見学
「もう悪い所がない様な人には効果が薄いですよ? それでも良いんですよね?」
「うむ」
しょうがない。
少なくとも朝から一人五分圏内で終わらせているのに昼過ぎ位になっているぞ。
俺はシュタイナー氏に寝台に寝るように指示をして電気マッサージを施す。
「あはああああああ……おおおお。キクウウううう。これじゃ、これじゃあああああああ」
……もうツッコミを入れるのも疲れた。流そう。
前回見た時と全く変わりがないステータスと技能が表示されている。
シュタイナー氏の技能が相変わらず見辛いのは、やはり魔法防御の高さとやらが関わっているのだろうか?
まあいいや。
手短に終わらせる。
「はい。おしまいです。どうですか?」
「おおう……もう少しやってほしいのじゃがのう」
もしかしてこの人の肩凝りは揉みすぎから来たのではないだろうか。
揉まれた時の気持ち良さを味わう為に……とかから常習的になり酷くなった、みたいな。
その疑惑が浮かんでくる。
「凝りは既に取れているはずですし、しばらくは血の巡りが良くなっているはずですよ」
「そうなんじゃがのう……まあ良いわい」
シュタイナー氏はマッサージが終わり、家を出るとルーフェの持つ箱にお金を入れる。
「ルル~ありがとうございました~」
「さて、では列の終わりまで待っているとするかのう」
「ルル~」
……とにかく、俺は迅速に次の客に電気マッサージを施して行った。
確かにシュタイナー氏の言う通り、すぐに列は途切れた。
どうやら来た客の全てを処理できたようだ。
俺は診察を終えて寝台にもたれ掛かる。
疲れた……いろんな意味で。
すまんサンダーソード。
お前をこんな事に使って。
俺は心の中でごめんねサンダーソードを歌う。
「チドリ! 凄いジャラジャラ! 見て!」
ジャラジャラとルーフェが箱をマラカスのように鳴らしてくれる。
「この治療費は誰が決めたのかのう?」
「ルル? みんなに聞いて決めた。高くなく低くない金額だって言ってた」
「ふむ……確かにこの手のマッサージを生業にする者に頼む金額じゃな。じゃがチドリ殿の腕前と早さならこの三倍でもいいはずじゃ」
「そうなの?」
「いえ……さすがに、そこまでお金には困ってないので」
なんて言いながらルーフェが見せる木箱に視線が向かう。
……銀貨ばかりあるような気がする。
少なくともこの前やったギルドでの仕事よりも見入りが良い。
なんか悲しくなってきた。
「こりゃあ同業者に恨まれかねんのう。十分注意するのじゃぞ」
それは金目当てに野蛮な冒険者に目を付けられるって意味ですか?
それともマッサージを本業にしている人にって事でしょうかね。
後者である可能性が非常に高いけど確認はしないようにしよう。
「さて……」
この後は何をするかな。
ギルドの方に行って良さそうな依頼を探すのも良いか。
なんて考えているとシュタイナー氏が言った。
「チドリ殿、今日の実技を見に来る気は無いかの?」
今日は警備の仕事は休んでいた。
まあ、だから家にいるんだが。
結果的に休日にはなっていないけどな。
「実技なんですか?」
「うむ。今日は新入生のブックとスタッフの合同実技授業じゃ。ワシがこれからする事になる」
うーむ……魔法使いの実技の授業か。
シュタイナー氏が俺の所に来たのはこれが理由かな?
まあ興味はあるし、見学させてもらうか。
「わかりました。良いですよ」
「ルルー」
「ルーフェはどうする?」
この前の事もあってルーフェを容易く学園に連れていくのは避けたいのが本音だ。
「ルル、お客さん来た後のお掃除したいからチドリ、いってらっしゃい」
どうやらルーフェは来客の所為で若干汚れた工房内や庭の掃除をやりたい様だ。
掃除の練習に夢中って事かな。
冒険者とかご近所さんもルーフェと世間話をしたいって感じで近くに居るし……好きにさせるのが良さそうだ。
理解のある人々との時間は大事だもんな。特にルーフェみたいな他とは異なる者からするとさ。
「わかった。じゃあシュタイナー氏、見学をさせて貰ってよろしいですか?」
「うむ。では行こうかの」
そんな訳で俺はシュタイナー氏と一緒に魔術学園へと向かった。
「お?」
魔術学園の方に行くと校庭に大きな魔法陣と何やら機材が設置されている。
魔法陣からは結界らしき透明な膜が展開されている。
見た感じだと……魔法でシェルターみたいな物を形成する装置だろうか?
