魔石商人
「マッドストリームオクトパスは元より、未発見だったデスペインの総大将デスアルジャーノンハーメルンを倒したお前なら倒せるんじゃないか?」
「冗談を言わないでくださいよ」
タコに関しちゃエロッチの奇跡だったし、デスアルジャーノンハーメルンはデスペイン自体が脅威なだけで本体はそんなに強くもなかった。
けれど、このブレイスリザードは多分一匹で強いタイプの魔物だろう。
騎士団を壊滅させた魔物を俺が単身で挑んで勝てるかなんてわからない。
サンダーソードが力を貸してくれるのならあり得ない訳じゃないとは思うけれど、それも全てはサンダーソード次第だ。
誇らしく生きるのが俺の目的であって賞金目的に戦うのは何か間違っている。
ただそこを縄張りに生きているってだけの魔物なら手を出す意味もないしな。
「そうか? お前ならもしかしたらやってくれると思ったんだがな……」
「リーサがいるのでそんな危険な真似はできませんよ」
やっと生活が安定してきた所なんだ。
今はリーサの為に安定した生活と経験を積んでいきたい、というのが俺の正直な思いだ。
「確かにそうだな。世の中無茶をして良い時と悪い時の区別を付けなきゃいけない。お前は……どうなんだろうな」
「今の所、切羽詰まった状況でもないですし、無謀な突撃なんてするつもりはないですよ」
この前の戦いだってかなり無茶をしたんだ。
これ以上はコリゴリってのが本音だ。
勇気と蛮勇の区別くらいは付けられる。
サンダーソードが俺に戦えと導かない限りは……意味の無い突撃はしたくない。
ただ……エロッチが起こした奇跡でリーサを救えた手前、俺もリーサに相応しい武勲をあげたいという気持ちが無い訳じゃない。
タコと同等、もしくはそれ以上の強さを持っていると言われるブレイスリザードを倒して初めて俺はリーサが憧れる英雄になれるんじゃないかって考えはもちろん、ある。
……かなり調子に乗っている。
前の異世界に居た時の事を思い出せ。
自らの非力で大切な戦いで戦力外になった俺……無力を嘆き、力を欲した想い。
ラルガー流剣術は元より、剣術の才能に関して俺は平凡の域を出られずにいる。
忘れてはいけないし、自覚もある。
サンダーソードを手にしてから何もかも順調だ。
サンダーソードの加護でマスタリーを習得しているけれど、所詮は付け焼刃。
本物の刃にする為には日々の鍛錬が物を言う。
それはリーサやルーフェを見ていればおのずとわかってくる。
……だからこそ、俺は自身の強さを正しく理解しなくてはいけない。
死んだら次があるだなんて思っちゃいけない。
……話題を変えるかな。
「教官はどうしたんですか? 魔術学園の講師になったんでしょう?」
「あれは講習がある時だけだ。こっちも兼任でやっている。何分魔術学園で戦士の育成なんてできないからな」
「やや難しい立場に聞こえますね。本音としては戦士の育成がしたいとかですか?」
「まあ……そうだな。ただ冒険者として戦士とはどういうものか、というのを魔法使い達に教えるのは後々役に立つ。何にしても全ては冒険者全体の為だな」
なんとも立派な人だなぁ。
確かにあの調子だと魔法使い達は戦士達と仲良しって訳ではないだろう。
その辺りを少しでも緩和出来たなら、冒険者達の平均レベルを上げる事に繋がる。
「国の兵士への推薦なんかも受け持っているぞ。お前はなる気はないか?」
アルフレッドも似た感じで俺を勧誘したっけ。
「生憎とないですね」
「そうか……まあ良い。今度酒でも飲むか?」
「良いですね。今日は予定があるので難しいですが、今度再会を祝って飲みましょう」
リーサに飲みに行かないのか? って尋ねられた事もあるし、たまには豪快に冒険者風に飲むのも良いかもしれない。
……泥酔はしない範囲でね。
イストラの街の酒はどんなものかな。
前の異世界だといろんな酒があった。
あんまり飲んではいないけど各地の酒の違いくらいは理解しているつもりだ。
日本の酒を飲んだ覚えのある人からしても味が良い酒ってのは結構あった。
もちろん……酷い物も無い訳じゃないけどさ。
汚い表現になるくらいの代物を水代わりに飲まなきゃいけない時もあった。
