生贄の家族
「サレル……私は別にチドリさんの奴隷として一緒にいるんじゃないよ? むしろ逆……私がお願いして連れて行ってもらったの」
「……そうか。それは申し訳ない事をした」
リーサの言葉にサレルは素直に謝罪の言葉を口にした。
勘違いが激しいかもしれないけど、思ったよりも良い少年の様だ。
「風の噂で聞いたんだが、リーサの故郷であるラング村で暴れた冒険者ってのは君か?」
念のための確認で聞いてみる。
「ああ、リーサを生贄として育てておいて、リーサが人攫いに誘拐されたなんてほざいてやがった。その後ものうのうとしているのが許せなかったから報いを受けさせた! 後悔は無い!」
うお……噂以上だな。かなり過激な少年の様だ。
罪状とか出てそうだけど大丈夫なんだっけ?
なんか教官がその辺りの事情を話していた気がする。
エアクリフォの耳にも入っていて、罪は無いというか、村の主張は却下されたらしい。
なんでも主張が通らない位、ラング村の評価は悪いそうだ。
「……」
リーサは触れられたくないのか、視線をそらす。
村の事は極力触れないのがリーサの為だな。
「……初めて会って、村から出て行った時……一緒に連れて行けばよかった。あの時に気付けなかった俺が許せない……」
サレルがそう呟く。
ふむ、悪い奴ではなさそうだ。
「私は死んでないよ? だからサレル、そんなに自分を責めないで」
「……」
なんか影のある感じでサレルはリーサから顔を背ける。
「……それで、こっちも噂で聞いたんだが、マッドストリームイヴィルオクトパスを倒した奴がいるんだったな」
「うん。チドリさん」
「ルルー!」
生贄にさせられそうになったリーサ本人の口から俺を指名して出てきた。
いや、だから俺が倒したんじゃなくてエロッチがリーサを助ける為についでに俺をそこに落としただけだって。
「そうか……だからリーサはこのチドリって奴に付いて行ったんだな」
「うん。村には……帰りたくなかったから……」
リーサは若干頬を赤くして頷く。
するとサレルは何故かパクパクと口を何度も開いたかと思うと俺を睨む。
いやいや、なんで俺を睨む訳?
と言うかなんとなくわかるけど、このサレルって子、リーサの事が好きなんだな。
間違いない。
好きな女の子が生贄にされたって話を聞いて、いても立っても居られず現場に急行したって事か。
しかも現場について見れば人攫いに攫われていて、奴隷になっているかもしれない。
そう考えて冷静ではいられなかったのだろう。
なんというか、男だな。
ちょっと過激かもしれないが、俺はこの子を悪く思えない。
勘違い云々だとルーフェを目の仇にしていた某生徒が思い出されるが、印象が違うな。
やはり善意であるかどうかが俺の中で重要なのかもしれない。
鼻で笑った生徒に対しても今では良い子という認識だしな。
それに俺はリーサを保護しているけれど恋人にするには、年齢とか色々とね。
確かにかわいいとは思うけどさ。
助けた恩に付け込むのはどうかと思うんだ。
いや、まあ、助けた女の子に惚れられる~~みたいなシチュエーションを妄想した事はあるけどさ。
リーサだって恋愛と言うよりは助けてもらった影響で憧れているだけ……だと嬉しい。
ちょっと自信が無いのは『俺はリーサに好かれている!』と胸を張って言える程、自分という人間に自信を持てないというかなんというか。
もちろん嫌われてはいないと思う。
それ位の自信は持ちたい。
「少しの時間しか交戦しなかったが、剣筋だけで強いのはわかった」
「俺が強いのは剣のお陰だよ。単純な技術は普通の冒険者さ」
「チドリ、普通の冒険者ちがう。ルーフェを何度も殺せるくらい強い冒険者」
なんでルーフェがここで訂正してくる訳?