それで校庭には授業が始まるのを今か今かと言った様子で生徒たちが集まっているようだ。
シュタイナー氏がそんな生徒達の方に小走りで近寄っていく。
俺は何かあった際に即座に対処できるよう……係員がいるようなので、その辺りの人達と一緒に待機している。
生徒達を見ると……あ、リーサ発見。
考え事をしているのか、ぼんやりしている。
もちろん他人から見たら無表情だ。
クラスメイトに魔法の深遠について考えていると言われてもおかしくない表情である。
「オホン。では魔法実技の授業をしようかの」
シュタイナー氏が生徒達にそう切り出して授業が始まった。
「本日の魔法実技は……みんなが楽しみにしておった攻撃的な魔法じゃな。であると同時に皆がどの程度の魔法が使えるのかを見るのが良いじゃろう。同学年の者達がどれだけの魔法を使えるのかを知るいい機会じゃ」
シュタイナー氏は前置きを語った後、校庭にある結界を指差す。
その結界……魔法陣の中心には泥が置かれている。
機材の近くにも沢山あるけど……なんだろう?
「今回は学園の訓練所に用意されているターゲットと、どんなに強力な魔法を放っても外には危害を加えない結界を用意しておる。この結界は、内部に居る者の魔力を抑える性質があるが、気にせんで良い。みんな、自身が使える一番強力な魔法を使ってくれて結構じゃ」
おお……わくわくする授業だ。
実力を見せつける時って感じだろうか。
一番強力な魔法というのがどんな物か気になるし、良い授業を見学出来そうだ。
「もちろん強力な魔法を使えないと思っている者でも物怖じせずに使うのじゃ。ダメだったとしても何も恥ずかしい事はない。まずは己を知る事が何よりも重要なのじゃからな」
そう言いながらシュタイナー氏は結界の中に入る。
「まずはターゲットである泥人形の姿を思い浮かべる。装置の中じゃから、こっちの思考に合わせてターゲットが姿を形作ってくれるぞ」
どろっと泥が形を変えて人形になった。
ああ、ターゲットマネキンって事なのかな?
シュタイナー氏はわかりやすいように炎の矢を魔法で形成して、泥で出来た人形に向かって放って見せる。
で、放たれた炎の矢は泥人形に命中、炎上した。
ピピっと結界の壁に何やら数字っぽい物が表示されている。
えっと……60かな? たぶん。
「このように放った魔法の単純な力をこの装置は測定してくれるのじゃ。やり方はわかったかの? 何分希少な物じゃからそうポンポン使える物ではないが、こういう時こそ実力を試すのが良いじゃろう。では始めるぞい」
なんか凄く楽しそうな授業だなぁ。
そう思いながら生徒達が順番に結界の中に入って泥をターゲットに変えて魔法を放っていく。
なんていうか、改めて魔法って凄いなと思える瞬間だ。
俺もサンダーソードに出会わなかったら魔法使いを目指したかもしれない。
炎の魔法、風の魔法、水の魔法、土の魔法、光の魔法とか各々生徒達が得意としている魔法を放っている。
剣士として相対した場合はどのように動けば良いのかと、冒険者としての思考が頭を過る。
あの魔法は潜って避ければ良さそうとか、弾けそうとか色々とね。
……職業病かな。
ただ、一番強力な魔法って前提で好きに魔法を放っているからか、随分と時間を掛けて魔法を放っている。
実戦だったら危ないな、と考えるのは授業内容的に余計なお世話か。
リーサは凄く短く唱えるし、相手の動きを封じたりして戦いやすいようにしてくれているけど、長時間の詠唱をしたらどんな魔法が出るのかな?
で……生徒達の放つ魔法で表示されるのは言うまでも無く、高い。
エリートクラスの高威力魔法だから当然か。
シュタイナー氏が手本で撃った魔法の60って数字なんてへでもないとばかりに120とか300とか出ている。