水の悪い所ってそういうのがあるから厄介だ。
その点で言えばこの世界の飲み水は魔法で出せたりする分、良い。
いろんな意味で楽しみだ。
「うむ」
なんて世間話をして手頃な依頼を見繕う。
あ、ルーフェが狩りをする際によく狙っている魔物であるホーンバイソンの狩猟を発見。
報酬は一頭、銀貨5枚か……肉を込みだからだろうし肉の品質により上下ってある。
完全に肉目当てで間違いない。
結構良い肉なんだな、これ。
ルーフェが当然のように近所に振る舞おうとしたりしていたから驚きだ。
しかも本来の生息地域は少し遠い。
よく見つけたな。
……台車をルーフェに引かせて三、四頭持って帰れば結構な稼ぎになる。
ルーフェの食料にも出来るしな。
リーサの氷魔法に使ってもらって凍らせれば品質もしばらくは維持できるから、手頃な依頼だな。
本当に余ったら孤児院の子達にも振る舞えば良いか。
俺はこの依頼を受ける事にした。
「お? もう決まったのか?」
「ええ、家には色々と飢えた者達がいるので」
リーサは冒険に飢えていてルーフェは胃袋的に……ルーフェって腹減ったとか騒いだ事はないな。
ルーフェはなんか食いしん坊的なイメージがあった。
魔物だからかもしれない。
そもそも腹が減ったのなら自分で食べるだけの知能がある。
どちらかと言えば押し掛け女房アピールの方が印象的か。
まあいいや。
「面倒見の良い事だな。紫電の剣士は」
「はは、二つ名なんて授かって嬉しい限りです」
前の異世界じゃドケチとかサンダーソードマニアとか節制の剣士とかのニックネームが付いていたっけ。
それに比べれば遥かにかっこいい。
別にサンダーソードマニアは嫌いじゃなかったし、今も変わらないつもりだけどさ。
「後は……ちょっと魔石商人の所に……」
俺は魔石の買い取り商人の所に教官と一緒に声をかけに行く。
「いらっしゃい。おお! 紫電の剣士じゃないか」
「……あはは」
ちょっと苦笑い。
覚えられるのは非常に助かるんだけどさ。
仕事を紹介してもらったりできるしね。
「今日は何の用だい?」
「魔石の買い取り注文とかここで出来るかと思ってさ」
「ああ、なるほどね……」
何か納得されてしまった。
ルーフェ関連って事を察しているのかもしれない。
「必要な魔石はドラゴンウォーリアーかい?」
「いや、そうじゃなく、まだ特定しきれてないんだけどさ」
「となると武具に使うタイプか」
一応、誤解させておいた方が良いかな?
ルーフェの項目を詳細に確認できると言うのを広めるのはちょっと危険な気がする。
「ええ、念のため確認と思いまして」
「なるほど、ここは買い取り専門だが、その手の店を紹介できない訳じゃない。紫電の剣士には街の被害を抑えてもらったって話だからねぇ。色々と紹介出来るよ」
「ありがとうございます」
「用事はそれだけかい?」
「いえ……実はこの魔石を見てほしいのですけど……」
俺はとある魔石を出す。
「……前の事もあって嫌な感じがするな」
教官が少しばかり眉を寄せている。
マッドスクリームオクトパスの時の事を言っているんだろう。
「そんな変な代物じゃないですよ。金の関係で査定してもらうだけです」
「はいはい」
そんな訳で……俺が渡した魔石なのだが……まあ、結果的にいえば教官がため息を吐く事になった。
「ま、がんばれよ」
「ええ、この街で良い店ってどこか知ってます? 日が浅いから詳しくないんですよ」
教官に良い酒が飲める店を訪ねてみる。
これで伝わるはずだ。
若干ぶっきらぼうに答えるのが良い。
「それはこっちも同じだ」
「そうでしたね」
わかってた。
「次に飲みに行くまでにギルドの連中に聞いておく。楽しみにな」
「ええ、それじゃ」
う~ん、なんとも充実している気がする。
こう……何不自由のない緩やかな日が過ぎていく感覚が俺は嫌ではない。
昼間はちょっと騒ぎがあったけれど、問題ないと言える範囲だ。
ちょっとルーフェが危なかったともいえるけど……ね。
あの生徒は……何と言うかトラブルメイカーな匂いがするから注意しておいた方が良いかもしれない。
警備員的にもな。
なんて感じでギルドでのやり取りを終えて俺は家路に付いたのだった。




