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変異

「つまり……それは……」


 俺が言葉を濁していると、サレルはリーサを見る。


「リーサも、そうだったんだろ?」

「……」


 リーサは顔を逸らして肯定する。


「俺がリーサに声を掛けたのはきっと……纏っている空気が姉さんに似ていたからなんだと思う……どうして……俺は気付けなかったんだ」


 サレルが悔しげに木を拳で殴りつけた。


「……あの時、私が逃げても……その時は他の人が犠牲になるだけだもの……」

「姉ちゃんも同じことを言った! やめてくれ! もっと自分の幸せを優先して良いんだよ!」


 サレルの魂の叫びにリーサはサレルに近づいて抱きしめる。


「サレルのお姉さんの気持ち、わかるよ。私は、サレルみたいな人がいなかったけど、だから、きっとね……自分が犠牲になる事で、サレルが1日でも長く生きられるようにって願っていたんだよ」

「う……あああ……くぅううう……」


 リーサの言葉にサレルは瞳に涙を貯め、腕で拭いつつ隠すように声を漏らした。

 それからしばらくサレルが落ち付くのを俺達は黙って待った。


 事情はわかった。

 つまりサレルはリーサを亡き姉と重ねて何が何でも守ろうと躍起になっていたんだろう。

 無論しょうがないで済む訳ではない。

 けれど……気持ちを察する事は出来る。


「とにかくリーサ、お前の状況はわかった。何があっても……俺はお前を守るから」

「私の自業自得以外で守ってもらうような状況って来るのかな……?」


 ピンとこないと言った様子でリーサはなんかボケを言い始める。

 何だかんだ天然な所がリーサにはありそうだね。

 で、サレルは俺とルーフェの方に近寄って来た。


「あんたにも迷惑を掛けた。何か謝罪したい」

「それは……」


 ここでいらないと言ってもそれはそれでサレルの居心地が悪いよな。

 なら何かこっちが要求した方がサレルも気兼ねなく俺達と相手が出来るようになるはず。

 で、考えるとして金銭の要求は無難とはいえ、下種くさいよな。

 出来れば別の物が良い。


「確か君は魔物狩りなんだったか」

「ああ、俺は魔物を狩る。そして依頼された魔石を納品する仕事を基本にやっている。他に魔物使いとかの為に生け捕りもやったりするな」


 ふむ……じゃあサレルに良さそうな謝罪があるな。


「じゃあブレイドと名がついた魔物の魔石を取ってきてくれないか? 魔物狩りなら知っているだろ?」


 ブレードボアの魔石を持ってはいるけれどブレードとブレイドが異なるので避けている。

 何だかんだ擬装用にも性能も良いからだ。

 クリスタルホーンバイソンの魔石があるのでそろそろ食べさせるかと考えてはいたんだけどさ。


「そんな事で良いのか? それなら……」


 そう言ってサレルは腰のポーチから魔石を出して俺に投げ渡す。


「ブレイドマンティスの魔石だ。これを売ればしばらくは遊んで暮らせるだろう」

「おお、持っていたなら助かる。これで帳消しだな」

「……剣に装着でもして付与効果でもするのか?」


 若干納得しかねる顔をしたサレルが職業らしい事を言っている。

 俺のサンダーソードは魔石に合わせて形状を変えるけど、それとは別にリーサの杖とかに使うのと似た感じの装飾の事を指しているのは間違いない。


「ルーフェ」

「ルル?」


 ポイッとルーフェの餌として投げ渡す。

 パクッとルーフェは投げられた魔石をパクッと頬張ってポリポリと食べた。


「……餌用か」

「で、話があるんだが」

「なんだ?」


 俺はサレルの出生を聞いて、思う所が出来た。


「サレル、君の故郷を根城にするその生贄を望んだ魔物はまだ健在なのか?」


 俺の質問にサレルは不快そうに眉を寄せつつ頷く。


「ああ……まだ生きてやがる。師匠もアレは無理だって諦めているが、いつか絶対に息の根を止めてやる。その為に俺は強くなる手段なんて選ばない」

「そうか……その魔物の名前を教えてくれないか?」

「なんだ? お前が倒しに行くとでも言いたげだな」

「そう思ってくれて良い。じゃないと俺は満足できそうにない」


 サンダーソードの柄に手を触れる。

 エロッチは雄々しく戦えと言った。

