水晶玉
「ブラインドライトニング!」
マッドストリームイヴィルオクトパスの魔石に内包された力を出し、雷がブレイスリザードに纏わり付く。
目だと思わしき骨の部分を集中的に這う。
これで目も眩んだだろう。
後は一気に……という所で仰け反りから態勢を立て直して地面に炎を吹きつけるブレイスリザード。
自等を焼き焦がす事が無い事を前提としたマグマの津波とも別の広範囲ブレスだ。
これ以上の接近を許さないと言った攻撃で、下手にあの炎に当たったら蒸発するのは周囲の亡骸の残骸でわかる。
何せ炭に成っているというのに、更に燃え盛って粉塵となってしまっているのだ。
水龍の鱗と魔石の防御も限界がある。
何度も耐えて突っ込むのは得策じゃない。
「はっ!」
アームドサンダーで足を地面に付けて大きく弾くように離れる。
高速移動に隼を使うのは良いが、再使用の隙があるのでただ離れるだけならこっちの方が早い。
「チドリさん!」
と言う所で増援の処理をサレルとルーフェに任せていたリーサが杖を掲げて魔法の詠唱を始める。
……何かリーサ也の必殺魔法を使う気配。
離れた今が一番の決め所だな。
ブレイスリザードは俺の方に敵意を向けるのに夢中で気付いていない。
ならより視界に入らないように背を向けさせるように回り込もう。
「休む暇なんてあると思うなよ!」
距離を取った俺は鎌鼬と追撃の雷をとめどなく放ちながら一定距離を保つ。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ブレイスリザードは怒りの雄たけびを上げながら俺に向かって即死しかねない炎を吐き付け、マグマに潜って地中からの奇襲や、炎を纏った突撃を繰り返す。
しかも陽炎を発生させて姿を隠すなんて行動までしてきた。
マグマに潜った時や陽炎で姿を隠した時はサンダーソードの放つ電気が地面に通り、デスペインの群れでアルジャーノンハーメルンを見つけた時の様に赤く姿が視認出来たので避けるのは容易かった。
ブレイスリザードも俺がしっかりと場所を見切っているのを察したのか、怒気を孕んだ咆哮を放ちながら猛攻を繰り返す。
ただ、マグマの津波を放たないのは最初に放った隙を突かれた事で警戒しているのかもしれない。
なんて所で……ブレイスリザードがニヤリと笑った気がした。
何だ? 何かあるのか?
そう思っていると、ブレイスリザードの周囲に赤い水晶玉みたいな物が三つ浮かんでいた。
その赤い三つの水晶玉が光るとブレイスリザードの周囲に透明な円柱型の結界みたいな物が生成される。
……結界?
そう思った直後、結界が高速で俺に目掛けて飛んできて俺に向かって上からどこからともなくマグマが降り注ぎ始める。
更にサンダーソードの雷が円柱を抜けられず所在地が掴めなくなった。
そうして炎の柱で円柱を囲った後……ブレイスリザードが俺の背後からその巨体で炎を纏って突撃してきた!
この手間のかかる一つ一つが当たったら死ぬだろうと思える攻撃だったのだが……俺はこれが来る直前、リーサを見て、敢えて攻撃にハマったフリをした。
手ごたえ的に水雷龍刃を放って突撃すれば脱出は容易そうだったしね。
現に……リーサの張った罠のお陰で熱さは無いんだ。
「ギャ!?」
勝利を確信していたブレイスリザードが俺の背後で驚愕の表情と共に何が起こったのかに目を……あるかどうかわからないけどうろたえた声を上げた。
バキンと炎の体を凍てつかせて縛り上げる氷がブレイスリザードに纏わりついていた。
それはリーサが円柱の内側に張っていた罠。
「ここから……の……」
リーサはぶんぶんと杖を振り回してから高らかと掲げる。
杖と腕輪、そしてリーサ自身から青白い光が放たれ、その魔法は完成する。
これは学園の実技の授業で見た奴を何倍もの密度で放った代物だ。
「スコールクラウド!」
火山の上空に生成された大きな雨雲から雨が降り注ぎ、リーサの放った氷の罠を通り抜けて氷の槍と化して降り注ぐ。
「アイシクルレイン!」
ザシュザシュと炎の魔物であるブレイスリザードの体に無数の氷の槍が降り注ぎ、串刺しにしていく。
「おお……すげぇ……」
「ルルー! リーサすごーい!」
同意する。
まだ魔術学園に入って日の浅いリーサがここまで出来てしまうとは……天才という言葉こういう時に使うのかな?
