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凄腕マッサージ師

 そうして家に帰る。

 数日ぶりのマイホームだ。


「ルル、チドリおかえりー」

「ただいま」


 ルーフェが庭で俺を出迎えてくれる。

 どうやら庭でバーベキューでもしていたのか、まだ後が残っている。


「チドリ! あの後、子供達とリーサと集まって庭でお食事会した! お肉焼いた! みんな喜んでた!」

「それはよかった」

「ルルー!」


 残して腐らせるよりは遥かに良い。


「子供達、お礼に薬草をリーサに渡してた! 後でリーサから聞く!」

「ああ、リーサは?」

「部屋でお休み? あ、リーサ起きてる」


 ヒョイッとルーフェが窓を確認する。

 ルーフェが覗いている事に気付いたリーサがランタンのようにナイトグロウのハーバリウムを持って窓を開け、俺の方に顔を出す。


「おかえりなさい、チドリさん」

「ただいま。リーサも疲れているだろうから寝ててもよかったんだよ?」

「……」


 俺が帰ってくるのを部屋で待っていたってのは容易く想像できる。

 これだからあんまり長く飲んではいられない。

 ここで泥酔して帰ってきたらダメ人間だ。


「ルルー」

「じゃあ今日は疲れたからもう寝ようか。リーサも明日に備えて休もう?」

「はい。その前に魔法の練習をしてから寝ます」


 おいおい。

 これから練習って……がんばりすぎじゃないか?


「無理はしなくて良いんだよ?」

「別に無理は……その、ごめんなさい」


 あ、言いすぎちゃったかな?

 リーサは利発な子だから言い過ぎも危ないんだ。


「真面目なのはリーサの良い所だけど、休まないと倒れちゃうからさ」

「このくらいは……昔、その……魔物狩りになるって言っていた友達程じゃないです」


 おや? リーサが昔の話をしている。

 村では悲惨な話が多かっただろうから触れないようにしていたんだけど……良いのかな?

 というか、例の村で友達が居たのか。


「魔物狩りなんて職業あるんだ?」


 専門職って奴かな?

 狩人とか戦士からの派生職だろうか?


「らしいです。村に……神様……マッドストリームオクトパスを倒しに来た人に師事を受けていた人で、友達になった……熱心に私に声を掛けてくれた優しい人です」

「えっと……」


 マッドストリームオクトパスってリーサが生贄として差し出されるまでは挑んだ冒険者が犠牲になっていたって話だったはず。

 その手の経緯を一応、リーサを含め教官から聞いている。


「大丈夫です。あの人の師匠さんは勝てないってすぐに引き返して来て、そのまま旅立って行きましたから」

「ああ、そうなんだ。それはよかった」

「はい。ただ、その友達になった人が、凄く真剣に絶対に強くなって帰ってくるって言ってたのを思い出して……その……」


 なるほど、正義感の強い子だったんだろうな。

 で、努力家でもあったと。


「その人の真似をしてがんばろうと?」

「……」


 リーサが頷く。

 身近にがんばっている人がいると影響を受けやすいとシュタイナー氏も言っていた。

 ここもリーサの良い所で悪い所なのかなぁ。


 それにしてもリーサを救おうとしてくれた友達か。

 今はどうしているのだろうか?