 無意味な殺戮でもなく、それで嘆く人々を、悲しむ人々を救う為ならば……俺は戦おう。


 でなければサンダーソードに誇れない。

 持つ資格がない。


 そして何より、俺がリーサを助けた訳じゃない。

 エロッチが助けて俺がその利益とばかりにリーサを保護したに過ぎない。

 ならばリーサの保護者として相応しいと俺自身が納得するには、リーサに似た経緯を歩んで亡くなったサレルの姉の弔いをしなくてはいけない。


 理屈が合わなくても良い。

 俺がそう思ったんだ。

 パチッとサンダーソードが許可をするかのような電気の流れを感じる。


「わかった。マッドストリームイヴィルオクトパスを倒したって話が本当なら倒せるかもしれない」


 サレルは納得し、俺をまっすぐ見て言い放つ。


「あ、いたいた! おーい!」


 ルーフェの友人をしている冒険者たちがやっと駆けつけてくる。

 その後ろには教官も居るみたいだ。


「事態はどうなっているんだ?」

「えっと、その――」


 リーサが教官と冒険者達に事情を説明している。


「姉さんを殺した奴の名前は火山に住むブレイスリザード。過去、土地の守護をしていた火龍・ザノハールを封じた挙句、その力を利用する土地の神を騙って火山を噴火させる邪悪な魔物だ!」


 その名が出てくるのかと、なんとなく納得してしまった。

 教官が執拗に俺なら倒せるんじゃないかと提案していた魔物だ。

 だが、それ程の魔物なら今でも生き残っている理由に説明が付く。


 もしかしたら因果って奴かな。

 エロッチがリーサを救って、俺が面倒を見た。

 そこから連なる、やらねばならない戦いだったって事で間違い無いだろう。


「わかった。じゃあやるとしようか……邪悪な魔物の討伐って奴を」


 こうして俺はリーサを保護する資格を得るため、ブレイスリザードの討伐をする事を誓った。





「ルル――」


 俺がブレイスリザードの討伐を決めた直後、ルーフェが言った。

 ビクッと魔石を食べ終えたルーフェが震えてパチクリする。


「この感じ……覚えがある。ルーフェ、きっと姿が変われる! チドリ、どうしよう?」


 おお、やっぱり正解か。


「ルーフェネット、変異出来るようになったのか?」

「すげー! ソルジャードラゴンだっけ?」

「ますます強くなるじゃん!」

「ルルー。出来れば小さくなりたーい」


 ルーフェと冒険者達が楽しげな会話をし始める。


「おい。妙な事が立て続けに起こってないか? つーかこの坊主と話が付いているみたいだが……」


 教官が俺の方に近寄ってきて言う。


「そうですね。まあ、一つずつ片づけて行きますよ。で、サレル、君はどうする? 付いてくるかい?」

「当たり前だ!」

「わ、私も」


 そこでリーサが挙手をする。


「危険だ! そんな真似をリーサがする必要ない」


 サレルが振り返ってリーサに注意する。


「じゃあサレルは良いって言うの? 私は……いや……」


 リーサはサレルに強い目で答える。


「お姉さんの思いが私にもわかる。サレルだって危険だけど行きたいんでしょ?」

「――俺は――!!」


 言葉に詰まったサレルは静かに黙る。


「チドリさん、迷惑にならないようにがんばるから……今度こそ……力になりたいです」


 うーん……危険な魔物だって話だしなぁ。

 かと言ってここで置いていくと言っても無茶して着いてこられたら似たようなものだし……。

 リーサもそこそこ強いというか、才能があるから本気になったら行動力が凄そう。


「わかったよ。だけど危険だと判断したら俺が精一杯、敵の足止めするから何があっても逃げるんだよ? 命あっての物種なんだから」

「……ありがとうございます」


 リーサは納得したのか頷く。


「それじゃあ決定だな。じゃあ出発の準備をしなくちゃいけない。その前に……まずはルーフェだ」

「ルルー。みんな少し離れて、チドリにパリパリして貰うー」

「ああ」

「こんな時でも電気マッサージが好きなのか、ルーフェネット」

「筋金入りだな。まさに電気が通りやすい」


 良い事を言ったつもりか?

 とにかく、チェックするとしよう。

 俺はルーフェに電気マッサージをするべく近寄る事にした。


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