魔法防御
「この前、魔法を教えたばかりとは思えんくらいじゃなぁ……」
シュタイナー氏が感心するように言う。
リーサの才覚は確かに高いのは俺だってわかっている。
電気マッサージで確認済みだしね。
「教えたら教えた以上の事をしっかりと学んでくれる……教育者としては楽しい反面、怖くもあるのう。下手に癖のない分、問題のある生徒よりも怖いわい」
そういや昔、俺にラルガー流を教えてくれた師範代が言ってたっけ。
教育者って言うのは劣等生か優等生のどちらを好んで育てるかで器が測れると。
師範代曰く、優等生にばかり熱心な教育をする奴って言うのは二流だとか。
教育者としての腕の見せ所と言うのは、劣等生や癖の強い生徒をしっかりと育てる所なんだと。
優等生は別にしっかり育てなくても元が有能であるから、相当下手な教えをしない限りは伸びていくらしいのだが、劣等生はそうはいかない。
……異世界から来た同じ日本人に比べて凡庸だった俺が、見捨てられないかと不安に思って教えてくれた事なのかもしれないけどさ。
それでも教えるというのはこういう事なんじゃないかと俺は心に刻んでいる。
「シュタイナー氏はどちらかと言うと癖のある生徒の方が好きですか?」
俺の問いにシュタイナー氏はキョトンとした表情をした後、楽しげに笑い始める。
「ほっほっほ、やりがいという意味ではそうじゃな。才能がありすぎると言うのは、その道の先を行く者として恐ろしいものじゃ。その才能を導けるだけの才能をこちらにも要求されるのでな」
この辺りの認識はどこの世界でも同じなんだなぁ。
日本だと教えなくても伸びる生徒の方が好まれたって聞くけどさ……中学生までの経験からしても教師ってそんな感じだったし。
まあ教師も人間だから、しょうがない部分もあるけどさ。
「本当、魔法って凄いですね。新入生でもアレだけの魔法が使えるんですから」
俺は思った通りの事をシュタイナー氏に言う。
だが、返答を間違えたのかシュタイナー氏がキョトンとした表情を浮かべている。
「実戦でやったとしてもあの程度の魔法じゃ倒しきれん魔物の方が多いがのう」
「アレだけやってですか?」
「確かに魔法は極めれば強力じゃし、切り札にもなる。じゃが上位となると魔物も対抗する術を持っているのは当然の事じゃ」
まあ、確かに。
魔法が人間だけの力であればそうでもないんだろうけど、魔力は魔物にもあるんだから対策も存在するって事か。
例えば……とシュタイナー氏は続ける。
「スタッフクラスでも特に問題児としてマークされている生徒が放った魔法があったじゃろ? どう見てもチドリ殿の所に厄介になっているルーフェネット殿を模したターゲットにした彼じゃ」
「あ、はい」
「仮にルーフェネット殿にあの魔法を当てたとしても……ワシの見立てでは倒す事は叶わんじゃろうな」
「え? でも凄く強力でしたよね?」
「チドリ殿は魔法使いと共に戦う事は稀じゃったようじゃな」
俺の返答に確信したのか、シュタイナー氏は何度も頷いてから答えてくれた。
「無い訳ではないですが、魔法使いが居る様なしっかりしたパーティーに所属した経験は少ないですね」
ほら、前の異世界では二軍だったしね。
どうしても希少な魔法使いは強いパーティーに所属する事になる。
「チドリ殿にわかりやすく言うのならば……幾ら模擬戦で綺麗な立ち筋を見せたとしてもそれが実戦で役に立つかの? 相手も避けたり逸らしたりするじゃろ?」
「あ、そうですね」
剣で切ると言うのは思ったよりもコツがいる。
俺も最初剣を使って実戦をした際に嫌って程それは実感した。
最近はサンダーソードを振り被っているだけだけどさ。
切りつけるとしても骨に剣が当たらない様に、切れる場所をしっかりと見据え、構えを取って切りつける。
魔物の場合、こっちの刃物の切れ味なんかも視野に入れないと跳ね返される事だってあるからな。
「話によるとルーフェネット殿は魔法を斧で打ち返したと聞いておる。そこは除外したとしてもじゃ……相手の魔法防御を考えねばいかんじゃろう。泥人形とは訳が違う」
「つまり、見た目は派手ですが、あの魔法ではルーフェを仕留めるには叶わない……と」
日本に居た頃のゲーム経験を元に考えると、エフェクトは派手だけど威力が足りないって事で良いのか。
あるいはルーフェの魔法防御……というよりは受け流しが上手いって所だな。
「ワシの唱えた魔法であってもルーフェネット殿に致命傷を与えるのは難しいじゃろうな。それほどまでにルーフェネット殿が普通のドラゴンウォーリアーとは異なる強さを持っていると判断しておる」
ふむ……魔法というのは強力だと思える半面、思ったより期待して良い物でもないって事なのかな?
