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腕輪の力

 ◆



 火山の噴火を抑えるため、水龍の腕輪を介して私は地に手を広げてブレイスリザードの放つ力を抑え込む。

 とても強く、腕輪の力なしでは抑えきれない。

 ジワリジワリと熱さ以外で私の体中から汗が滲んでくる。


「はぁ!」


 サレルが近づいてくる無数の魔物達を相手に持っている武器を駆使して私を守ってくれている。

 ……後どれくらい私は火山を噴火させようとしている力を抑えていればいいのか。


「凄いな……」


 魔物達は私達を容易く倒せないと判断し、少しだけ距離を取り、襲い掛かる隙を伺っている。

 じりじりと睨み合いの中でサレルが空を見上げて言った。


 空ではチドリさんとルーフェが今まさに本気になったブレイスリザードを相手に空中戦を繰り広げている真っ最中。

 魔物達は自等の主が苦戦しているのがわかって来ているのか、動きが止まっている者も混じり始めている。


「そう、だね。チドリさんとルーフェ……凄いね」

「いや、あいつだけじゃない。リーサ、お前もだよ」


 サレルの言葉に私は首を傾げる。

 だって、今の私の力は水龍の腕輪と鱗、そして杖の力が大半。

 私自身はまだ魔術学園に入学して少ししか経っていない、未熟者でしかない。


「私なんてチドリさん達に比べたら足元にも及ばないよ」


 だって、前の戦いのときも私は足手纏いでしかなかった。

 今回もそれは変わらない。

 前と同じく雨雲を呼んだだけで、大事な戦いには参加出来ていない。

 ただ……前と違うのは私がここを抑えておかなきゃ、いろんな場所に被害が及ぶという点だけ。


「いいや、間違いない。昔に比べてリーサ、お前は見違えるほど強くなった。俺の努力、修行なんて鼻で笑えるくらいにな」


 けれど、私のその返答にサレルは否定するように笑って答える。


「それは……チドリさんが居たから……」


 私は稲光の中で闘い続けるチドリさんとルーフェを見つめる。


「確かにあんな奴を見てたら自然と目標が高くなるか……はは……敵わないな」

「サレルだって、十分に強いよ」

「どうだかな……あんな戦いをマジマジと見せつけられると、俺はまだ未熟者なんだと思い知らされる」


 飛び掛ってきた魔物をサレルは切り伏せる。

 その動きは私の目でも追い切れない程に早い。

 こんなにも早く動けるサレルでさえも自分の弱さに嘆いている……やっぱり私はまだまだ何だと思い知らされてしまう。


「……やっぱりブレイスリザードを相手にしてわかる。俺じゃ勝てない。なのにあいつ等は余裕を見せて戦っていやがる」

「あきらめちゃダメだって、チドリさんなら言うと思うよ?」


 生きている事が何よりも大事。

 いつかきっと機会は訪れる。

 チドリさんは冒険者として、いつもそう語り続けてくれている。


 諦めない事が何よりも大事。

 ずっと努力していかなきゃ、絶対に追いつけない。

 せめて私は、チドリさんの手助けが出来るようになりたい。


「本当にあいつは何者なんだ? 化け物みたいに強いぞ」

「チドリさんは……物語で出てくる様な、英雄」


 物語の勇者、英雄みたいに生贄にされそうになっていた私を助けてくれた。


 私は今でも忘れていない。

 死んだって覚えている。


 チドリさんが私を助けて、幸せな生活が出来るようにとがんばってくれている。

 私の所為でチドリさんは英雄として各地で活動出来ない。

 なら……私がする事はチドリさんの願い通り、立派な魔法使いになる事。


「その割に本人の普段の態度は雄々しいとか、そう言った雰囲気は全然しないな。まあ、戦いの場では恐ろしい程の強さを持ってるが」

「うん」

「あんなのを見せられたら英雄だって言うのも信じるほかないかもしれないな……今にして思えば、あの街の連中はこれを知っていたから止めなかったんだろう」


 デスペインの群れを倒した時に見た紫色の光が空に広がっていく。

 直後、ブレイスリザードも負けじと黒い太陽みたいな力を放ったけれど、チドリさんとルーフェは素早く動いてそれを避けた。


