ハーバリウム
「そもそも必要な魔石なら魔石商人に聞いてみるのも手じゃろう。武具に特定の魔物の魔石を装飾して力を引き出したりするからのう」
魔石と言うのは燃料以外にもいろんな用途に使われるらしい。
リーサに上げた杖に使っている魔石もその恩威があるのか、リーサが杖を使って魔法を唱える飛んでいく魔法の速度が上がっていた。
威力も上がっているとリーサは言っていたっけ。
どうやら魔物の種類によってこの辺りの恩威は変わるそうだ。
俺の持っているサンダーソードだって魔石を嵌める事で形状が変わるもんなぁ。
ここは変わらないか。
「そうですね。少し尋ねて見ます」
「うむ。後はそうじゃな……リーサ殿と一緒に近隣でも良いから冒険に出るのもいい刺激になるのではないかの?」
「ええ、色々と活動的に行きますよ」
どうもリーサを中心に行動しているし、安全な仕事って考えから学園の警備員の仕事とか請けちゃってるのもあって冒険なんかが遠くなってしまっている。
今度、総合ギルドとかで良さそうな仕事を探そう。
魔物の生息域とか細かい所は人に尋ねるよりも調べた方が波風は立ち辛いかな?
世間知らずだって思われないようにしなきゃいけない。
じゃないと色々と面倒だし、覚えて置いて損も無い。
早く俺もこの世界に馴染めるようにがんばらねば。
なんて感じで俺は警備の仕事の合間にイストラの街近隣に生息する魔物の図鑑等を大きな図書室で発見して調べたのだった。
スケッチ付きの奴でわかりやすくて助かった。
名前くらいなら俺も読めるようになってきたもんな。
後は魔術学園にある蔵書内にある魔物図鑑をある程度目を通してルーフェの変異に必要な魔物に当たりをつける事にした
。
当たりをつけるのには今日だけじゃ無理だろうなぁ。
お?
これは薬草学の本……錬金術とかも混じっているみたいで、ハーバリウムみたいな物があった。
……そういえばナイトグロウをどうしたらいいだろうか?
花が落ちてしまったナイトグロウなのだけど、まだ辛うじて萎びずにいてくれている。
夜に光って綺麗だからと後回しにしてしまっていたのが痛い。
サンダーソードでちょっと電気を流すと光が強まって長持ちしてくれているんだ。
そろそろ……何かしらに加工した方が良いはず。
冒険に使える物が良いかと思ったけれど家の調度品にするのも良いかもしれない。
俺はその薬草学の本を持ってレナさんに声を掛ける事にした。
ちなみにレナさんは得意としている薬草学等の関係で午後の時間は学園の菜園にいる事が多い。
えっと、レナさんは……いた。
まだ帰っていないみたいだ。
「レナさん」
「はい? あ、チドリさん、どうしました?」
「ええ、レナさんなら詳しいかと思ってお尋ねしようと思いまして」
俺は見つけた薬草学の本にあるハーバリウムみたいに瓶に薬草を詰めてオイルに浸す技術のページを開く。
「これを前もらったナイトグロウで漬けようと考えているのですが、俺でも出来るでしょうか?」
「ちょっと待ってください……ああ、薬草のマジックオイル漬けですね。日持ちが良くなりますから良いですよ。やり方もそんなに難しくないですし」
「いや……その……」
インテリアに良いかな、となんとなく言いだし辛い雰囲気になった。
薬草を何だと思っているんだって言われそう。
「すみません。記念にもらったナイトグロウを押し花にするより綺麗かなと思いまして」
「ああ、なるほど……ふふ、別に怒ったりしませんよ。確かにオイル漬けにしておしゃれな瓶に入れたら綺麗なインテリアみたいですよね。成分も溶けたら魔力に反応してしばらく発光しますし」
本当、シュタイナー氏もレナさんも丁寧で優しい人だよなぁ。
「学園にある機材を提供しましょうか?」
「いえ、さすがにそれは甘えすぎだと思うので、材料を売っているお店を教えてくれれば良いです」
「気になさらなくても良いのに……」
「そこはけじめですよ。なんでもタダで見るとなると、それが当然になってしまいますから」
学園内の蔵書や知識とかは、俺が警備をしていたりデスペインの行軍を止めた事による恩賞が大きい。
だけどそれを無視してなんでもタダでもらったら、それが当然になり俺自身の、引いてはリーサの立場を危うくしかねない。