水龍の腕輪の力でもあるんだろうけれど、それでも驚異的な攻撃だ。
「チドリさんが時間を稼いでくれたのと腕輪が凄い力を貸してくれたから出来た」
リーサも力の源がどこから来ているのかわかっているみたいだ。
けれど、凄い力を持った装備を扱うのだって実力の内だ。
「どっちにしても凄いと思うよ」
サンダーソードで大分弱らせていたとは思ったけれど、リーサの攻撃が決定打だろう。
「ギャ、ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!」
思わぬ伏兵の一撃を受けてブレイスリザード……体がはじけ飛んだ!?
いや、外皮をパージしたみたいな様だ。
今までの半透明な所がより禍々しく黒い鱗が生成され、リーサの放った氷の槍を全て溶かし、消し飛ばす。
黒いオーラがブレイスリザードの中心から発声し、熱風を起こし始めた。
しかも水晶玉がブレイスリザードを守るように周囲に飛んでいる。
俺は何かあっても対処できるようにリーサ達の元に駆け戻る。
どこまで隠し玉を持っているんだ。
上手い事戦えていると思ったが、ブレイスリザードは本気じゃなかったって事なのか。
なんて思った所でブレイスリザードは高らかに飛び上がり、黒い光を水晶玉に集めている。
まるで黒い太陽みたいだ。
どこまで高く飛ぶんだよ。
「ルル! チドリ! アレ撃たれたら勝てない! 急いで行く!」
「わかった!」
と言う所で空からブレイスリザードが出した水晶玉が急速落下してきて、火口のマグマの中に落ち……ボコボコと地面が揺れてマグマが活性化し始める。
なんだ!?
「……チドリさん、ルーフェ、二人で行って来て」
「え? 一体どうした?」
まだリーサには余力があるように見えるのだが……。
リーサはしゃがみこんで地面に手をかざす。
「ブレイスリザード、追い込まれて火山に圧を掛けて大噴火させようとしてる。みんなを周辺の地形ごと消し飛ばそうとしてるのが魔力の流れでわかる」
「何!?」
「それは火山の下にある村も同じ……」
「あんな村――!」
サレルがそう言おうとした所でリーサが静かに見つめる。
それは、酷い村ではあったけれど、壊滅して良い訳ではないと言っているのは誰でもわかる目だった。
「……私がこの水龍の腕輪から発せられる力で出来る限り抑えるから……サレルは出てくる魔物の足止めをして」
「……わかった」
どうやらブレイスリザードの奴、追い込まれたからってやらかしているみたいだな。
「ルル、リーサ……」
「ルーフェ、お願い。チドリさんと……早く」
「ルル! わかった! チドリ! 早くブレイスリザードを倒す!」
「ああ」
俺はリーサを見つめる。
本当に大丈夫なのか?
「まだ……雨雲が残ってる……有効活用、して」
ジワリとリーサが汗を滲ませながら言う。
「そうだな。ありがとう、リーサ。じゃあ……やるか!」
試しで挑んだつもりだけど……いや、デスアルジャーノンハーメルンの時と似たように不思議なくらいとんとん拍子に事が進んでいる。
まあ厄介な状況なのは変わらない、か。
どちらにしてもサンダーソードから放たれる電気は消える気配は無い。
やるぞサンダーソード!
「ルーフェ!」
「ルル! 早く倒す!」
「おう!」
ルーフェが飛ぶドラゴンの姿に変化して俺を背に乗せる。
そのまま本性を現したブレイスリザードに向かって飛び上がった。




