とりもち
それから少しだけ先に行った所で……見つけてしまった。
「く……ぬん! くっそ! どんだけ引っ付いてるんだよ!」
「もう少しだぞ!」
ルーフェと仲が良い冒険者で、先行していた者が……なんかとりもちのような蜘蛛の糸のような物に絡め取られて身動きが出来なくなってしまっている。
「あ! 紫電の剣士! 追いついてきたのか!」
「ああ、俺が先に来てしまったが、君達は?」
俺はどうにかして冒険者を助けようと近づくと冒険者が制止するように手を前に出して声を上げた。
「待て! それ以上近づかないでくれ。この糸っつーか何かを取ろうとするな。そうしたらお前も動けなくなっちまう」
「だが……」
「あのガキ……とんでもなく腕が立つガキだ。こんな道具を投入しやがった」
どうやら冒険者の話だと、必死に追いかけて、ルーフェがリーサを誘拐した奴と対峙する状況にまで追い込めたらしい。
ただ、誘拐犯はルーフェと冒険者に向かってこの糸と言うか、とりもちみたいな物を投げつけて来て、動きを封じられてしまった。
ルーフェはその怪力でものともせずに進む事が出来たらしいのだが、冒険者はそうはいかない。
追手の数が減ったと判断した誘拐犯は背を向けて、また走り出してしまった。
ルーフェは冒険者達の拘束を解こうと振り向いた所で冒険者は先に行けとルーフェを行かせたそうだ。
それくらい……誘拐犯の足は速く、痕跡が残っていない。
今見失ったらどうなるかわからないからの判断だそうだ。
「あれから少し経っているってのに全く取れる気配がない。何だこの拘束道具は……」
「俺達の事は気にせず追いかけてくれ。ルーフェネットはあっちに追いかけて行った」
冒険者達はルーフェが向かった方角を教えてくれる。
「ちょっと待ってください」
俺は恐る恐る取り持ちにサンダーソードを当てて引っ張ってみる。
ビヨーンと引っ張ったら引っ張った分だけ伸び、しかもその分引っ張られる。
物凄い強靭性と粘着性を持った捕縛用の道具みたいだ。
どちらにしても邪魔くさい!
サンダーソードを持つ手に力を込める。
するとバチバチとサンダーソードから電気が放たれ冒険者達に通り過ぎていく。
「うお!? お!?」
バチィ! っととりもちみたいな糸は電気を受けて縮み、冒険者達が軽く払うだけで拘束が取れた。
「た、助かった。さすがは紫電の剣士だ」
「よし! じゃあ追いかけようぜ!」
「ああ!」
そんな訳で再度追跡を始めたのだけど、やはり冒険者達の足が遅く、俺に先に行ってくれと頼まれたのでそのまま追跡を続行する。
「なんていうか……さすがはルーフェネットの飼い主だ。ルーフェネットも見た目の割に凄く足が速いけど、飼い主は凌駕するんだな」
「これくらい人間離れしてないとルーフェネットが惚れる事は無いってことなんじゃないか?」
「さすがは旦那である紫電の剣士だな」
それってどういう意味で?
とか色々とツッコミたいけど今はそんな事を気にしている暇は無かったので、俺はそのままルーフェの足跡を頼りに追跡をしたのだった。
◆
「グルウウウウウウウ! ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ルーフェの大きな咆哮が聞こえて来て、ぼんやりとしていた私の意識が戻ってきた。
「くそ! 切ったその場で傷がふさがるなんて、なんてしぶといドラゴンウォーリアーだ! コイツは本当にドラゴンウォーリアーなのか?」
私は寝かされていて、サレルと……ルーフェが戦っている光景が目に入る。
ここは……森の中?
「――」
声を上げようとして私は自身が……なんだか奇妙な布団みたいな物に包まれているのに気付いた。
もがくのだけど思う通りに出られない。
何これ……。
ルーフェが乱暴に斧を振り被り、その衝撃で石の破片が私の方に飛んでくる。
のだけど、この布団みたいな物は破片を跳ね返した。
分析すると……白い固めのスライム状の物体?