サンダーソードを買う為にドケチを貫いた俺だからこそ、ここはしっかりとしておかなきゃな。
「そうですか? じゃあ、私のお勧めのお店を紹介しましょう」
「レナさんを連れていくと大幅にサービスさせて悪い事になりそう」
「そこまでじゃないですよ。じゃあ行きましょうか」
「はい」
思わぬ所で金が減っていくな。
サンダーソードを購入する際に癖になっていた貯蓄癖が出そうだ。
なんて感じでその日の警備の時間を終えて俺はレナさんと一緒に紹介された薬草を取り扱う薬屋でマジックオイルと綺麗な瓶を買った。
やっぱりと言うかレナさんの顔の広さでオマケをしてもらった。
なんとなく申し訳ない。
そう思って頭を下げて苦笑いをしているとお店の店主をしている老婆の人が俺に微笑んでくれる。
「孤児院の子達を助けた紫電の剣士様にはお安くしないとねぇ。名を語らずに来られた方が困ったわ」
「と言う訳ですから、チドリさんも気にしなくて良いんですよ」
「マジックオイルと瓶だけで良いのかい? もっと良い薬なんかもあるよ?」
「必要になったら買いに来ます。このお礼はいつか必ず」
「そんじゃ機会があったら頼むとしようかね」
と言うわけで材料は確保できた。
「チドリさんはこの後、帰宅ですか?」
この足で帰るのも良いけれど……
「ついでに総合ギルドに寄って依頼を探してみようかと思っています」
「そうですか……私は孤児院の方に予定があるのでここでお別れですね」
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、リーサちゃんと一緒に楽しく作ってくださいね」
と言う訳で、総合ギルドへ。
少しばかり文字は読めるようになった俺は総合ギルド内にある依頼掲示板に目を通す。
最近は大分目も肥えてきたというか難しいかどうかの依頼の判別が付くようになった。
何だかんだ足繁く通うのは無意味ではない。
この辺りは前の世界での冒険者としての経験が役に立つ。
例えば……このブレイスリザードの討伐という依頼。
依頼書が物凄く古くて誰でも請けられるように何枚も貼りつけられている代物だ。
どうもイストラの街からかなり遠い火山に生息する重危険指定の魔物らしい。
これ等の情報は、このブレイスリザードという魔物が額面以上に危険である事を示している。
安易に受けて良い依頼ではない。
「ん? そこに居るのは……」
「あ、教官」
ホルツ教官が俺に声を掛けてきた。
リーサ達への講義が終わってギルドの方に来たって所かな?
「また会いましたね」
「ああ。で、何見てるんだ?」
「特に何かを見ていたって訳じゃないですよ」
そう言いつつホルツ教官は俺の前にあるブレイスリザードの討伐依頼の束に視線を向ける。
「ブレイスリザードか?」
「危険な依頼みたいですね」
「そりゃあな。この辺りは元より国中で募集している超危険依頼だ。報酬もその分大きい」
言われて報酬欄を確認。
これくらいなら読めるようになったぞ。
おお……金貨60枚近い。
あのタコの討伐報酬以上の依頼だ。
一攫千金を狙うならコレって位の高額だ。
「マッドストリームオクトパスと同等、もしくはそれ以上と言われているが実際の強さに関しちゃ測定されきっていない」
「随分と報酬が高いんですね」
「過去に国の騎士団が部隊を率いて挑んでほぼ壊滅されたのは有名だ。その件もあって賞金額が跳ね上がった」
へー……それは高値になりそうだな。
前に居た世界だと騎士って貴族の三男とかが就く事が多くて、その影響で死人が出たりすると賞金額が上がるんだよ。
人間同士の争い……もっと程度が低い物だと盗賊に捕まった騎士が金銭で引き渡し、なんていうのも割と珍しくなかった。
平民はあっさりと殺されるのに騎士は生き残りやすい理由だ。
尚、男の話だという事を補足しておかないと、戦いに身を置かなかった異世界人仲間は勘違いする案件だった。
そもそも女騎士ってあんまり居ないんだ。
少なくとも俺は接点が無かった。
ちなみに邪神にも賞金があったんだけど、同じ日本人の仲間が物凄い討伐報酬をもらっていた。
地位や名誉も思いのままってね。




