酒盛り
さて、ちょっと気になる事を尋ねるか。
「教官達の方はどうなんです? リーサはお休みしましたけど、学園の方では何かありました?」
すると教官が若干渋い顔をしてから愚痴りだした。
「スタッフクラスの一部がな……戦士ギルドに紹介した方が良いんじゃないかって位、血の気が多い魔法使いが多くて困る。強力な魔法を使えるってのが無駄にプライドを肥大させていて面倒極まりない」
どうやらスタッフクラスが何かやらかしたらしい。
謹慎になったあの生徒も関わっているのだろうか?
警備をしている関係で教師の方と話をする機会があるんだが、スタッフクラスは良くも悪くも話題に挙がるんだよな。
何かあったらすぐに来て欲しい的なニュアンスだったので、スタッフクラスとブッククラスが授業をする時は近場にいる様にしている。
「ほっほっほ」
「笑って誤魔化さないでほしいんだがな……トーレル教師」
「魔法は力を誇示したり自慢する為にあるのではなく、誰かを守る為、誰かを救う為に使うものじゃよ」
「それで素直に納得したら苦労なんてしないでしょうが……」
「ほっほっほ」
色々と学園の方は大変だったみたいだなぁ。
しかし、シュタイナー氏の軽さが気になるな。
それとも慣れる程、恒例の事なんだろうか。
「逆にブックは頭でっかちが多い。まともに戦闘が出来る奴が少ないのは問題だな。あの程度の運動でバテた挙句、文句だけは人一倍だった。しかも俺を戦士と下に見てる感じがしたぞ」
魔術学園故に教師にも悩みが多いんだなぁ。
用務員兼警備員でよかった。
まあ、そもそも俺に何を教えろというのかすら謎だが。
「卒なく教えられるロッドが楽でしょうがない。力不足を別の所で補おうと真面目に話を聞くからな」
「これこそが教育の醍醐味じゃよ。天才に教えるのは楽しいものじゃが、教師としての実力は才無き者に教える時が本物と言えるじゃろう。戦士ギルドや訓練所でも変わらんじゃろ?」
シュタイナー氏の言葉に教官が少しばかり眉を寄せてから頷く。
「まあな……どこも変わらないもんだ」
世知辛い話を聞かされている気がしてきた。
俺も前の異世界じゃ優等生とは程遠い所に居たから耳が痛い。
ラルガー流を使う者の中では俺なんて下から数えた方が早いし、上が無数にいた。
第五の型までしかできない俺なんて凡庸も良い所だ。
その先に関してはやり方はわかるんだけど、体が付いていかない。
というか具現化しないって言うのが正しいかもしれないな。
例えば第三の型・流星を放つ場合、未熟者が放つと鎌鼬が出るだけだったりする。
鎌鼬すら使えないなら話にならない。
もっと修練が必要になる。
……ある意味、前の異世界での剣技も魔法みたいな物だよな。
「リーサ殿の調子はどうだったかの?」
「入学前に猛勉強したお陰か、氷の魔法を上手に使ってくれましたよ。肉の運搬で助かりました」
「うむ。リーサ殿は並々ならぬ才覚を持っておるし、慎みも持っておる。教えれば教えた分だけ伸びる良い生徒じゃよ」
「体力も思ったよりあるしな。あの容姿だし、すぐにバテるかと思っていたぞ」
まだ入学して日が浅いけれどリーサはどうやら高評価である様だ。
リーサには電気マッサージを施しているし、その影響で体力が付いているのかな?
「あ、そういえばシュタイナー氏。レナさんの方はどうですか? 確か昇格試験があるんでしたよね?」
俺の質問にシュタイナー氏は酒をグビッと飲んでから満面の笑みを浮かべる。
「今季のレナは努力が実を結んでのう……魔法の腕前が目に見えて上がり、晴れてブッククラス入りをしたわい」
「おお……それは何より」
「チドリ殿、いつでもレナを迎えに来て良いんじゃぞ? ワシが後見人になるぞい」
「……何を言っているんですか?」
もう酔ってしまったのか?
だが、この言い回し、まるでレナさんを俺の嫁にして良いと言っているように聞こえる。
しかも肩を回してマッサージ師として俺をレナさんとくっつけさせようとしているのではないかと勘繰らせて来る。
これはシュタイナー氏なりの冗談なんだろうか?
