忍者
サレルの故郷である火山の近くまで移動した俺達は、その日の野営地を決めて休憩を取っている。
「ルルーン、ルル! 体が小さいと~細かい事が出来て~便利~ルル!」
ルーフェは釜戸を組んで鍋を乗せてスープを作って棒でぐるぐるとかき混ぜている。
変異の影響か、その動きは以前よりも楽そうだ。
「いくらなんでも……いや、実際に背に乗って来たから間違いじゃないが……だが……」
体育座りをしたサレルがブツブツと何やら呟いている。
気持ちは理解できる。
あまりにも早い移動に俺は地図を見て驚きを隠せない。
日本における飛行機の移動でもここまで早く移動できるだろうか?
驚異的な行動範囲の拡張だろう。
魔物に関してもルーフェの速度に追いつける奴はいなかった。
この移動力……リーサの故郷にだってそんなに時間が掛らないぞ。
ここまでの道中、長時間飛行で疲れを見せるかと思ったのだが、飛行中に速度が落ちるなり俺に電気マッサージを頼んできた。
大丈夫かと思いつつ施したら疲れが取れたのか速度が戻ってそのまま移動をし続ける事が出来たのだ。
どうやらルーフェの持つ雷吸収のお陰でサンダーソードから放たれる電気さえあれば半永久的に飛び続けられるようになってしまったっぽい。
相性が良いと言うか何と言うか……。
とにかく、おそらく普通にドラゴンの背に乗って移動出来たとしてもここまでの移動範囲は確保できないだろう。
しかもそれだけ移動しておきながら本人は簡易竃を組んで料理をするだけの余裕がある。
「チドリさん、サレル、暑くない?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「ああ……」
リーサは氷の魔法を使って周囲の温度を下げ、俺達が快適で居られるようにしてくれている。
なんだかんだ火山帯故に温度が高い。
道中砂漠もあったし、荒れ果てた荒野も通った。
しかも空から灰が降ったりするらしい。
サレルから聞いた話だと昔はこんなではなかったそうだ。
これもブレイスリザードの影響が出ているんだとか。
ブレイスリザードが行っている悪行というか、出来事を色々と調べた。
幸いな事に魔術学園や冒険者ギルドに多数の資料が残っていて、情報に困る事はなかった。
それだけ有名な魔物という事だろう。
で、火山を噴火させたり、逆に熱が出ないようにしたり、空気が悪くなる灰を降らせたり~~とやはりというか周辺の環境を著しく悪くなる様な事をしているらしい。
ただし、生贄となる人間を捧げると僅かな期間、その手の災害を止めてくれるそうだ。
その期間の間には良質の鉱石が見つかる坑道が安全に使用出来たり、周辺で固有の作物が実るので人々はこの火山からは微妙に逃げ出せずにいるんだとか。
荒ぶる神様って認識なんだろうか?
少しずつ人が目減りしている状況ではあるけど、この地を捨てる事が出来ない……って言うのがなんともいやらしいね。
サレルの話ではリーサの所も似た感じだったらしい。
それでだ。
野営をする前に周囲に出てくるブレイスリザードの配下らしき魔物と遭遇した。
場所が場所だからか火属性の魔物だ。
ラーヴァシーラカンスというマグマを纏った……かなりゴツイ魚の魔物だったなぁ。
マグマの中を移動して、地面から攻撃するという攻撃手段をする。
手始めにサンダーソードで電気を放ったら、たまらず地面から飛び出してのた打ち回り始めたのでそのまま倒せた。
次に出てきたラーヴァシーラカンスはリーサが戦いたいと言うので、サレルと一緒に戦う……事になったんだけど、リーサが氷の魔法で罠を仕掛けて、そこから顔を出すなり凍りついて動きが鈍くなった所をトドメの氷魔法で仕留められ、サレルは呆然としていた。
ルーフェ?
新たに習得した雷のブレスで俺と同じように仕留めてしまったよ。
他にマグマに擬態したラーヴァスライムという魔物がいたのだけど、リーサの氷魔法の巻き添えで瀕死になっていた。
属性相性的に上手く戦えているって所かな?
