたため、恐る恐るレベッカは青色の石を手に取った。
「あ、ありがとう、ございます……」
小さな石だった。まるで宝石のようにキラキラと光っているが、まるで海が閉じ込められているような深い色だ。
綺麗だな、と見つめていると、再びリースエラゴが声をかけてきた。
『--そろそろ、戻った方がいい。外の世界では、お前を待っている者がいるのだろう。相当時間が経ったのではないか?』
レベッカは苦笑した。
「あ、はい……でも、真夜中ですから……」
きっと全員寝ているはずだ。レベッカがいないことにも気づいていないだろう。そう思っていると、リースエラゴが首をかしげた。
『さっき言っただろう。ここと外の世界は、時間の流れが違うと』
「……へ?」
『私も詳しくは把握していないが……恐らく外の世界の方が時間の進みが早いんだ。多分、あちらでは何時間も経っているぞ』
「それを早く言ってくださいよ!!」
レベッカは慌ててポケットに青色の石を突っ込んだ。
「えっ、それじゃあ、今は何時!?」
『さあ……?』
「で、出口は!?どこなんです!?」
レベッカはあたふたと辺りを見渡した。リースエラゴは少し笑って、手を上げた。
『仕方ない。私の手で、お前を帰すとしよう』
「わっ!」
リースエラゴが突然レベッカの背中を押した。その瞬間、ザブンと音がした。レベッカの身体は再び水の中へと沈んでいく。
沈む瞬間、リースエラゴの声が聞こえた。
『本当にありがとう、--レベッカ』
◆◆◆
「--ベッカ、ベッカ!!」
最初に聞こえたのは、ウェンディの声だった。
「ううぅ……?」
気だるさを感じながら、瞳を開ける。
そこには、心配そうに自分を見つめるウェンディ、クリストファー、ダニエルや屋敷の使用人達がいた。
「……あれ?お嬢様?」
レベッカが眉をひそめるのと同時に、今度はクリストファーが大きな声をあげた。
「レベッカ!よかった、目を覚まして……大丈夫かい!?」
「え……あれ?……私……」
戸惑いながら、身体を起こす。周りを見回すと、そこはダニエルの別荘の踊り場だった。
「ベッカ、どこに行っていたのよ!?どこにもいなくて、……本当に心配したんだから!!」
「えっと……申し訳ありません」
ウェンディの怒ったような声に、どう答えればいいのか分からず、レベッカは慌てて頭を下げながら謝罪した。そして、思う。
--もしかして、全部夢だったのかもしれない。だってあり得ないだろう。異次元の空間に、竜に、呪いだなんて……
レベッカがそう考えたその時、ポケットに重みを感じて、レベッカはハッとした。そして、誰にも分からないようにさりげなくポケットに触れる。
そこには確かに石の硬い感触が存在していた。
レベッカは息を呑む。そして、ゆっくりと顔を上げると、チラリと鏡に目を向ける。鏡は何事もなかったかのように、ただその場の光景を写していた。
レベッカは周囲の人々を見回しながら、問いかけた。
「……今、何時ですか?」
それに答えたのはダニエルだった。
「そろそろお昼だな」
「えっ」
レベッカは絶句した。自分の感覚では短時間のはずだったのに、一夜明け、何時間も経っていた。
リースエラゴの言った通りだ。
「屋敷中を探し回ったのに、どこにもいなくて、島を捜索しようか迷っていた時、ここに倒れているのを発見したんだ。本当にどこに行っていたんだい?レベッカ」
「えーと……」
クリストファーの問いかけに、レベッカはしどろもどろになりながら、言いわけを考え始めた。
夕方になり、荷物をまとめたレベッカはクリストファーやウェンディと共に海へと向かい、船に乗り込んだ。屋敷へと戻る時間だ。
「もう!行方不明になるだなんて……本当に心配したんだから!!」
「申し訳ありません……」
帰りの船の中で、まだプンプンと怒るウェンディにレベッカは頭を下げた。
結局、朝早くに一人で島を散歩していたら迷子になって、その後ようやくひっそりと屋敷へ戻り自分の部屋と間違えて踊り場で眠ってしまったことにした。
