隠れ熱血
それから三週間……特に何事も無く平和な日常が進んで行った。
もちろん依頼などもリーサとルーフェを連れて行ったのは言うまでも無い。
ある程度ガス抜きも兼ねてね。リーサも新しく覚えた魔法を試し打ちするのが楽しいのか、戦う度にいろんな属性の魔法を放っていた。
やはりというか水属性の魔法が一番馴染むらしく、本気で行く場合は氷の魔法を使っている。
ルーフェに関しては俺と一緒に行く以外だと冒険者仲間に誘われて狩りに出かけるなんて事もあった。
あ、俺がやった依頼は前回と似たように魔物を倒して搬入する依頼だ。
今回はイノシシ退治だった。
中ボスっぽい魔物は出てきていないな。
「リーサ~ルルー」
「……わかった」
んで、目的地に着いて早速、倒すべき獲物を獲った後、一泊して帰るのだけど退屈だからとルーフェがリーサと一緒になんか遊びを始めた。
リーサが放った魔法をルーフェが斧で弾き飛ばすと言う奇妙な遊びだ。
「ルル」
ルーフェが……なんだろう、野球の選手みたいに斧を構えてリーサが魔法を放つのを待っている。
リクエストに応えてリーサが魔法の詠唱をして魔法を放つ。それはなんていうか野球の投手のように俺には見えた。
炎の球を作り出し、奇妙な軌道を描いて飛んでいくその姿は日本で見た漫画の魔球のようだ。
「ルルー!」
スコーンとその魔球をルーフェが空高くに弾いて飛ばす。
「ルルーやったー!」
ルーフェがリーサの周りを走るその姿は……うん。
この世界では野球がメジャーな遊びなんだろうか?
「リーサ! もう一回! もっと! ルーフェが跳ね返せないように練習!」
「うん」
なんて感じにリーサとルーフェが楽しく遊んでいる。
俺は何をしているか?
リーサに変わるまでルーフェの遊び相手をしていたと言うのが正解だ。
なので休憩中だ。
出発前にルーフェにまたゲージが溜まった魔石を食べさせたのが失敗だった。
前に入手したパンチングカンガルーの魔石をサンダーソードに嵌めてゲージを貯めたのを食べさせた所、輪を掛けて元気になってしまってね……。
電気マッサージでステータスを確認した所、魔石の四角の項目事態に大きな変化は無かった。
ただ、自由項目の魔石の部分に追加されていた。
あったら全部の項目を埋め直すと言う面倒な事をしなくちゃいけなかったから助かったとも言える。
けど、魔石の相性が良かったのかルーフェがより元気になってしまった。
動体視力が良くなったのか、集中するとよく見えるって言っていたっけ。
パンチング系の魔物の動体視力でも継承してしまったのだろうか?
技能的には視力が1上がっていた。
ドーピングも出来るって便利だなぁ。
俺やリーサにも出来ないのだろうか?
……まあ、技能の割り振りが出来るのだから贅沢は言わない方が良いな。
これも全てサンダーソードのお陰なんだし。
平和な日々が過ぎているなぁと思っていた。
翌日、依頼達成をした後、教官に出会うまでは。
「お? そこに居るのは……」
「あ、教官じゃないですか」
依頼を達成して報酬を受け取っていると教官が俺に声を掛けてきた。
その隣に居るのは……ブッククラスの、的を破壊した生徒を笑った生徒だ。
凄く不満そうな表情で教官に連れられている感じだけど、揉め事かな?
ほら、前に飲んだ時、教官がブッククラスの不満も漏らしていたから、それ繋がりとかさ。
「今回も無難な依頼を達成か……あいつにも見習ってほしかったな」
「何かあったんですか?」
「あったと言えばあったな」
「はぁ……」
どうも教官が何かに嘆いているように感じる。
愚痴と言うか何と言うか……これは聞いておくべきなのだろうか?