 リーサが暗い表情をしていないので死んではいないだろう。


「どこかで再会できると良いね。ただ、今日はもう休んでほしいな。色々と疲れているはずだから」

「ルルー」


 ……凄く元気な竜戦士は見ない方向で行こう。

 魔石ってすごい栄養剤みたいな感じなんだろうし。


「はい……わかりました。おやすみなさい」

「おやすみ、リーサ。ルーフェも」

「ルルー、おやすみなさーい」


 と言う訳で俺は家の中に入り、そのまま就寝したのだった。

 しかし、ちょっと良い話を聞いたな。

 例の村の評判は酷いものだが、昔のリーサが孤独ばかりじゃなかったと思うと幾らか救われた気分になった。





 あれから一週間。


「ルル~次の人~」


 何故かルーフェが俺達の家の前で受付嬢のように来客の案内をしていて、室内への誘導を行っている。

 ふざけて頭にウサギの耳を象った玩具……ヘアバンドを付けている始末だ。


 誰があんなのを乗せたのかの犯人はわかっている。

 ルーフェを俺に紹介した冒険者だ。

 何だかんだ付き合いがあるみたいで偶に遊びに来る。

 で、俺が何をしているのかと言うと……。


「で、ではよろしくたのむのう……」


 ガクガクと杖でやっとの事やってきた老人が声を絞り出すようにして家の工房に入って来た。


「あ……はい。わかりましたから、用意した台に乗ってうつ伏せになってください。声が漏れないように布、もしくは縄などを深く噛んでくださいね」


 老人は俺の指示通りに工房に用意した寝台にうつ伏せに寝そべって診療を待つ。

 ここまで弱っている方だと不満に思う心も吹き飛んでしまうと言うもので……。

 俺はサンダーソードを老人の背に合わせて電気マッサージを開始する。


 どうしてこうなったのかと言うと、前にその場で出まかせと言うか、近所の主婦に電気マッサージをした事があった。

 そこから口コミで人が集まってしまい、止む無く相手をする事になってしまった。

 ルーフェと親しい冒険者が案内をしてきたとか、シュタイナー氏から続く噂とか色々とあって、こっち方面でも有名になってしまっているらしい。


「あおおおおおお……き、きくううううううううう」


 ……パチパチと電気を流すと老人がしっかりと注意したと言うのに良い声を出し始め、外で順番待ちをしている人達の歓声が聞こえてくる。


 ……意識を集中しよう。

 老人の体内にある魔石に干渉しステータスが出てくる。

 確認……腰痛のマイナス技能が想像通り高い。

 他に関節痛まで併発している。


 ポイントは……うん、振れる分は十分あるな。

 あんまりリピーターとして来られるのは困るから一気に振ってしまおう。

 症状も重たいしね。


 ササっと要点の部分だけ割り振って迅速に終わらせる。

 賞味三分くらいだったかな。


「うっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 うるさい老人だ。

 事前の注意なんて間違いなく聞いていない。


「はい。終了ですよ」

「おおう……」


 電気マッサージを終えるとクタッと老人が上げていた頭をベッドに寝かす。


「……」


 動かない? やはり老人には厳しいか?

 今日だけで何人もの老人を治療しているから大丈夫だと思ったが、身体への負担が大きくて事切れてしまったのだろうか?


「お?」


 ガバッと老人は起き上がってベッドから出て立ち上がる。


「これは凄い!」


 スタッと震えが収まり、目に見えてシャキッとした形で歩き始める老人が俺の方に振り返り強引に手を握り締めて笑いかけてくる。


「ありがとう! 長年の腰痛は元より、足腰の痛みまで飛ぶとは! こりゃあ凄い! さすがは有名なマッサージ師じゃ。こんなにも早く治してくれるとは!」

「ど、どういたしまして」


 老人は感謝の言葉をしてから家の外へと軽快な歩調で歩いていく。


「ルル~ン。ありがとうございました~」


 チャリンとルーフェが持っている木の箱に治療費が入れられる。


「ルル」


 ジャラジャラとルーフェが箱を振って随分と金銭が集まったのを俺に暗に伝えてくれる。

 ……今日だけで随分と稼いでいる気がする。

 というか列が途切れない。

 いい加減終わらせたいんだけど。


「次の人~」

「ワシじゃ!」


 そこに現れたのはシュタイナー氏だった。

 思わず脱力してしまうが、雑談している客の方はシュタイナー氏の方を見て距離を取っている。


「シュタイナー氏……貴方は必要ないと思いますが? もう肩凝りは随分と軽減していると思いますよ」

「うむ。あれから驚くほどに肩凝りは無いのう。ただ単に電気マッサージをしてもらいに来ただけじゃ」

「はあ……」


 全く意味のない診察をしてどうすると言うのか。

 まあ、僅かな肩凝りが一時的に電気で飛んで軽く感じるかもしれないけど、根本的な所は解消済みだ。


「ちなみにもう少しで列も終わるぞ。随分と儲けておるな」

「ああ、それは何よりです。と言うかシュタイナー氏、学園の授業は?」

「この後あるがチドリ殿のマッサージを受けてからでも間に合うのじゃ」


 なんでしょうね。

 シュタイナー氏が俺をマッサージ師として抱え込んでいる疑惑に確証が出来てしまった気がしてならない。

 まあ昨日、信頼できる職人を手配してくれて打ち合わせをした結果、俺の革鎧の制作が決定したけどさ。

 尚、鱗の方はもう少し人を選定すべきだって事になった。


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