かなりブラックな冗談に聞こえるぞ。
「レナさんにだって選ぶ権利くらいありますよ。いつ死ぬかわからない冒険者に嫁がせるもんじゃないですって」
「そうかのー」
全く、シュタイナー氏の冗談に巻き込まれてレナさんが可愛そうだ。
冒険者への理解が深いのはシュタイナー氏の長所だけど、レナさんの意思を無視するのは頂けない。
「レナもチドリ殿ならまんざらでもないと思うのじゃがのー」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
「かわされてしもうたわい。レナの押しに期待じゃな」
そんな押しを期待されてもこっちが困る。
「ああ、そのレナさんですが、薬草のオイル漬けを教えてくれたお礼を言っておいてください」
「お? 何か作ったのかのう?」
「ええ、ナイトグロウをオイル漬けにしましてね。夜間、魔石を入れたお陰か光って灯り代わりになって良いんですよ」
「ふむ……確かにアレはそんな使い方が無い訳ではないがの……」
「勿体ない使い方をしてないか? かなり高価な薬草だぞ」
「孤児院で頂いた物を大事に取っておきたいから作ったんですよ」
「ほー……そういえば学園にいるな。孤児院所属の魔法使いが。他に街の警備でアルフレッドとかもそうだったか。確かトーレル教師が出資している孤児院だったな」
あ、そういえばレナさんが通って畑の世話をしてくれているだもんな。
出資も一部噛んでいるのか。
「やっぱ才能がある孤児を入れてるのか?」
「選別はしておらんよ。じゃが、上向きの孤児院では自然と切磋琢磨して有能な者を輩出するもんじゃ」
そういえば地球に居た頃なんだが、スポーツ選手は弟や妹である事が多いと聞いた事がある。
子供の頃に兄や姉が同様のスポーツをしていて、早い段階で高い教育を受けられるかららしい。
なので孤児院という性質上、兄弟姉妹として育つだろうし、それに近い影響を受けるのかもしれない。
しかし、放任主義で成功するとか羨ましい気もするなぁ。
前の異世界で孤児って言うと……とある街での事が思い出される。
俺が金を出しても根本的な解決にならないけど、腹いっぱい食べさせてあげたっけ。
その代わりにって情報を教えてくれて、それが事件の解決に一役買ったのを覚えている。
まあ解決させたのは俺じゃないけどさ。
俺も情報提供が限界だったし……報酬の一部をもらえたし。
「元気すぎる所のある子供達ですもんね。魔法が使えない子とかも戦士や狩人として依頼をしているみたいですし」
現にデスアルジャーノンと戦った際も依頼を受けて出かけて行ったんだし。
「うむ。将来有望な者が多くて助かるわい。危険な依頼は先輩が止めたり保護者として同伴するから生存率も高いぞ」
「羨ましい話だ。無謀な冒険者が止めているのに身の丈に合わない依頼を持って行って、帰って来ない事が多い事多い事」
なんか教官、酒が回ってきて愚痴ばかり言ってないか?
色々と溜め込む人なのかもしれないなぁ。
「お前は無難な仕事しかしないよな」
なんて言いながら教官が俺に絡んできた。
間違いなく酔いが回り始めている。
「身の丈をわきまえているし、身入りの良い仕事をするのが冒険者でしょ。ロマンじゃ食っていけませんよ」
「嘘吐けー! マッドストリームオクトパスを仕留めた癖に」
「あはは」
「またそうやって笑って誤魔化しやがるな」
なんか面倒になってきたな。
よし、じゃあこの辺りで本当の事でも話しておくか。
「じゃあ真実を言いますが、異世界の神様が俺を遣わした衝撃でついでに仕留めたんですよ」
事実なんだから隠しようがない。
何か事情がなければ、そこまで危険な魔物を俺が進んで倒しに行ったとは思えないんだよな。
「良いから正体を現せってんだ。紫電の剣士様よー!」
「ほっほっほ。面白い冗談じゃのー」
く……信じてもらえない。
本当に善神エロッチに送られて着地した所にいた魔物だと言うのに……。