「行け! そこだ! くっ……俺はどうしてあそこにいけないんだ……あんなにもブレイスリザードを追いこんでいるのに……悔しい……」


 サレルは追い込まれたブレイスリザードを見て、悔しそうな顔をしている。

 お姉さんの仇を取れるけれど、それはきっと自身の力で取りたかったんだと思う。


「チドリさんに倒されちゃ嫌?」

「……そうじゃないと言いたいが、そうなのかもしれないな。もっと、俺は強くなりたい」

「私と同じだね。私ももっと強くなりたい」


 村で会った頃のサレルをとても眩しいと感じていた。

 とても高い目標を持っていて、絶対に近づけないと思っていた。

 けれど、今はサレルの気持ちがわかる気がする。

 チドリさんが頼りにするくらい、立派な仲間に……なりたい。


 魔物達がブレイスリザードが黒い太陽を落とそうとしている事を察して我先に逃げていく。


「おい、ここに居て大丈夫なのか!?」


 サレルが周囲を見渡して言う。


「ダメ。まだ動けない。それに、大丈夫。チドリさん達なら、絶対……」


 今は火山が噴火しないように……魔力を込めて見上げる事しかできない。

 チドリさんとルーフェが二筋の光となってブレイスリザードにぶつかる。

 それに呼応するように周囲の雨雲から無数の雷が集まり、まるで竜がブレイスリザードをかみ砕いたかのように光って、弾けた。


「ほら……」


 私は落下してくる絶命したブレイスリザードと、それを確認して離脱するチドリさんとルーフェを指差して行った。

 もう火山を噴火させようとしている力は、術者であるブレイスリザードが倒された事で消失している。


「お、おい。リーサ? 地面が凍りついているんだが」

「うん……抑え込んでいたんだからそうなって当たり前」

「火口の一部を凍りつかせるって……」


 なんかサレルが呆れている。

 これはきっと、アレ。

 チドリさん風に言おう。


「これはね。この水龍エアクリフォ様から貰った水龍の腕輪の力だよ」


 いつかきっと、私は……チドリさんに頼りになる魔法使いになる。

 そう、決めている。



 ◆



 ぐしゃっとブレイスリザードは地面に叩きつけられ、その躯を火口近くの地面に横たえる。


「ルルー」


 ゆっくりと俺達はその躯の傍に着地して、ブレイスリザードの亡骸を確認する。

 うん、間違いなく死んでいるだろう。

 骨は砕けており、後はドロドロになった粘液しかない。

 素材にするのはちょっと無理そうだなぁ。


 とりあえずここは……うん。

 マッドストリームイヴィルオクトパスの時と同じようにサンダーソードを掲げよう。


「勝利のサンダーソードだ!」

「ルルー!」


 俺の勝利の雄たけびに合わせてルーフェが背後で羽を広げて声を上げる。


「チドリさん!」


 声の方向を見るとリーサが座り込んでいて、こっちを見ていた。

 ああ、あの時の光景になんとなく似ているような気がする。


「やったね」


 前よりも覇気に満ちた表情でリーサが俺達に言う。


「そうだね。これで俺は、うん。納得できるかな」

「何を?」

「リーサの保護者である事」

「?」

「ルル?」

「何を言ってるのかよくわからんが……」


 サレルが眉を寄せて俺に声を掛けてくる。


「れ、礼を言う。姉さんの仇を討ってくれて、その……あ、ありがとう……」


 それから気恥かしそうにお礼を言って手を差し出して来た。

 ああ、素直にお礼を言いたいのか。

 俺はそんなサレルと握手を交わす。


「上手い事倒せてよかったと思う。これも全てサンダーソードのお陰だな!」


 エロッチが俺を落とすついでにリーサを助け、マッドストリームイヴィルオクトパスを倒したお陰で、俺はここにいる。

 マッドストリームイヴィルオクトパスの魔石の力があったからこそ、効率的にブレイスリザードを倒せたのは間違いない。


 ありがとうサンダーソード!


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