出発
「ちょっとご近所さん達に迷惑掛けるけど、ルーフェなら何があってもみんなを逃げさせる!」
ルーフェがリーサの手から離れて皆に距離を取るように命じ、十分に皆が距離を取ってから空飛ぶドラゴンの姿に代わって見せる。
「ああ……本当に姿が変わるんですね」
「このルーフェにリーサ達を守ってもらえばもしもの時だって逃げ切れるでしょう」
「……まったく、チドリさんは無茶な事を平気そうに言うんですから……しかも逃げ切れるだなんて前向きなのか後ろ向きなのか……」
まあ後ろ向きなのは認める。
けれど、勝てない可能性は考えておかないといけない。
じゃないと逃走という選択がなくなってしまうからな。
「レナさん、チドリさんはデスペイン騒動の時、僕達を助けたじゃないですか。今度もやり遂げると思いましょうよ」
「……そうね。ここで止めても止まりそうにない。なら私は一緒に行くか見送るしか選択はなさそう……だけど、私じゃきっと足手纏いになるわ。だから信じて見送ります。どうか……ご武運を」
「信じてくれてありがとうございます。そうだ、リーサ……あの鱗を持って行くんだよ。盾代わりでも良いから体を守れるようにしたら良いかもしれない」
まだ加工前でもっていたエアクリフォの鱗をお守り代わりに持っていこう。
水龍の鱗なんだ。
ブレイスリザードの攻撃を防ぐには相性が良いかもしれない。
「うん。サレルも出発の手伝いをお願い」
「わかった」
「ルル! チドリの巣の奥! 行きたい!」
ルーフェが子竜姿になってリーサの後を追い、家の奥へ行こうとした所……ブレイスリザードの討伐に行こうとして教官に止められた……隠れ熱血の生徒がリーサの前に立ちはだかる。
「なんだお前」
サレルがリーサの前に立ちはだかる生徒に目を付けるが、隠れ熱血の生徒はサレルを一瞥してリーサに詰め寄る。
「無茶だ! ブレイスリザードに挑むだって!? 死にに行くようなものだぞ! アイツだって帰ってこなかったと言うのに! みんなが見送ったって僕は止めるぞ! 才能がある学生が無駄に命を散らすのはもうウンザリだ」
当然と言えば当然な反応だ。
リーサが誘拐されたという話をした時、その場に居た訳だしな。
というか、もしかしたらシュタイナー氏やレナさん、孤児達に情報を伝えてくれたのは彼かもしれない。
「死にに行くんじゃないよ。私は……昔の私を救うために行くの」
「救う……?」
「うん。私はね……チドリさん。紫電の剣士が倒したマッドストリームオクトパスの生贄だったの」
「――!? だからなんだ! それと君がブレイスリザードに挑む理由にはならないだろ!」
「あの時の私はね、助けてもらう事を諦めて、感情を殺して怯えていただけだった……そんな私を助けてもらったの。今度は、まだ見ぬ犠牲者に成る人を、私が出来る範囲で助けたい……あの日の私を私が助けないと進めないの」
それはリーサ自身の決意の言葉だった。
「でも、さっきチドリさんが言った通り、敵わないと思ったら逃げるつもり。命があれば幾らでも挑める。諦めないのが大事」
無謀な戦いはしない。
実力を確かめに行くだけ、とリーサは隠れ熱血の生徒に告げる。
ふわっとリーサの周りに粉雪が舞う。
「ほう……」
シュタイナー氏がリーサの様子に声を漏らし、隠れ熱血の生徒は数歩下がって道を開けてしまう。
「心配してくれてありがとう。無茶はしないよ。この力は……栄光を掴むためにあるんじゃない」
「くっ……わかった」
隠れ熱血の生徒は拳を強く握り締めて、決意に満ちた表情で言った。
「絶対に帰って来るんだぞ。約束してくれならないなら、僕は死んでもここをどかない」
「うん、約束する。絶対に帰ってくる」
「わかった。けど……それでも、もしも君が帰ってこなかったら、例え何年、何十年掛っても僕がブレイスリザードを倒して見せる! 皆の無念を……晴らして見せる。その権利をお前達に貸してやる! 絶対に、帰って来るんだ」
リーサは隠れ熱血の学生に僅かにだけど微笑んで歩き出す。
うん、なんというか青春だな。
冒険者らしい雰囲気でちょっと心が躍ってしまった。
ん? 隠れ熱血の生徒の頬が赤くなっているような?