クリストファーとダニエルはレベッカが無事だったことにホッとしていたが、ウェンディは疑わしそうにレベッカを見ていた。
「ベッカ、私に何か隠していない?」
その言葉に、レベッカはドキッとしたが、
「いいえ、何も」
微笑みながらそう答える。ウェンディはムスッとしながら、レベッカを睨んだ。
「えっと、ほら、お嬢様、そろそろ、出発みたいですよ」
レベッカは誤魔化すように慌てて声を出した。
「旅行、楽しかったですね」
楽しくて、不思議な時間を過ごしたミルバーサ島とも、もうお別れだ。
船がゆっくりと動き始める。
ウェンディはようやく島へと視線を向けて小さく頷いた。
「うん……とても、楽しかった」
そのままレベッカの手をギュッと握ってきた。
「また、ここに来たいわ」
「……そうですねぇ、……また、いつか、きっと」
レベッカは微笑みながら、ウェンディの手を握り返す。そして、自分も小さな島を見つめた。
--不思議な島だった。本当に。
「そろそろ、お兄様の所に行きましょうか」
ウェンディの言葉に苦笑する。クリストファーは船酔いを恐れて、船に乗ると早々に休憩所へと引っ込んでしまった。
「そうですね。何か飲み物を持っていきましょう」
レベッカは島へ背を向けて、ウェンディと共に歩き出した。
その時、何かが聞こえたような気がした。
「--ん?」
レベッカは振り向く。
「ベッカ、どうしたの?」
「……」
レベッカは離れゆく島を見つめた。
真っ白で海の瞳を持つ、ひとりぼっちの神がいる島を、静かに見つめた。
どこかで、別れを惜しむような大きな竜の声が聞こえたような気がした。
「……」
さようなら、と心の中で呟く。
そして、再び島に背を向けると、ウェンディの元へと駆け寄った。
◆◆◆
『--本当に、不思議な娘だったな』
ひとりぼっちの神は、小さく囁いた。
レベッカの顔を思い出して、リースエラゴはクククっと小さく声を出して笑う。
レベッカはかつての友人と、セツナとよく似ていた。外見は全然似ていない。しかし、うまく言い表せないが、雰囲気がそっくりだった。
“--なんて、綺麗な瞳……”
レベッカが自分を見た時に言った言葉。
同じだった。あの言葉は、かつてリースエラゴとセツナが初めて出会った時に、セツナが言った言葉と同じだった。
その場にいない友人に、リースエラゴは語りかける。
『なあ、セツナ……あいつ、面白い人間だったな。また会えるだろうか』
もちろん、その言葉には何も返事は返ってこない。それでもリースエラゴは穏やかに笑って、ゆっくりと瞳を閉じた。
--きっと、いつか会えたら、その時はもっといろんな話をしたい。
呑気だが、優しい娘だった。
きっと、今頃は親しい人間と共に家へと帰っているのだろう。
ふと、あることを思い出し、リースエラゴは瞳を開く。そして、遠くを見つめた。
--レベッカ本人には言えなかった。
レベッカと出会った時、黒い何かが憑いているのが見えた。まるで影のような深い闇。その影が見えたのは一瞬で、すぐに消えてしまった。だから、不安にさせるかもしれないと思って、口に出すことができなかった。
『--あれは、まるで』
リースエラゴはポツリと囁く。
『まるで--死相みたいな……』
裏設定
※セツナ
かつて、魔術師として“魔物討伐隊”に所属していた少女。魔力は強いが、よく暴走させていたため、あまり強くなかった。そのため、周囲から蔑まれ、馬鹿にされていた“役立たずの魔女”。
リースエラゴと別れた彼女は、追手からの逃亡の末、ある一族に助けられた。その一族の、ある家族の養子となり、追手から逃れた。その後は、結婚もせず、隠れるようにしてその一生を“呪い殺しの剣”の製作に捧げた。
剣に、全ての魔力と自分の魂までを込めることで、ようやく完成させることができた。最期に、剣に《アイリーディア》という名前を付け、一族の子どもたちにリースエラゴの救出を託した。
しかし、その一族がある理由でバラバラになってしまい、やがて剣の役目は忘れられてしまった。
後に残ったのは、《アイリーディア》という名前だけだった。