私を破片から守ろうとする代物……みたいなのだけど。
とにかく早く出て、サレルとルーフェの戦いを止めないと。
「そんなにリーサを奪われて困るのか……お前の飼い主は相当リーサにご執心の様だな。そんな外道にリーサは絶対に渡さない!」
「ルル! チドリ関係ない! リーサはルーフェが守るって決めた家族! 今度こそ、子供を絶対に守る! グルルル!」
初めて会った時のような野生的な表情でルーフェは声をあげている。
その全身は……サレルに攻撃され切り刻まれて痛々しい傷が刻まれて尚、戦意を高揚させて雄たけびを上げながらサレルに飛びかった。
そのルーフェの決意の声に私は……静かに思う。
ああ、やっぱりルーフェはとても優しい……私を子供として守ろうとしてくれているんだ……。
物心付く頃にはおばさんに育てられていた私は、ルーフェみたいな優しい思いが、伝わりはするけど、どう返したら良いのかわからなかった。
だからルーフェはチドリさんに良い顔をしたいから、お母さんになろうとしていると……理由付けして勝手に拒もうとしていたんだ。
けど、それは私の思いこみで、ルーフェは……チドリさん無しでも私を守りたいと、あんなに傷だらけになっても、必死に戦いを挑んでいる。
でも、サレルはそんなルーフェの攻撃を完全に見切っているかのように素早く動いて……剣で幾重にも切り裂いた。
早い!
魔物狩り見習いのサレルの戦いを始めてみたけれど、チドリさん程じゃないけど凄く素早く動いてルーフェを翻弄しながら切り刻んでいる。
「フモ――」
声を上げようとしたのだけど、私を包んでいる物が声を遮ってしまって身動きが取れない。
「これでトドメと行くぞ!」
「ルル! こっちも負けない! グルアアアアアアアアアアアアアア!」
サレルが構えを取り、ルーフェが雄たけびをあげてから大きく息を吸う。
両方とも必殺技を放つ気なのがすぐにわかる。
私も、早く拘束を解いて二人の戦いを止めないといけない!
サレルが勘違いしているのはわかっているんだから! 早く!
氷の魔法を唱えればこれは壊せるかな?
……私自身が怪我じゃ済まないかもしれないけど、まずはこれを破壊しないと……。
と言う所で、バチバチという音が聞こえてきた。
「リーサ! ルーフェ!」
そこには……チドリさんが駆けつけてくる光景だった。
「フモ―――!」
チドリさん、お願い! 二人の戦いを止めて。
そんな願いを届けたいという想いと……魔法使いとして授業で学んだ事から、この状況を分析するとサレルが殺されてしまう可能性に戦慄する。
だって、私はサレルに誘拐されたと思われていて、ルーフェが血塗れ……そんな所にチドリさんが来た。
チドリさん! ダメ!
◆
「チッ! 人攫いの到着か。時間を掛け過ぎた」
リーサを誘拐したと言われる人物がそう呟く。
「……今すぐリーサを返すんだ」
自分でも驚くほどに冷静な口調で俺はリーサを誘拐した人物を睨みつける。
「ルル……チドリ」
ルーフェが全身血塗れだけど戦意は失っていないという目で声を掛けてくる。
「ルーフェ、大丈夫か?」
「ルル、まだ戦える」
「もう大丈夫だ。無茶をするなよ」
俺の気を使った言葉にルーフェは頭をぶんぶんと振って否定する。
「やだ。リーサを守る為に無茶する」
まったく……事態が事態だから言いたい事はわからなくもないが、自身の状況を見ろと言いたい。
その血塗れな姿……お前の血だろ?
体力だって限界に近いはずだ。
いくら改造されてタフだからって限度があるだろうに。
それでも一歩も引かず、リーサを守りたいという意思は理解した。
だからルーフェの意思は俺が引き継ぐ。