「……俺の攻撃をあそこまで往なせる奴が普通な訳がない」
えらく自信があるんだな。
確かにこの世界で出会った冒険者の中では上位に位置するけどさ。
年齢にしては強過ぎる様な気もする。
まあ彼の強さは所持している道具も含まれているけどな。
「それは単純に君の戦い方と俺の相性が良かったにすぎない」
これは間違いない。
俊足で動く左利きの相手なら、俺は相当の経験値を持っている。
レフトハンドキラーとまでは言わないけれど、有利に戦えるんだ。
ちなみに前の異世界でリザードマンは左利きが多かった。
ほとんど左利きだと思った方がいい、というのは蛇足だな。
「けっ! 嫌味な謙遜をする奴め」
「サレル」
リーサがサレルを注意する。
「事情はわかってもらえたかな?」
「……ああ。あんたがリーサが生贄になりそうだったのを助けて、その足でこの街まで逃げてきたんだな」
「そういう事。リーサは今、この街の学園で魔法使いの勉強をしているんだ」
「うん……凄く楽しい……村に居た頃に比べたら夢みたいな日々だよ?」
「ルルー」
「……俺は余計だったか?」
駆けつけたけれど余計な騒ぎを起こしたサレルにリーサは頭を横に振って否定する。
「ううん。だけど、もう少し話を聞いてほしかった」
「ああ……すまなかった」
サレルはそう謝った。
「ルル。誘拐、ダメ、絶対」
「……ふん」
ルーフェに対しては反省してなさそうだな。
自分のやった事に対しては誇りを持っている様だ。
「ルーフェ、チドリが来なくても絶対にリーサを取り返せた」
何故かここでルーフェがサレルに対して敵意ある返答をする。
気持ちはわかるけど、そういうのは黙っている方が無難なんじゃないかな?
「なんだと?」
「サレル、ルーフェに強い攻撃でも倒せなかった。ならルーフェがいずれ勝つ」
「アレだけボロボロにされていた癖に何を言ってやがる」
「すぐ治る」
まあ、確かにルーフェは自己回復能力が高いと言うか、傷が徐々にふさがっているように見えるのは事実だ。
その分、スタミナの消費が激しいらしいけど……。
生傷が絶えないのはどうにかしてほしいんだけどなぁ。
とはいえ今回みたいな状況になった時、ルーフェはどこまでも追いかけていく事がわかった。
そういう所は見直した……って言い方は変か。
以前よりも信用出来る様になった。
「吠えてろ」
サレルがルーフェとの会話を切り上げてリーサの方に視線を向ける。
「どっちにしてもリーサが無事でよかった……」
騒動は起こったけれど、サレルが悪い人物ではなくてよかったで片づけられそうだ。
まあそれなりに罰は受けるかもしれないので、俺の方でどうにかなる様に便宜は図ろう。
「……ねえ。サレル」
「なんだ?」
「とても申し訳ないと思うけど……サレル、何か私を見てる気がしない。何か別の思いがある。だって、チドリさんを見る目がなんか変」
「――!?」
リーサの指摘にサレルが絶句するような顔をしてから悔しげに視線を反らした。
ああ、俺への嫉妬かな?
リーサを助けたかったのに掠め取られちゃったんだしね。
「リーサ、世の中には男心というのがあるんだ。彼の名誉の為にこれ以上刺激するのは可哀想だよ」
「???」
「ルルー? 強いオスの方がモテル当然。チドリ強いからモテモテ」
これ以上サレルの傷を抉るのをやめていただきたい。
それに強ければモテるというのは魔物の世界の話だと思うぞ?
俺が同情の念をサレルに向けると、サレルが物凄く不愉快そうな顔で俺とルーフェを睨んでいた。
「違う! そんなんじゃない!」
「ああ、もう大丈夫だから。ライバルは多いかもしれないが、まだ結果は出ていないよ。君もがんばっていけばいいんだよ」
「その優しい目をやめろ。そうじゃない」
「……サレル、もしかして、貴方が私を助けたかったのは……前に少しだけお話してくれたお姉さんが関わってる?」
リーサが空気を振りきる為に更に尋ねる。
お姉さん?
するとサレルは俺達を無視して頷いた。
「ああ……そうだ。俺は……リーサ、お前を姉さんみたいに失いたくなかったんだ……」
それからサレルはポツリポツリと話し始めた。
サレルは魔物狩りに弟子入りする前は、とある辺境にある火山が近い村に住む極々普通の少年だったらしい。
そんなサレルには歳の離れた姉がいたんだそうだ。
サレルはその姉ととても仲が良く、いつも慕っていた。
だが……幸せは長く続く事は無かった。
火山に住む魔物が村に生贄を求めてきたからだ。
最終的にサレルの姉が生贄として捧げられる事になった。
もちろん精一杯の抵抗をサレルは行ったが、子供であるサレルに出来る事なんて大した事もなく……。
「サレル……貴方がいたから今までの日々を幸せに過ごす事が出来たのよ……どうか、私がいなくなっても自分を見失わないで……」
姉を助けようとして暴力に出たが敗北。
大人に抑えつけられたサレルに姉はそう告げて生贄として連れて行かれた。
サレルは絶叫を上げ、失意の中……大切な姉を失った。
それからサレルは家族や村の者達を軽蔑し、村を出た。
後で知った事らしいのだが、サレルの姉は元々生贄として産み育てられていたんだそうだ。
冒険者が一定数、やって来なかったが為に差し出されたらしい。




