入学祝い
リーサは杖を渡されて両手で持って黙って俺達を見上げてくる。
「上手く使いこなしてくれると嬉しいな」
「どうして……そこまで?」
「そこまでって言われるほど凄い物を俺はあげたつもりはないかな。入学祝いだよ」
何言ってんだ? って顔を魔女っぽい人にされたけど気にしない。
だってパープルトロンボーンオウムはサンダーソードで苦戦もせずに倒せた相手だし。
ちょっと杖の素材の値が張ったけど、元々リーサの為に使う予定だったお金から出しているから何の問題も無い。
「別に俺はね、リーサがロッドクラスに入学しても、不合格でもその装備は買い与えたよ」
「え?」
「だってね……リーサは俺を支えたい魔法使いなんでしょ? 仲間なんだから受け取ってほしいな」
リーサは俺を支えられる魔法使いになりたいって言っていた。
だから俺がリーサに出来る事と言ったら、別に焦らなくても仲間なんだって安心を与えてあげる事だ。
「この前も助かったからね。そろそろ本格的に良い装備を付けてもらわないと、この先大変かもしれないしね?」
「チドリさんは装備を変えて無い」
まあ、俺は未だに前の世界から使っている革鎧だけどさ。
武器はサンダーソード一本で行くって決めているから不要だ。
精々靴とかグローブとかの品をどうするかって所か。
「俺の装備は元々それなりに良いしね。まずはリーサの装備を固めようと思っているんだ。それにまだとっておきの素材があるじゃないか」
ちょっと思わせぶりな態度でリーサに何を指しているのかを誘導してみる。
「……」
リーサは黙っていたけれど、何なのかを理解したのか頷いてくれた。
そう、まだエアクリフォから貰った水龍の鱗が俺とリーサの手元に残っている。
いい加減、どこかで装備の材料とかに使おうと思っているんだけど、相応しい職人に預けた方が良いだろうと俺の冒険者としての勘が告げている。
シュタイナー氏辺りに相談するのしても品が品だし、提案し辛い。
どこかで良い工房とかを見つけるか。
最悪、俺が手縫いで鎧とかに縫い付けるのも考えておくべきか。
素材を生かせる自信は無いけどね。
ただ……水龍の鱗もリーサの装備に使ってあげたいと思うのは過保護かな?
少しくらいは俺の装備に使わないとさすがのリーサも怒りそうだ。
けれど、俺の説得を受けてリーサも納得してくれたのか素直にうなずいてくれた。
「わかった。ありがとうございます。大切に、使います」
気のせいじゃないと思うけど、リーサの表情が少しばかり明るくなったと思う。
これで落ち込んでいたのが治ってくれると良いな。
「うん。とりあえず腕輪のように定期的なメンテナンスはしないとダメだからね。服の方は定期的に洗濯だね。やり過ぎるのもよくないから程々に、だけどね」
「うん」
「少なくともルーフェの洗濯に出しちゃダメだよ?」
最近ルーフェは家事をやりたがっている。
桶に水を入れて俺やリーサの服を水洗いするのに夢中だけど、まだ慣れていないのか、ちょっと縮んだり痛んだりしてしまう。
技能は割り振ったので反映されているはずなんだけど、どうも怪しい。
もしかしたら即座に反映される物とされない物があって、されない物でも即座に反映しているように見えるのは事前の努力とかが積み重なっているのかもしれない。
電気マッサージの奥深さを感じさせてくれる。
物わかりの良いリーサは頷いてくれた。
さすがにルーフェも凄く良い素材で作られた服とかを雑に扱う事は無いとは思うから大丈夫だとは思うけどさ。
「それじゃあ会計をお願いします」
「はい。リヴェル魔術学園での生活を楽しんでね」
と魔女っぽい店員がリーサに微笑んで言う。
「はい。ありがとうございます」
「うふふ。未来の偉大な魔法使いになる第一歩よ。がんばって!」
そうして俺達は品物の代金を払い店を出たのだった。
他に必要な品々は学園にある業者からの購入だった。
帽子は学生の証って事で後日購入するそうだ。
何だかんだ必要な物は多いけれど、リーサにとって掛け替えのない日々になるのは間違いない。
ともかく、こうしてリーサの装備は借り物ではなくしっかりとした代物になったのだ。
「ルルーン! チドリ、リーサ! おかえりー!」
家に帰るとルーフェがさっそく出迎えてくれた。
……なんか、庭に用意してある釜がちょっと豪華になっていて、肉の焼ける良い匂いを漂わせている。
「試験、どうだった?」
「……よかったよ」
若干の沈黙の後、リーサは答える。
「ルルーン! よかったー!」
ルーフェが我が事のように体を使って喜びを表現するように庭で跳ねまわっている。
それから俺達の元に駆け寄って尻尾で体を巻きつけるようにじゃれてきた。
「今日、チドリとリーサいなくてルーフェさびしかったー。早くお祝い。ごはん食べよー」
「そうだね。じゃあルーフェのお手製料理を御相伴しようか」
「うん」
補足で言うと……ルーフェの肉料理の腕前が上がっている。
原始肉的な焼肉ケバブから、ソース付きローストビーフみたいな感じの進化だ。
ご近所さんから教わったと言っていたけれど、それを庭にある簡易竃でやったと思うと成長を感じさせてくれる。
食後は買った装備のお披露目としてリーサが着替えて見せてくれた。
若干照れくさそうにしていたけれど、似合っている。
やっぱり美少女に良い服を着せるのは目の保養だね。
……別にリーサが美少女だから可愛がっている訳じゃ……ないと思いたい。
「ルルーン! リーサ可愛い!」
ルーフェがリーサをパチパチと手を叩いて褒め称えている。
そういやルーフェにも何か買って上げた方が良いのかな?
ルーフェが欲しがる物を買ってあげる程度の余裕はある。
「ルーフェも何か今欲しい物ある?」
「ルル?」
俺はルーフェが持っている斧に目を向ける。
長く使っているのか所々ボロボロだ。
魔物用の斧なのかな?
いったいどこでああいった装備を手に入れるのだろうか?
生まれた時から持っているとかかな?
買い与えても良いのか判断に悩む。
大きいし高そうだけどさ。
「ルーフェ、小さくても良いから包丁ほしい」
「……ああ、後で家の中にある物を持ってくるよ」
一応、生活に必要だから買ってある。
適性価格の極々普通の包丁だけどさ。
ただ、そうじゃなくて……。
「それ以外だと何かないか?」
「ホウキほしい。庭のお掃除に使う」
「……」
うん、ルーフェに戦闘用の装備を望む発想は無いみたいだ。
家庭的になりたいって所が一貫していて清々しい。
サンダーソード一筋の俺も理解出来るぞ。
可愛いけどさ……なんか間違っている気がする。
「……がんばって行こうね」
「ルルーン!」
リーサがそんなやり取りを見て、無表情だけど笑っているような気がした。
まあ……良いか。
ゆっくりとした、とても心地良い時間を過ごしているようだ。
こうしてリーサの入学試験の日は過ぎて行ったのだった。