どうやらこの世界の火属性の魔物はゲームの様に水に弱い様だ。
この程度の魔物ならサレル曰く、戦えない程の相手じゃないらしい。
実際、呆然としていたサレルだが、次に出てきた魔物は本人の強い要望により、一人で倒した。
尚、もう少し火山を登っていくとファイアバードという炎を操る強力な魔物が出てくるそうだ。
シュタイナー氏がリーサに諦めさせる名目として提案した、魔物との戦闘も順調の一言で片付いてしまってますよ?
大丈夫なんですかねー……。
っと、そうだそうだ。
俺はサバイバル技能で周囲の地形や採集できる品等を見繕っておこう。
……ちょこちょことサボテンや岩の隙間とかに薬草があるけどとりわけ珍しい薬草は見つからないな。
傷薬の材料にはなるけどね。
で、サレルはマントを広げて戦闘に使う道具を作ったり弄ったりしている様だ。
いろんな品々が並んでいて中々に見応えがある。
誤解とはいえ彼と少し手合わせしたが、面白い戦い方だったのでかなり気になっていたんだ。
俺とリーサがそんなサレルの道具を見ていると、本人は居心地が悪いと言った視線を向けてくる。
「なんだ? 何か気になるのか?」
リーサには優しげに声を掛けるけど俺への視線は厳しい。
これは……嫉妬だな!
わかる。わかるぞ。
大丈夫、俺はリーサの保護者でしかないから。
優しい目で見つめると、尚の事不快そうな顔をされてしまった。
「これって?」
リーサが丸い玉を指差す。
「それはバインドウェブ。この前リーサの手足に暴発した奴の大本だ」
ああ、冒険者達が動けなくされたあの道具ね。
随分とコンパクトなんだな。
一個欲しい位だ。
「こっちは?」
「煙玉。しびれ薬や即効性の毒を混ぜたりも出来る。油なんかを混ぜて散布するようにしたりもする。そっちは閃光玉。砕けると閃光を放つ。そこのドラゴンと紫電の剣士には効果が無かったな」
あれか。
サンダーソードの影響で煙の中でもサレルの位置を特定出来たんだ。
「これは?」
リーサがなんか十字の鉄製の刃物……手裏剣があった。
「手裏剣?」
俺が言うとサレルは少しだけ眉を寄せて頷く。
「よく知ってるな。棒形の物もある」
本当に手裏剣なのかよ。
君は魔物狩りなんだよね?
忍者か何かなんじゃないのか?
「道具を使って有利な状況にしていくのが魔物狩りって事か」
「当然だ。武術や魔法だけが魔物の対抗手段じゃない。入念に準備して、被害無く魔物を狩るのが魔物狩りなんだからな」
「その言い方だと弓とかも使えそうだ」
「そりゃあな。死角から一撃で仕留めるのだって必要な事だろ」
カテゴリー的には戦士と弓手の間みたいな職業って所だな。
剣術もそこそこ良くて凄く身軽だった。
回避を重視しているのは攻撃力の高い魔物を想定しているからだろう。
「サレルって……冒険者だとどれくらいの腕前なの?」
「少なくともブレイスリザードには勝てない程度だ。ドラゴンソルジャー程度なら苦戦しないな」
「ルル?」
露骨にルーフェを見て言ったなぁ。
ルーフェはこう、色々と敵が多いよな。
ドラゴンウォーリアーってどの程度の強さなんだろうか?
基本侮られるって事は体格の割にそこまで強くないんだろうというのはわかるけど。
「ルーフェの変異前は遥か昔に居た錬金術師に改造されていたドラゴンウォーリアーだったからねー。普通のドラゴンウォーリアーよりも強いのは当然なんじゃないかな?」
「そうなのか?」
サレルがリーサに尋ねる。
「うん。埋没した遺跡ダンジョンの奥で石になってた。チドリさんに何度も何度も倒されて立ち上がってた」
「ルル~電撃の出会い」
それは誇らしげに言う事なんだろうか?
本人が問題無さそうだから……いいか。