ははぁ……サレルに始まり、この隠れ熱血の生徒もリーサに秘めた想いがあると見た。
リーサ、モテモテだな。
美少女だし、凛々しさも出てきたから当然だよなぁ。
けれど、悪女に成長しないようにしっかりと見守って導かねばいけないぞ。
「ほっほっほ。青春じゃな」
俺が何を考えているのか察したのか、シュタイナー氏も微笑ましい目でリーサ達を見守っていたのだった。
さて、とりあえず装備品の類を纏めよう。
俺は言うまでもなくサンダーソード。
で、最近新調した革鎧。
クリスタルホーンバイソンの革を使って作った革鎧が恐ろしくフィットする。
少なくとも前の革鎧よりも防御力も動きやすさも段違いなのは分かる。
リーサは俺が買って上げた杖やローブ、帽子を付けている。
水龍の鱗は職人と相談中だっただけなので、そのままローブの下に付けてもらった。
いざって時の予防線だ。
後は言うまでも無く水龍の腕輪。
最近リーサはこの腕輪に甘えないように、着用せずに授業を受け、冒険に出る際も極力使わないようにしていた。
しっかりと勉強をして魔力を高めているリーサが今ならどれだけ使いこなせるか楽しみでもあるね。
で、ルーフェに関してなんだが……ルーフェ用にクリスタルホーンバイソンの角を使って槌を作ってもらっていたんだけど機動性を重視してほしいとの事で槌は断念。
角を持ちやすいように輪っかを付けてナックル型のクローにしてもらった。
サレルは自身の装備で行くらしい。
色々と魔物狩り独自の道具があるのと、中々質の良さそうな剣を所持している。
魔石に関しては……デスアルジャーノンハーメルンの魔石を返却してもらったけれど、、今のところ使う予定は無い。
一番性能が良いのは言うまでもなくマッドストリームオクトパスの魔石だ。
デスアルジャーノンハーメルンの魔石の四角の数はマッドストリームクトパスと同じなので同格何だろうとは思うんだけど、そこはサンダーソードに馴染んだ具合の違いって所。
後は移動に必要な荷物と食料の確保。
この辺りはルーフェに乗って運べるであろう数を調整していく。
少数で行った方が逃げやすいので、これ以上の人員で挑むのは避ける。
もちろん一回の挑戦で勝てるとは思っていない。
相手の実力、サンダーソードが通じるか確かめてからでも良いだろうと言う事で挑む。
無理だと判断したら撤退し、勝てる人員などを色々と計算する事になるな。
懐かしいな。
サンダーソードを入手する前にも似たように大物の魔物を冒険者仲間と協力して倒したりしたもんだ。
下準備は重要だ。
挑戦する形なんだから、ぶっつけ本番なんて事はしなくたっていい。
情報に関しては、総合ギルドなどに、命からがら逃げ出した者達の証言をまとめた物が公開されていた。
なので攻撃に関しては何もわからない訳じゃない。
とりあえず、準備に関しては割と簡単に済んだ。
後はルーフェが俺達を乗せて一日でどれだけ進めるか次第だ。
そんな感じで準備を終えた翌日の朝、俺達はイストラの街の外まで移動して見送る皆に手を振って旅立つ。
「ルルーみんなでお出かけー!」
「それじゃあみんな、行ってくる」
「絶対に帰って来るから」
「……じゃあな」
みんなに手を振り、別れを終えるとルーフェが羽を羽ばたかせて飛び上がる。
少しばかり高度が上がったかと思うと凄い速度で移動を開始し始めた。
おおう……結構重力が掛るな。
「ルル……」
ふわっと景色は素早く移動しているのに風速が弱まり、呼吸がしやすくなる。
ルーフェが何かしらの魔法を使っているで良いのかな?
「おお、早い早い」
地面を見るとあっという間に進んでいく。
日本に居た頃の車よりも早いのではないだろうか?
こういう所が幻想的だなぁ。
前の異世界でもさすがにこんな経験はした事が無い。
「すごいね。ルーフェ」
「ルルーン! 飛ぶの楽しーい!」
「落ちたら洒落じゃ済まないな……」
サレルがそんな空の旅に冷や汗を流しながら呟く。
「ならサレルはしっかり掴まっていた方が良いね」
「リーサ、なんで俺だけ?」
「え? だってチドリさんは電気でゆっくり下りれるし、私も少しだけなら魔法で落ちる衝撃を緩和出来るけど、サレルは?」
心の底から、特に疑問もなくリーサが言っている。
いや、事実だけどさ。
魔法使いとしての勉強がリーサを冷静に状況分析する考えへと変貌させてしまっているような気がしてきた。
「もちろん私も出来る限りサレルが落ちても大丈夫なように風の魔法を使うけど……」
「……」
サレルは何故か俺の方を睨んでいるような気がする。
俺の所為じゃない。俺の所為じゃないから!
「ルル……大丈夫、ルーフェ、落ちないように飛ぶ!」
「リーサ、あのね……冷静に分析してくれているのは良いんだけど、そこはもう少し優しくね」
「??? わかった」
なんてやり取りをしながら俺達は音速とも感じられる速度では目的地であるサレルの故郷である火山を目指して移動したのだった。