魔法が使えない俺からすると、とても強力な切り札に見えるんだけどなぁ。
普通のドラゴンウォーリアーがどの程度の強さなのか判断が出来ない所なんだけど。
「相手の魔法防御を考えろって事ですか?」
「そうじゃ。下手な物理装甲よりも魔法は影響を受けやすい。前にチドリ殿がワシにマッサージを施した際に言ったじゃろ?」
あ、そういえば言っていた。
ワシは魔法防御は高いって。
そんな意味のある言葉だったとは思いもしなかった。
「それでチドリ殿、学園の者達がチドリ殿に興味を持っておってな。一回だけで良いので先ほどの授業でやった物をやってみてくれんか?」
ああ、だから俺に授業を見せてくれた訳ね。
俺もサンダーソードの攻撃がどの程度の物なのか興味はあった。
出来る事と出来ない事の区別は元より、自身の強さ、サンダーソードの強さを測らないと何かあった際に失敗をしたりしかねない。
……俺がその報いを受けるだけならまだ良いんだ。
リーサやみんなに被害を受けさせてしまうのが怖い。
調べておいた方が良いのは事実だ。
「良いですよ」
俺の了承を得た事で機材の調整をしていた……入学試験の時に俺に目を輝かせていた職員がまた目を光らせた。
実験台って事なのかもしれない。
「では魔法陣に入って泥人形のターゲットを出現させ、その剣で雷を出してくれんかの」
「はいはい」
俺は言われるままに魔法陣の中に入り、泥人形がグネグネと動いて形を作っていく。
生徒達がやっていた時は色々な姿になったけど、俺の場合はどんな姿に……。
「……」
「なんじゃ? 翼を生やした悪魔……かの? 随分と異形の風貌をしておるが、こんな者が……」
「シュタイナー氏、早く攻撃をしても良いですか?」
俺は俺自身も驚く程低い声音でシュタイナー氏に攻撃をして良いか尋ねる。
正直、僅かでも見ていたくないというのが本音だ。
サンダーソードを奪った者達の姿を俺は覚えていない。
だからそれが無意識の敵として姿を変えた訳じゃないのは俺自身も分かっている。
でも、あの姿は俺にとってあまり良い気分になるものではない。
……おそらくこの泥人形の装置は試験者がぼんやりと思い浮かべる敵の姿を模倣する……シェイプシフターの性質を持っているんだろう。
だからあんな姿になった。
俺がどうにかしたい、倒したい、という心の中で燻った相手を形作ったのだろう。
確かに、あんな感じで倒したい相手が出てきたら本気の一撃を与えたくなる。
魔術学院というのもよく考えているな。
「う、うむ。まずは雷を落として攻撃してくれんか」
「ええ」
俺はサンダーソードを引き抜いて軽く素振りする。
それだけで落雷が俺の意識した泥人形目掛けて降り注ぐ。
バキンバキンと結界の上空から雷が降り注いで装置が生成させる結界を破壊し続ける。 何回音がしたか瞬間過ぎて俺もよくわからなかったが……バチバチっと周囲の装置から煙が出始めて命中前に泥人形の形が崩れた。
やば……俺は咄嗟にサンダーソードに意識を向けて落雷を弱らせる。
パチッとサンダーソードの雷が霧散した。
「ふむ、機材が限界を迎える程かのう……」
「す、すみません」
「いやいや、気にせんで良いわい。これくらい出来なかったらデスペインの群れを壊滅させたなど、納得できるものではないからのう」
シュタイナー氏や他の職員たちは気にしないで良いと微笑んでくれるが……非常に申し訳ない。
形成された泥人形から加減が上手く出来なかった。
「何にしてもチドリ殿、実験に協力してくれて礼を言うぞい」
「いえ、お気遣いなく。シュタイナー氏にはお世話になっていますから」
「ほっほっほ。では今回の実験と授業は本当にここまでじゃな」
と言う訳でシュタイナー氏が見せてくれた魔法の実技の授業の一回目は終わったのだった。
リーサのこれからの成長が楽しみだね。
それとサンダーソードの力強さを教えてもらえたのは収穫だった。