「ちょっと前に愚かな依頼を受けて旅立った奴がいてな……こいつが後を追うなんてバカな事を言いやがるから、まだ聞く耳に説教をしてやっていた所だ」
「まだ聞く耳……ですか?」
「お前もわかってるから俺の制止に止まったんだろ?」
「……」
失敗を笑った生徒が不満そうに視線を逸らしつつ、肯定だとばかりに黙りこんでいた。
ブッククラスだけあって説教の意図は理解しているみたいだ。
「ったく、冷血な奴かと思ったら、とんだ隠れ熱血だったとはな……お前みたいな奴は嫌いじゃないが、その青さはスタッフ顔負けだぞ」
「あの……本当、何があったんですか?」
「ああ、悪いな。簡潔に言うとだな……あの調子に乗っていたスタッフのガキがいただろ?」
「ええ」
俺の想像が間違いないなら的を破壊し、ルーフェに問答無用で襲い掛かって返り討ちに遭った彼の事を言っているのだろう。
この笑った生徒はよく彼を小馬鹿にしていたし、繋がりも想像出来る。
というか、何故か知らないがセットで居るイメージがあるんだよな。
「学内での評価が気に食わないからか、実力を持って評価を得ようと無謀な依頼を受けてな。俺の制止を無視して出て行きやがったんだ。出発前にコイツと随分と言い争いをしたみたいなんだが……今度はこいつが後を追いかけるとか言い出しやがってよ。止めていた所だ」
「無謀な依頼……」
教官の視線の先にあるのはブレイスリザードの依頼だ。
おいおい、いくら成績優秀で強力な魔法が使えるとはいえ、まだ新入生だろ?
入学して大して時間も経っていないのに、そんな凶悪な依頼を受けたって言うのか?
「学園の方針で止めるとかは……」
「しても勝手に飛び出す奴がいるだろ。生きて帰ってこないのもいるから、一々相手なんてしない。そもそもここは魔術学園だからな。魔法使いは自分の実力は自分で把握しろ、みたいな風潮があるだろう」
そういえばそうだったっけ。
何だかんだ無慈悲というかドライと言えば良いのか……。
冒険者が依頼を受けて帰ってこないなんて話、どこの世界でも同じだけどさ。
依頼を受けても居ないのに飛び出して後の処理を~なんて事も……まあ、俺もやらかした奴を見聞きした事はある。
「ったく、この手の奴ってのは数年に一度居るらしいが本気で呆れる。大体が入学前に師事をしていた師匠の教えが通じないからってやらかしやがるんだと。学園を何だと思ってんだろうな」
あー……シュタイナー氏が言っていたっけ。
成績が良くなかった生徒が卒業後に才能がある者を育てて学園に入学させるって話。
考えてみれば魔法の威力を見た授業の後からも学園の警備をしていたけど、騒ぎらしい騒ぎを聞いていない。
リーサから何か……って別クラスだから詳しくは知らないか。
学内の噂程度なら耳にしたかもしれないけど、関係が遠いもんな。
俺も学園の生徒がどこかで依頼を受けて帰ってこない話を聞いていたので詮索はしないし。
「気に入らなかった……才能があるのに無知をひけらかして、ちょっと調べればわかる様な事を調べもしない、アイツが。何より、あんな自尊心の塊になるまでその程度の事も教えられなかった周囲の無能な大人も……」
苛立つ様に彼は言った。
まあ確かにスタッフクラスの彼は才能はあったよな。
実際、魔力は相当高かった訳だし。
しかし、その才能を上手に使う方法を彼の師匠とやらは教えなかった。
それが魔法使いとして許せなかったんだろう。
「愚かだと思ってた。けど……死んで欲しいと思っていた訳じゃないんだ」
嘆くようにそう呟いた。
「まあ、俺もそこは否定しないがな」
「えっと……まだ死ぬと決まった訳じゃないんじゃ?」
「もう随分と経ってる。討伐されたって噂も無い。帰っても来ない」
「あー……となると間違いないでしょうね」
これで逃げ帰って来たならまだマシだ。
正直、冒険者をしていたら何より大事なのは命だってのは身に染みてわかる。
恥でもなんでも命あっての物種だ。リーサにも前に言った。
俺だって勝てないと判断して逃げ帰った事がある。
何よりサンダーソードを購入して浮かれ上がって死んだ俺だからこそ……ね。




